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Lovers High  作者: ショコラ*
序章α どうして私?
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噂の彼ら


序章α『どうして私?』



 私の顔は多分、特別きれいというわけでも、醜いわけでもない。頭も悪くはないけれど、優秀でもななくて……とにかく平凡な人間だった。

 人並みに遊んで、笑って、時々は恋をして。そういう普通の日々が続くと思っていたから、時々思う。もし私がすべて(・・・)を忘れたままだったら、どんな人生を送っていただろうって。


 ――ううん、結局は同じ道にたどりついたのかもしれない。

 だってこの運命だけは、誰にも譲れないから。






「ユウー、今日お弁当? 私学食行くんだけど」

「あ、私も今日は買う日! いっしょに行こう」


 教授が講義の終了を告げるなり、講堂は一気に賑わった。2限のあとは、待ちに待ったランチタイム。自由時間だと思うと、どうやっても拭えなかった眠気が吹き飛んでいくから不思議だ。

 右隣に座っていた涼子(りょうこ)も同じようで、講義中突っ伏して眠っていた姿から一転、今では生き生きとした様子で荷物をまとめている。


「最近涼子、寝過ぎじゃない? 単位落とすよ」

「昨日バイト上がるの遅かったんだよー、店長が帰してくれなくってさ」


 私を学食に誘ってくれた百合(ゆり)はあきれたように涼子を叱りつつ、さっと立ち上がる。私は自分を挟んで会話するふたりに笑いながら、講堂の窓越しに外を眺めた。


 ――まだ寒いけれど、時折春の気配を感じられるようになった2月下旬。大学に入学してから、早くも1年だ。高校より長い講義時間にも、私服での通学にもすっかり慣れた。彼氏とは自然消滅しそうだけれど、今は女友達といる方が楽しいし問題ない。

 変わり映えしないものの、退屈というわけでもない毎日に私は十分満足していた。


「今日はなに食べようかな」


 食堂脇にある学内コンビニに入った私は、チョコデニッシュとサラダを片手に飲み物を探す。


「ユウ、それで足りんの? ちゃんと食べなよ、甘いのばっかじゃなくてさ」

「えー……ダイエット中だし」

「まずチョコやめろ」

「涼ちゃんの意地悪」

「今のは涼子が正しい」

「百合まで!」


 3人それぞれ会計を済ませると、広い食堂へと歩いていく。中に入れば早くもほぼ満席で、隅の方に数席空いているだけだ。人をかき分けながら空きのテーブルにたどり着き、ようやく重たいバッグを下ろす。そのとき百合が、あっと声を上げた。


「ちょ……っ」

「どした?」

「百合?」


 一点を凝視する百合を振りかえり、怪訝そうな顔をする涼子。首を傾げる私。


「み、見て! あれ!」

「どれ……あぁっ!」

「え、なになに、どれ? ねぇどれ!?」


 興奮したように指をさす百合と、ぽかんと口を開けている涼子を見て、何だろうとあせる私。自分も同じ方向を見るけれど、なかなかその原因が見つからない。でも数秒後、前にいた男子の集団が通りすぎていった瞬間すべてが明らかになった。


「……なあに、あれ」


 これだけ人で溢れかえっている食堂内に、不自然に1ヶ所だけ、人が寄りつかないテーブルがある。

 それを確認した瞬間、なぜだか私の体には電流が走ったような感覚が走り抜けた。困惑しながら発した声も、妙にかすれてしまう。

 視線の先のテーブルを囲むのはふたりの男の子と、ひとりの女の子だった。


 男の子のうちひとりは黒髪で、つまらなそうな顔で片肘をつき、時々相づちを打っている。ジーンズにYシャツというシンプルなコーディネートなのに、雑誌で見るモデルさんよりもずっとオシャレで格好良く見えた。少し気難しそうだけれど、それも含めてすごくモテそう。


 そんな彼の正面にいる女の子は、「花が咲いたような」なんて表現がぴったり合う笑顔を浮かべていた。ダークブラウンのストレートなロングヘアに、露出の少ない上品なワンピースを着ている。いかにもお嬢様って感じ。ぱっちりとした瞳は可憐ながら凛とした空気もまとっていて……媚びた雰囲気は全然ない。多分、同性にも人気があるタイプ。


 最後に、もうひとりの男の子。彼は柔らかなチョコレート色の髪を遊ばせ、一見プレイボーイみたいな雰囲気を漂わせている。クールな黒髪の男の子とは対照的に、優しげな顔立ちをしていた。ふわりと浮かべている微笑みは王子様のような甘さがあり、あんな顔で口説かれたら落ちない女の子なんていない気がする。


 そんな目立つルックスをした3人は、それぞれのカラーで周りを魅了していた。けれど3人いっしょにいることで迫力が増しているのか、誰ひとりとして彼らに近づく様子はない。

 

「きれいな人たちだね……モデルか何かなの?」


 私がつぶやくと、涼子と百合がぐるりとこちらを振りかえる。


「はぁ!? マジで言ってんの、それ」

「え、なに?」

「なんで知らないんだよ、ユウ。逆に信じらんない」

「あれだけ有名なのに。でもまあ、ユウらしいか」


 うろたえる私に対し、ふたりは口々に彼らの情報を教えてくれた。


「超有名だよ! うちらと同学年の、神的存在!」

「黒髪の人は高谷(たかや)尋人(ひろと)、茶髪の人は長篠(ながしの)(せい)、女の子は西崎(にしざき)利根(りね)

「いっつも3人で行動してるんだよ」

「3人の素性を知ってる人って誰もいなくって、超ミステリアスなんだよね」

「ていうか誰も寄せつけないらしいよ? 特に利根さんには男を、尋人くんと誠くんには女を、お互いに近づけさせないんだって!」

「意味深だよねえ……三角関係だとしたら、ベッタリ過ぎるし」

「うん、何で2対1なんだろ。実は3人で付き合ってたりして!」

「やめてよ百合! あんなきれいな人たちだと、普通にありえそうで怖い!」


 吹き出しながら、百合を叩く涼子。ふたりがはしゃいで会話している間も、私は彼らから目を離せなかった。理由はわからない。でも見えない引力で、私の意思と関係なくあっちに魅きつけられているような……不思議な感覚。周りのテーブルが空席になるほど排他的な空気があるのに、なぜかあそこに行きたいと思ってしまった。

 私、そんなにミーハーでも面食いでもないんだけどな……


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