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Lovers High  作者: ショコラ*
第一章 足枷
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動き出した歯車


 ぼんやりと物思いにふけっていると、再び携帯が鳴る。今度はメッセージの着信だ。落ちこんでいたせいもあり、差出人を見たときの喜びは大きかった。


『今日は二度も会えて嬉しかったよ。何か困ったことがあったら、いつでも呼び出して。飛んでいくから!』


 さすがはセイ。飛んでいくだなんて、出会ったその日になかなか言えるものじゃない。こんなに心をつかんでくるなんて……本当にずるい。意志とは関係なく、胸がドキドキしてしまう。

 ルイにバレたら大変なことになるし、これ以上夢中になってはいけない――そう思うのに、衝動を抑えるのが難しい。セイからのメッセージを、あきることなく何度も読みかえしてしまった。



 まどろみから、ゆっくり意識が覚醒していく。周囲では気持ちの良いせせらぎの音と、小鳥のさえずる声がしていた。目を閉じたままでも背の高い木々の葉が揺れ、その向こうに青い空が広がっているのを思い描ける。

 ひんやりとした土の上で、私はじっとしていた。体がひどく重い。


『目を開けてくれ……』


 ふと、そんな声が聞こえた。誰かが私の左手をそっと包んでいる。確か手の中には、2輪の青い花が握られていたはず。


『君なしで、どうやって生きたらいい?』


 ああ、泣かないで。

 約束したじゃない。私たちはずっといっしょだと――


『愛してる……愛してる……』


 泣かないで。

 愛おしさがあふれだし、胸を締めつける。


『俺を……置いていかないでくれ!』


 その声があまりにも悲しそうで、少しでも応えてあげたくて。最後の力振りしぼり、目を開く。

 すると想像していた通りの森の中、あなた(・・・)は金色の髪を風になびかせていた。美しい瞳で、じっと私を見つめて――



「んん……」


 ピピピ……という不快な電子音で無理矢理起こされる。寝返りをうつと、カーテンの隙間から朝日が差しこんでいるのが見えた。

 頭が痛い。なんだか長い夢を見ていた気がするし、熟睡できなかったのかもしれない。

 ため息をつきながら嫌々起き上がり、カーテンを開けた。太陽の明るさが目にしみて、頭にガンガン響く。


 なんとなく体がだるかったけれど、朝のルーティーンで洗面所へ向かい、身支度を進めていった。ある程度整った状態でリビングに入ると、室内はシンと静まりかえっている。

 そういえば嵐は、朝一で用事があるって言ってたっけ。


「うわ、やば」


 時計を見れば、家を出なければならない時間が迫っている。今日の2限は遅刻に厳しい教授だ。仕方ない、朝食は大学に行ってから適当に買おう。

 急いで身支度を済ませた私は、慌ただしくマンションを出ていった。




「あ、ギリだ」

「おはよーユウ」


 講義室に入るなり百合と涼子が手を振ってきて、小走りで彼女たちのもとへ向かう。


「おはよう」

「レポート終わった?」

「うん、なんとか」


 いつもの教室、いつもの友達。それなのに……どうしてこんなに落ちつかないんだろう。昨夜嵐といっしょにいたときは、ここまで違和感がひどくなかった。日常だったはずの風景や周囲の存在が、無性に遠く感じてしまう。


 ――ああ、会いたい。

 無意識にそう思ってぎょっとした。頭の中に浮かんでいたのはリネとヒロ、それからセイの顔。リネの微笑みが、ヒロのまなざしが、セイの声がたまらなく恋しい。

 彼らと対面しているときの、あの不思議な感覚の正体はなんなのだろう? 自分自身の心がわからない。


「――ねえユウ、聞いてる?」

「あ……、ごめん。聞いてなかった」

「ちょっと、友達なくすぞ」

「そうだよ。ただでさえ目を付けられ始めてんのに」

「え?」


 意味がわからず、百合があごで示した先を目で追う。改めて周囲を見てみると、講義室のあちこちから視線を向けられていた。


「昨日、スターたちに近づいちゃったから」


 肩をすくめる涼子。


「もう西崎さんとかと関わるのやめなよ? 次元が違うもん」


 その言葉を聞いた瞬間、胸がズキンと痛んだ。リネたちとの間に引かれた境界線に対して、憤りに近い不快感を覚える。


「……無理」

「は?」

「え?」


 考えるより先に口をついた言葉に、ふたりは目を丸くした。さらには私たちの会話を盗み聞きしていた人達がいたようだ。ぎょっとしたような……同時にムッとしたような無数の視線が、私に突き刺さる。

 それでも、どうしても言いたくなかった。もう彼らと関わらないなんて。


 幸いこのタイミングで教授が講義室に入ってきて、話は中断されたけれど。周囲に対して宣戦布告してしまったことに、今さらながら緊張感と恐怖を覚えてしまう。無意識のうちに携帯を取り出し、昨夜のメッセージを読みかえした。文面だけ見れば、当たりさわりのない内容だ。それならこの「運命」のような強烈な感覚は、私だけが抱いているんだろうか。


 百合や涼子が言うように、私は彼らとは遠い世界の人間で……今回の出逢いは偶然の産物に過ぎず、メッセージも社交辞令に過ぎないのだとしたら――

 考え始めると、吐き気を覚えるほど不安に駆られる。

 ……確かめたい。もう一度、彼らに会いたい。


 普段は優柔不断な方なのに、このときの私には迷いがなくて。今日のお昼は、いつも彼らがいるという3号館のカフェに行こうと決心した。



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