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幕末最前戦の戦士たち  作者: コトハ
はじまりは夢の中で
9/54

新設!救護班三

チチッ


鳥の鳴き声………


朝ってどうしてこんなに早く来るんだろう


あと五分だけ寝よう……


「………福田君」


「……あと五分だけ…」


「福田君!」


「もう……お兄ちゃん起きてるから、先にご飯食べてて」


「……寝ぼけてないで離してくれる?」


あれ?


目を開けると肩肘ついた沖田さんが隣に寝ころんでる。


何で同じ布団で寝てるのかな?


「起きた?朝稽古が始まるから腕から離れて」


言われて気付いた抱き枕のように沖田さんの腕にしがみついてる!


「わぁ!すみません!!」


離れると同時に襖が開いた。


土方副長が立っていた。


「………こりゃあ、お邪魔だっか?」


「え?違います!今起きたら沖田さんが隣にいて!!」


何か誤解されたよね!


絶対!!


「ちょうどよかった。こいつ寝ぼけて、あっちから転がってきて、離れないから、どうしようかと思ってた所でした」


え?


そうなの?!


「そうか。悲鳴が聞こえたからてっきりなあ…」


土方副長はこっちを見てにやり笑った。


その笑顔に胸がどきりとした。



「福田君も早く着替えて表においで」


沖田さんはいつの間にか着替えて、雨戸をがらがら開けている。


「そうだな……福田君も少し鍛えた方がいいかもな」


土方副長がつぶやいて白い布を手渡された。


「何ですか?これ…」


「さらしだよ。巻いといた方が無難だろ?」


「無難?」


「って、近藤さんが」


「ああ!胸に巻けってことですね!ありがとうございます!」


土方さんはぽかんとした表情で


「………お前変わった娘だな。近藤さんは、福田君のどこが気に入ったのか検討もつかん」


毒舌吐いて出て行った。


土方副長って何気に傷付く一言吐くよね。


今度は胸がミシリと痛んだ。



もう二日も着ている着物と袴を着けて髪を結び直す。


服とブラシもいるよね。


お風呂も入りたい。


まだ寒さの残る朝霧の中、竹刀の音がする方へ歩いていく。


前川邸の土間の近くの庭で土方副長が剣道の胴着を着て待っていた。


「福田君。防具はつけられるか?」


「………つけられません」


「手伝ってやれ」


近くにいた隊士に胴を着けてもらう。


あれ?


このかわいい顔は確か昨日介抱した人だ。


「……もう大丈夫ですか?」


きれいな黒い瞳が見下ろす。


「はい。世話になりました」


面の紐をきゅっと引っ張る。


かわいいのに意外と背も高いし声も低い。


防具をつけてもらったお礼を言って竹刀を受け取る。


土方副長の前に立つと


「竹刀の握り方が違う」


「え?」


「こうだ」


手の間隔を広げられた。


「そのまま真っ直ぐ上に引き上げて」


「こうですか?」


勢いよく振り上げるとばんっと竹刀に何かが当たった。


振り返ると土方副長が額を押さえている。


「わー!!ごめんなさいっ!大丈夫ですか?!」


「……どこまで竹刀あげやがる。ここで止める」


「はっはい!」



怒ってる!


絶対怒ってる!!


「足!振り下ろすと同時に前!」


「はい!」


「そのまま百回」


「はっはい!」


そう言って土方副長は他の隊士の所へ行ってしまった。


「八、九、十!………」


ちらりと土方副長の方を見ると額が赤く膨れ上がっている。


後で薬持って行こう……



朝稽古が終わって赤くなった手を水で冷やしていたら、頭に手ぬぐいが落ちてきた。


「歳に一撃食らわしたそうだね」


近藤局長が思い出し笑いをしている。


「………怒ってました?」


「ああ、怒ってた」


「謝ってきます!」


「嘘だよ!」


「え?」


「それより、救護班に誰か入れようと思っているんだが……」


近藤局長は辺りを見回して一人の隊士を呼んだ。


「君!救護班をやってくれないか?」


あ!さっきのかわいい人


「……はい」


「じゃあ、後は頼んだよ。福田君」


いきなり頼まれてもどうしたらいいの?!


おろおろしてたら


「馬越三郎です。ご指導よろしくお願いします」


「あっはい!福田睦月です。よろしくお願いします」


二人でお辞儀をした


とりあえず八木邸に戻り朝餉を済ませた。


永倉、原田、藤堂、井上源三郎さんらに土方副長に一撃食らわせた件でからかわれた。



局長、副長が別室で食事中で良かった。


沖田さんと斎藤一さんだけ黙って黙々食事していた。


朝餉が終わって皆のお膳を集めていると、沖田さんが玄関から顔だけのぞかせて


「これから巡察に出るけれど、福田君は近藤局長の部屋に行っといて」


と顔を引っ込めた。


「はーい」


沖田さん今朝は面倒くさそうじゃないから

熱はなさそう


そう言えば………


今朝は一緒に寝てたんだよね。


家族以外の男の人と寝てたなんて、よく考えたら何てことを!!!


「………でも、沖田さんだとお兄ちゃんみたいで、全然どきどきしないんだよね」


顔も全然似てないのに…


これが他の人だったら………


「福田さん?」


「?!」


井上新左衞門さんの顔が急に視界に入って思わず悲鳴を上げそうになってこらえる。


女だってバレたらヤバい!


井上さんは私の持っていた膳を、半分持って


「近藤局長がお呼びですよ。救護班の事で話があるそうです」


………びっくりした。


気配が全くしなかった。


「分かりました。これ片付けたらすぐ行きます」


井上さんが手伝ってくれたので片付けもすぐ終わってしまった。


テキパキよく動く人だなぁ……


「さあ、急ぎましょう」


お膳もぴしっと並んで、いつもより厨(台所のこと)も洗練された感じ


「井上さんお料理とかも得意ですか?」


「はい。男のくせに好きなんです。家事。父がいないときに、こっそり母や姉の手伝いをしていました」


「いい旦那様になりそうですね」


井上さんは茶色の瞳を丸くして困ったような表情をした。


「そんなこと言われたの初めてです。大抵男のする事ではないと叱られるのですが」


「えー?私なら、絶対!井上さんみたいに、家事出来る旦那さんがいいな」


「お嫁さんでしょう?」


「ああ、間違い!お嫁さんです」


いけないいけない……


私は男だった。


「近藤局長はどちらに?」


「前川邸の夕べ泊まられた土蔵の隣の離れでお待ちです」


「昨日はありがとうございました。火鉢暖かかったです」


井上さんは黙ってにこり笑った。


そういえば、夕べ沖田さん達が話していた殿内って誰の事なんだろう?


井上さんはさっさと草履をはいて、玄関の外に出て行く。


慌てて草履を引っ掛けながら


「井上さん、殿内さんて人ここにいました?」


質問に井上さんは、少し表情を暗くして


「………いえ、江戸から一緒に来られた方だとは近藤局長にお聞きしました。共に京に残られたそうですが、意見が合わず今は、別々の宿舎にいらっしゃるようですよ。その方がどうかしました?」


「………いえ。浪士組って他にもいたんですね。近藤局長たちだけかと思ってました」


「はい。そもそも、江戸で将軍警護のために募集されたそうですが、京に着いて急に上の方が、天皇の攘夷軍になろうっていいだして、江戸に大部分の方は戻られたそうですけど、近藤局長らは、初心を貫いてこちらにのこられたそうですよ」


「………へ~」


どうしよう。


全然知らない話題だよ。


「凄いじゃないですか!将軍警護してるんですね~」


「いえ………今は会津藩の預かりです」


………?何で将軍警護じゃなくて会津藩の預かり?


そもそも浪士組全部が新選組じゃないって今知ったよ。


他にもたくさん浪士組の人いたんだ………


「………あの、井上さんどうして将軍警護ではなく………」


「早く急ぎましょう!」


井上さんは駆け足で先を行く


………今度ゆっくり幕末の歴史の事聞いてみよう





前川邸に着くと、近藤局長と馬越三郎さんそれから芹沢局長が待っていた。


「おお!福田君。これを着てみろ」


芹沢局長にいきなり白い甚平みたいな着物を手渡された。


袖を通すとサイズはぴったりだ。


「ほれ。わしの見立てた通りだ。うん。立派なお医者の先生のようだぞ」


満足そうに眺めて、急に耳元で


「他にいるものがあれば何でも申せ。女子の着物でも何でもよいぞ」


芹沢局長お酒臭い……


「ありがとうございます。でも……」


浪士組ってお金に困ってるんじゃなかったけ?


「遠慮致すな!会津藩お預かり浪士組だ!そこの隊士がこんなよれよれを着ていてはいかん!」


確かにもう二日も同じ着物……


「浪士組の揃いの羽織りでも作らないかんな!旗もいるな?なあ、近藤局長!」


「はぁ…」


乗り気でない近藤局長を尻目に芹沢局長は上機嫌で屋敷に入っていった。


「芹沢局長が、どうしても、福田君に医者の格好をさせたいといって、作らせたんだよ」


「ありがとうございます」


近藤局長は困った顔で頭を掻いて


「気に入られてしまったのかな」


「え?」


ちょっとこいと、近藤局長は馬越さんと連れてきてくれた井上さんから少し離れて


「芹沢さんは酒を飲まなければ問題ないんだが……その、飲むと癖が悪くなる。わかるか?」


「?」


分からなくて近藤局長を見つめていると


「芹沢さんに呼ばれても、ひとりで部屋に行ったりしては行けないよ。芹沢さんだけじゃない。とにかく!一人でうろうろしないこと!」


「はい……」


「言ってること、分かってるか?」


「はい。でも、トイレとか厠?とかはいいですよね?」


「………うむ。走って帰ってきなさい」


何だか心配して下さっているようだけど


「まぁ、救護班よろしく頼むな。馬越君!君もよろしくな!」


少し離れた所で馬越さんは一礼した。







救護班と言っても病人がいなければ何もする事がない。


救急箱を持ってきて一通り薬の説明を馬越さんにする。


「それから、これが救急ガイドブックと言って、応急処置が書いてあります」


馬越さんは頷いてガイドブックを眺めている。


今日は誰も運ばれて来なくて平和だな……


巡察に出るって言ってたから稽古で倒れる人もいないか。


菜の花きれいだったなぁ


買い物行きたいなぁ


着替えがほしい


お風呂にも入りたいし…


ふと、馬越さんの視線を感じて顔を向けると、無表情のかわいい顔でこっちを見つめて


「芹沢局長と出来てるんですか?」


「え?」


「それとも、近藤局長?沖田さんとですか?」


「は?」


「俺はそういうの苦手ですから、先に言っておきます」


「……何言ってるか、訳分かんないんですけど」


馬越さんは相変わらずの無表情で


「男同士で付き合う、衆道ですか?皆さんと」


………何ですと!!!!


「違います!私は誰とも付き合ってません!!近藤さんは、行くところのない私を置いて下さっただけだし!沖田さんは、私の上司だし!熱があったりしたから、看病して同じ部屋で寝てただけだし!芹沢局長なんか!あんまりしゃべったこともないし!とにかく!!違いますから!全然!!」


何てこと言うんだ!!

こいつは!!!


馬越さんはあんぐり口を開けたまま暫く固まっていた。


それから急に笑い出した。


「あははは!申し訳ありません。俺そっちの人に良く言い寄られるから、そうだったら面倒だなと思って、言っただけですから」


まだ笑ってるよ…この人


「違いますから!」


「分かりました」


ふうと息をついて馬越さんは笑うのを止めた。


「では、救護班、ご指導よろしくお願いいたします」


畳に手をついて挨拶した。


私も慌てて正座して同じく手をつく。


「こちらこそよろしくお願いします」


……ぷっ


馬越さんの肩が震えてる


まだ笑ってるよ……


この人………



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