新設!救護班
沖田総司が横になったのを確認して襖を閉めた。
救急箱と刀の銀ちゃんセットを持って縁側に出てる。
救急箱を開けてみた。
救護班と言われても、救急箱の中には
絆創膏、消毒薬、湿布、ピンセット、ガーゼ、綿棒、包帯、のど飴、葛根湯、救急ガイドブック
こんなものしか入ってない。
今更ながら医者の見習いなんてウソついたの後悔してきた………
「刀で斬られた重症患者が運ばれてきたら………どうしよ………」
やっぱり逃げようかな?
刀屋さんでオマケに貰った、刀のお手入れセットを開けると
粉と紙、耳かきの梵天デカバージョンみたいなのが入っていた。
「福田ぁー!救護班!」
剣道の胴を着けたまま藤堂さんが庭に走り込んできた。
「隊士が気ぃ失っちまった」
「え?救急車呼ばなきゃ!」
「医者だろ!早く来てくれ!!」
ど………どうしよ!!!
寺の境内の中で隊士が一人仰向けに倒れていた。
永倉さんが側にしゃがみこんで、倒れた隊士をゆすっていた。
「水ぶっかけたんだが、目ぇ覚まさねぇんだ」
隊士は顔も髪も上半身びしょ濡れだ。
「どうしたらこうなったんですか!」
「新入りに激いれただけなんだけど、なぁ?」
と藤堂さんを見る。
「おう!こいつだけ最後まで向かって来やがった。なかなか見どころあるぞ」
とにかく!体育で習った人命救助の方法で!意識の確認をしてみる!!
「もしもし!大丈夫ですか?」
しゃがみこんで、隊士の頬を軽く叩いても応答なし………
息してるよね?
呼吸の確認!
顔の側に耳を近付けると
「……よかった。息してる。もしもし!もしもし!」
呼び続けると、瞼が痙攣して、ゆっくり目を開いた!
切れ長の黒い瞳に私が映る………
かっ……かわいい!
驚いて丸くなった目が子猫みたい!
「………俺…どうして……」
意外と声は低い。
「稽古中に倒れたんです。大丈夫ですか?」
「………ああ、申し訳ありません」
腕を支えて立ち上がらせると、また意外と背が高い。
「福田ー!頼んだ」
藤堂さんはほっとした顔で、面を着けた。
「はーい」
頼まれてもどうしたらいいのかな?
「とりあえず、部屋で休みましょうか?」
支えたまま見上げると、かわいい目が黙って見下ろしていた。
「歩けますか?」
「………菜の花好きですか?」
「はい?」
すっとんきょうな質問に困惑していると
「一人で戻れます」
と、寺を出ていった。
この後引き続き三人の隊士を介抱することになった。
………疲れた
隊士を部屋へ連れて行き、水を飲ませたり、手拭いで頭冷やしたり、思い付く限りの介抱をして、気がつくともう日が暮れる。
お腹すいた………あ!
忘れてた!
お土産に買ったお団子があったじゃない!
竃のある土間に降りたけど
「ない?!何で?!」
お釜のフタを取って中を確認………ない…
水瓶の中にもない!
「福田!お茶くれ」
「俺も!」
振り返ると永倉さんと藤堂さんの手に団子の串が……!
「福田も食うか?」
「それ、私が買ってきたのにぃー!」
隊士は気絶させるし!
団子は勝手に食べるし!
もー!!
急に頭がクラクラして目の前が真っ暗になった。
朝は納豆とご飯派の私。
お兄ちゃんはパンとミルクティー。
幼稚園の頃から毎朝お母さんは、どっちの朝ごはんにしようかと頭をなやませていたらしい。
ある日、お父さんの一言で問題は解決する。
「交互に作ればいいだろう?」
今朝は味噌汁の香りがする。
やったね!
ご飯の日だ。
目を開けると病院の白い天井。
「………目が覚めた………?」
ベッドの脇でお母さんが、荷物を大きな鞄に詰め込んでいた。
「おはよう。朝食が来てるけど食べる?」
「うん」
体を起こそうとすると、いろんな所が痛む。少しめまいもする。
お母さんはペットボトルのお茶をコップに注ぎながら
「睦月寝言がすごかったわよ?お兄ちゃんも言ってたけど、何の夢見てたの?」
「新選組の夢。新選組で救護班してたの」
お母さんは驚いた顔をして
「新選組?演劇部でやる沖田総司?」
「うん。私すぐには学校行けないよね?春の公演には間に合わないかも」
「そうねしばらく自宅で安静にって言われてるから。そうそう!夕べ遅くに久美ちゃんがお見舞い来てくれたのよ」
お母さんはベッドに食事用の机をセットして
「泣きながら謝ってたのよ。事故だったんだから気にしないでって言ったんだけど………」
そういえば、充が久美ちゃんとの殺陣で私は舞台から落ちたって言っていた。
でも、私はどうしてもそこが思い出せない。
舞台から落ちたのは覚えている。
でも、その前の記憶が、どの殺陣を誰とやっていて落ちたのか、全く覚えてない………
「自分で食べられる?」
お母さんがスプーンを渡す。
「箸で大丈夫だって!いただきます!」
箸を取ろうとしたけど、指先に力が入らなくて、箸が一本布団に転がった。




