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幕末最前戦の戦士たち  作者: コトハ
はじまりは夢の中で
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愛刀銀ちゃん!二

刀屋へ入り、店内を物色。


壁に掛けてあるのは高そうだな。


「沖田さん、これでもいいですけど」


束になって籠に差してある刀を取ろうとすると


「ああ、それあきまへん!お武家はんでしたら、こっちの軽い方が」


刀屋の主人が奥から一振り持ってきた。


沖田総司が受け取って、銀色の飾り糸の巻いた鞘から少し抜くと、ぎらり刀紋がのぞいた。


「きれい……」


刀から冷気が出てるみたい。


触れただけで斬れそう……


銀色の狼みたい……



沖田総司は鞘から完全に抜いて、片手で重さを確かめるように、刀を上げ下げして


「揃え一式でいくら?」


「へい。二十両です」


持ってきた風呂敷の中の小判は二十二枚。


私のお金じゃないけど、夢だからいいかなって持ってきた。


……買えるけど、高いのかな?安いのかな?


「無銘ですが、いいお品でっせ。他のお客さんの注文でしたけど、急にいらんようになった言われまして」


「手入れ道具もつけてくれる?」


「もちろん」


「脇差は?」


「冗談きついでっせ」


「じゃあいらない。帰ろう」


ぱちり沖田さんは刀を鞘に戻す。


「こんなに軽いと誰も買わないでしょう?斬ったら折れそう」


そう言って、刀を主人に返してしまった。


「え?買わないんですか?」


「予算が足らないだろ?脇差まで買えないよ」


すごく綺麗だったのにな……


後ろ髪引かれながら、主人に頭を下げて店を出ようとすると


「浪士組の皆さんの研ぎは、うちでお願いしますよ」


主人の言葉に沖田総司はにっこり答えた。


「もちろんです」


「おおきに」


え?


ぼんやり二人を見ていたら、沖田さんがため息ついた。


「二十両でいいってさ」


「え?」


お店の主人を見るとにこり笑った。


「これからもごひいきに」





買ったばかりの刀を腰に差す。


結構重いし腰骨にあたってちょっと痛い。


それから小判を一両、両替して残りは一両になった。


一両っていくらくらいなんだろう?


両替のときも、小さいお金にしてもらったけど

どれがいくらかわからない………


「一匁、一分、一厘……って、一両が何匁なんですか?」


両替のとき沖田総司に聞いたら


「お前なんにも知らないんだな………どこのお嬢さんだったんだよ……」


って、お店の人と呆れ返えられた。


沖田総司は教えてくれないから、帰って近藤局長にでも聞いてみよう。



夢の中で拾ったお金だけど、勝手に使って

ちょっと罪悪感が出てきた。


さっきみたいに見失わないように、沖田総司の後を小走りで着いていく。


あれ?さっきよりも歩くスピードが遅い。


「大丈夫ですか?昨日まであんなに熱があったから体きついでしょう?」


ほら!声をかけると迷惑そうにこっち見て、何にも言わない。


絶対熱がある!


「よし!銀ちゃんもゲットできたし帰ろう帰ろう」


「銀ちゃん?」


「はい。刀の飾り紐が銀色で、刃の模様も銀色で狼みたいだったから、銀ちゃんと命名しました」


まだ欲しいものたくさんあったけど、今日は帰ろう。


でも、お腹好いたなぁ………

あ!あの団子おいしそう!


「沖田さん!お団子だけ買って来ていいですか?皆のお土産にしましょう」


「はいはい」


お店の娘さんに、三色団子と小豆とみたらしかな?これ………を五本ずつ頼んだ。


「三百文どす」


三百文?


両替してもらったお金を、店先の長椅子にひろげた。


「すみません………ここから、とってもらっていいですか?」


後ろから沖田総司が慌ててやってきて、風呂敷からお金をとって娘さんに渡した。








八木邸に着くと、門の回りに初めて見る隊士がたくさん集まっていた。



「まだ、終わってなかったか……」


沖田総司はめんどくさそうにつぶやいた。


そんな沖田総司を見上げていると


「何か、隊士集めて集会やるらしい。出掛けている間に終わってなかったか………福田君は見付かると面倒な人がいるから、買い物の続きでもしておいで」


沖田総司は表情を硬くして先に入ってしまった。


「………刀買いに付き合ってくれたのって、そういうことか………」


えらくすんなり、付き合ってくれると思ったんだよね。


私のこと迷惑がってるくせに………


ああ、考えるとまたへこんできた。


でも、何の集会だろう?


隊士はぞろぞろ八木邸の門をくぐっていく。


私は隊士じゃないし関係ないか………


見付かると面倒な人って誰だろう?


町に戻って買い物の続きをしようきびすを返すと


「新しい隊士か?」


近藤局長と他に四人の隊士が歩いてきた。


その中で一番偉そうな隊士が


「こいつか?近藤局長の救護班は?」


近藤局長よりは年上だろう。


すごく威圧感がある。


テレビで観る政治家の先生みたいなオーラが出てる。


「はじめまして。福田睦月です」


頭を下げると


「まだ若いが医者の見習いでして」


近藤局長が困った顔して顎であっちへ行けって言ってる。


そうだね。私は居候だし女だってばれないように、目立たない方がいいもんね。


「……失礼します」


急いで立ち去ろうとすると、政治家みたいな隊士が


「今から大事な集会があるっていうのに参加しないか。ほら、ついてこい」


どうしよう


近藤局長は行けって言ってるし……


その場に立ち尽くして、近藤局長を見つめていると


「芹沢局長だ。会うのは初めてだったな」


近藤局長が本当に困った顔で、そう紹介した。


「こちらも局長の新見さんだよ」


芹沢局長の隣の隊士が胸を張った。


え!?


局長って三人もいたの!!




八木邸では、ふすまを外してひとつに広くなった部屋に、隊士達が集まっていた。


買ってきた団子をかまどのそばに置いて一番後ろに座る。


三十人くらいいるかな。



「刀取らないんですか?」


隣に座った隊士が、不思議そうに声をかけてきた。


「え?ああ!すみません慣れてなくて」


刀を差したまま変な格好で座っていた。


にっこり笑って前を向く。


何だか外人さんみたいな顔立ち。


背筋を伸ばした横顔は、なんだかとてもお育ちが良さそうな雰囲気。


「今から何があるんでしょうね?」


刀を置きながら話しかけると


「申し訳ない。私も先日入ったばかりで……」


「私もです。昨日入ったばかり」


「そうなんですか。井上です。井上新左衛門です」


外見とは程遠い古風なお名前で。


「福田睦月です。救護班をしてます。よろしくお願いします」


何だかこの人の笑顔はほっとする。




壬生浪士組


局長 

芹沢鴨、近藤勇、新見錦


副長

山南敬介、土方歳三


副長助勤

沖田総司、永倉新八、斉藤一、原田左之介

藤堂平助、平山五郎、野口健司、平間重助

井上源三郎、佐伯又三郎、尾形俊太郎

松原忠司、安藤早太郎


観察方

島田魁、川島勝司、林信太郎


勘定方

河合耆三郎



前で、土方副長が紙を両手に持って、名前を読み上げていった。



「他、隊士は副長助勤の配下とする以上」


……多すぎて全然覚えられなかった。


資料配った方がいいよ。


絶対みんな覚えられないから。


解散になって、刀をとって立ち上がると、井上新左衛門さんが


「あれ?福田さん救護班ですよね?呼ばれました?」


「あー、救護班って言っても雑用係ですから」


「では、同じ平隊士ですね」


「いえ、雑用係ですから、隊士ではないんです」


沖田総司には追い出されそうになるし。

肩身が狭いんです。


「福田睦月!」


とふいに芹沢局長が手招きした。そういえば、芹沢局長って、名前鴨って言うんだよね。


「はい?」


井上新左衛門さんに、一礼して走っていくと、近藤局長が隣で困った顔をしている。


芹沢局長は他の隊士を部屋から追い出すと、話を切りだした。


「君は女子なのになぜここにいる?」


「え?」


「近藤局長は下働きだというが、男の格好までして」


………なんて答えたらいいのだろう


「女ではダメなんですか?」


前から思っていたんだけど


「私のいたところでは、男も女も仕事をしてましたよ。そりゃあ、隊士となると、剣道が出来ないといけないでしょうし、体力も女の方がないし、不利なのはわかりますけど、警察官だって、自衛官だって、お医者さん、学校の先生だって、女でもなれましたよ。女だとどうしてダメなんですか?」


芹沢局長は、答えず黙っている。


「女だったら奉行所に突き出すなんて、意味分かんないし……変なおじさんより、女子の方がよっぽど働くって、バイト先の店長も言ってましたよ」


「福田君!口をつつしみたまえ」


近藤局長があわてて止めに入った。


やばい。偉そうに、ちょっとしゃべりすぎたかな……


「……で、福田君は浪士組に女の身で入ったと?」


「はい。そうです」


芹沢局長は暫く黙って


「近頃の娘は皆こうなのか?近藤局長」


「いやはや、迷惑をおかけします」


「なんの迷惑も掛かってはいないが、他の隊士は女だと知っているのかね?」


「うちの、土方と沖田は………」


芹沢局長は私の頭の先から足の先まで眺めて


「女子の方がよっぽど働くか、なるほどな。いいんじゃないか?」


「へ?」


近藤局長が変な返事をする。


「ただ、他の隊士には女だとはだまっといたほうがいいな。中には妙な目で見る輩もいるかもしれんからな」


「ありがとうございます。そこは、徹底させますので」


「福田君、では職務に励むように」


「はい!」


ちょっと、怖そうだったけど、いい人じゃない?


芹沢局長が部屋を出ていくと、近藤局長は額の汗を拭ってため息をついた。



「いい人ですね。芹沢局長。頑張ろうっと」


近藤局長は眉をしかめて


「福田君、とにかくこれ以上女だと知られないようにしよう」


「どうしてわかるのかな?声かな?胸もそんなに分かるほどないし」


「うん。ないのにな。どうしてだろうな?」


二人で、考え込んでいたら


「………あほだろ、あんたら」


廊下の障子があいて土方副長が入ってきた。


「聞いてたのか、歳……」


「芹沢局長が意外と理解があって驚いた。なんか企んでいやがるんじゃないか?」


「まさか!福田君を自分のものにしようとかか?!」


「ええ?!」


「こんな、ガキにゃ興味ないだろう」


土方副長………


何気にものすごいショックなんですけど


「お?刀選んでもらったか?飾り用か?いやに洒落たつくりだな?」


土方副長は刀を取り上げて眺めた。


また、人のもの、勝手に触るし………


鞘から抜いた刀をじっと見て、


「やけに軽いな」


と鞘に戻す。


「とりあえず、福田君は面倒だから、男の振りしてろ。総司が熱あるみたいだから行ってくれるか?庭にいる」


「はい。すみません」


おじぎして、銀ちゃんを受け取った。


やっぱり、私がここにいると何かと迷惑が掛かるみたいだ。


夢とはいえ、居候になってしまったけど、出て行った方がいいよね………


私もそっちのが気が楽だし………



勝手口から庭に回ると、沖田さんは一人縁側にぼんやり座っていた。


こちらに気付くと


「芹沢局長に女だってバレたって?」


「はい。頑張れって言われました」


「……何かされたのか?」


「え?何かって?」


沖田さんの目がくるりと左に回る。


「別に何もなかったらいいんだけど……」


「何ですか?」


「………芹沢さん女好きだから、何かされてばれたんじゃないよな?」


「!?何もされてませんっ」


「土方さんは、福田君みたいな小娘には興味ないだろって言ってたけど」


………小娘………


「とにかく、男の振りしとけ」


「はい……あの、私出て行った方がいいですよね?」


沖田総司は、眉一つ動かさないでしばらくこっちを見つめて


「何で?近藤さんが泣くよ?」


「何でって!沖田さんが出て行けって言ったんじゃないですか!」


「………お前まだ根に持ってんの?しつこいな~」


めんどくさそうに庭の方に視線を移す。


根に持ってるって何?!


根に持つでしょうよ!!あんなに真正面から出て行けって言われたら!迷惑だって言われたら!!

ものすごくショックだったのに!!!


「お前また泣こうとしてない?」


まぶたに浮かんできた涙を必死で押し止める。


「………泣いてません」


泣くもんか!


沖田総司は視線を庭に向けたままのそりと立ち上がって


「俺は別にどっちでもいいけど、いきなり猫みたいにいなくなるのはやめてくれ。近藤さんに頼まれて探すのめんどくさいから」


そこまで言ってふうっと沖田さんはため息ついた。


「救護班お手並み拝見だね」


ムカつく!


玄関の方に歩いていく赤い顔の沖田総司に舌を出した。


あ………そうだ熱があるんだった!


「ちょっと待った!!布団敷きますから寝てください」


「大丈夫だよ」


「土方副長に頼まれたんです!私は救護班ですから!言うこと聞いてください!!」


沖田総司は、恨めしそうに振り返った。


「福田君、出て行っていいよ」


「出て行きませんから」






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