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幕末最前戦の戦士たち  作者: コトハ
はじまりは夢の中で
40/54

恋心と友情は紙一重、二

演劇部春の講演は、無事に終了した。


私は小道具係りと大道具係で、舞台裏で慌ただしく片付けに追われていた。


俳優の皆さんは、舞台上で写真を撮ったり、撮られたりで、別の意味で大変そう。


刀をそろそろ片付けたくて、舞台に出ると、充と久美ちゃんが女子に囲まれて写真を撮られていた。


「まだやってる……」


立山先輩はもうジャージに着替えていて、刀を持ってきてくれた。


「お疲れ様でした!」


刀を受け取ると、


「福田……悪かった。俺のせいで舞台から落ちて……なんであんなことしたのか、俺……」


先輩は充達の方を見て


「松永は充と付き合ってるんだろ?」


「え?付き合ってはいないと思うけど……」


好きだけど振られたらしいから。


「それより、あんなことって何ですか?」


立山先輩はまじまじこっちを見つめて


「……覚えてないのか?俺が足をかけて……その……」


体育館に剣道部が入ってきた。


その中のクラスの前の席の男子が一礼してこっちを見た。


「……久美ちゃんが突き落としたのは、見間違いだって……」


「ごめん福田。頼まれたんだ。福田を舞台から落とすように……」


「……誰に……?」


間違いだって言ったよ?


「松永に……」


久美ちゃんが撮影を終えて笑顔で振り返った。


…………一瞬睨み付けるような視線を送って、またいつもの可愛い笑顔に戻った。


剣道部の男子が向こうから歩いてくる。


私はその場を逃げ出して、舞台裏に駆け込んだ。

何で?


ねえ久美ちゃん何で?


私何か久美ちゃんにした?


教えてよ……





雨の音で目を覚ました。


また新選組に逆戻りだ。


両隣に寝ている二人を起こさないように、そっと部屋を出た。


東の空が明るくなっている。


厨では朝の準備が始まっていた。


誰にも会いたくなくて、お風呂の前の廊下に座って、明るくなる空を眺めていた。



「……久美ちゃん…………」


雨が体育座りした足の甲を濡らす。


爪が伸びているから切らなければ……


左親指と人差し指の間に貼った絆創膏も剥がれかかってるし。


京屋が騒がしくなってきた。


馬越さん達も起きたかな……


部屋に戻って着替えなければ。


夢が覚めたら久美ちゃんに聞いてみよう。


どうして私を突き落としたのか。





「また泣いてる……」


馬越さんが絆創膏を投げて渡す。


「泣いてませんよ!ありがとうございます……」


「今日は雨なので、谷道場は休みませんか?ちらしも少なくなってきたので、ちらし作りでもしましょう」


「でも、せっかく谷万太郎さんが教えて下さるのに……」


「その足では無理でしょう?俺も面倒臭い」


足が痛いの気付いてたんだ……


「さすが救護班」


「鈍感な福田さんとは違います」


鈍感……


だから久美ちゃんに何かしたのか気付かなかったのかな……


「……一言多いんですよね。お腹すいた~」


立ち上がって馬越さんと部屋へ戻った。





雨は朝より激しくなった。


文字の書けない私は、井上さんと馬越さんの書くちらしの見出しに、赤色アンダーラインを引く。


少しでも目立つように、だんだら羽織を来たミニキャラも書く。


星とハートも飛ばそう…………あ、やり過ぎた


いいや、次!


畳の上に並べられたちらしを数えると

まだ九枚しか書いてない……


「コピー機があればいいのに……」


二人は黙々筆を動かしている。


馬越さんの文字は楷書に近くて何とか読めるけれど、井上さんの文字はふにゃふにゃで全く読めない……


「さぼらない!」


馬越さんに筆でおでこを押された。


「わっ!墨が付いたんじゃないですか?」


「顔を洗って来るついでに、お湯を貰ってきてください」


しぶしぶ土瓶を持って厨へ向かった。





土瓶を持った手が赤い。


最近は日射しも強くなって、谷道場との往復で、少し焼けてしまった。


芹沢局長にもらった手につけるヤツ、めんどうでつけてなかった……


お酒飲みすぎてないかな……


雨はまだ止みそうもない。





「……あの、もしや京で会うた浪士組の?」


声の主は、頭にほっかむりをした、よく京屋で見かける行商人だった。


京で会った…………?


「…………あ!馬越さんとちらし配りしてたとき、女でも浪士組に入れるのかって、聞いた人!」


「覚えてはりましたか。額が真っ黒……」


「あ、これ?墨がついちゃって」


ほっかむりを取って、背中に背負った荷物を下ろす。


「何のお仕事されてるんですか?」


笑うと線になる目が、人当たりが良さそうな雰囲気の人だな。


「浪士組へ入隊しました。それで、早速こちらへ使いに来たところですわ」


「そうなんですか!よろしくお願いします!福田睦月です」


笑顔の新隊士が手を出したので、握手かと思ったら腕を掴まれた。


「福田睦月さん……わての初手柄になりまへんか?」


「はい?」


笑顔のまま腕を引かれて、厨から一番近い部屋へ投げ入れられた。


持っていた土瓶の蓋が転がった。


畳に尻餅つくと、障子がぱんと閉まる音がした。


目の前に立て膝ついて、胸ぐらを掴まれた。


「何するんですか!?」


「……あんた浪士組で何探ってますんや?男の振りして……」


笑顔が消えて、一重の大きな目が見下ろした。


「振りってなんですか……私は浪士組の救護班で……」


「知ってます。この文を救護班の福田さんへ渡せと言われましたから。でもあんた、女でっしゃろ?」


隊士は胸から文を出して見せた。


「違う言うなら脱いでみい」


目の前にあぐらをかいた。


瞬きもしないで、じっとこっちを見ている。


……どうしよう……


浪士組の隊士なら逃げようもない。


女だとバレたら斬られる……


だからといって、ごまかせるような状況でもないし……


「早よしいや!」


伸びてきた手を思わず持っていた土瓶で払うと、隊士の頭にヒットした!


隊士の額から血が一筋垂れた。


「やりやがったな……」


「……あ、すみません!血が……!?」


笑顔になった隊士に、畳へ押し倒されて馬乗りになられた。


両腕を頭の上で押さえ付けられて、動けなくなった。


「……さて、どうしたもんかな……密偵はん」


「私は密偵じゃないから!」


足を振り上げても、隊士までは届かない。


ふと足に冷たいものが当たって、蹴っ飛ばすと、障子に穴が開いて外へ飛んでいった


「……なんだ?」


聞き慣れた抑揚のない声!


障子が開いて、土瓶の蓋を持った馬越さんが覗き込んだ。


「!馬越さんっ」


目が合うと何故か馬越さんは、ぱたりと障子を閉めた。


「ええー!?馬越さん!ちょっと!」


足音が遠ざかっていく。


「今の人は、京で一緒に居った方やな……知ってますの?福田さんが女やて」


……笑顔のあなたの顔が、この状況に不釣り合い過ぎて怖いんですけど……


「……知りません」


馬越さんにも見捨てられて、何だか絶望的な気分になってきた……


「……何で?何で女だと密偵なの…………」


畳へ転がった土瓶を眺めた。


「頑張っても、ちらしたくさん配っても、変な脱走隊士に斬られそうになるし…………」


笑顔の隊士を睨み付けた。


「手柄って何?私を局長に突き出しても、女だと知ってますから」


「そんな嘘言うてもすぐにばれますえ」


「だったら、近藤局長でも芹沢局長でも聞いたらいいよ……」


笑顔が消えて、腕を押さえ付けていた手を放した。


「……浪士組は武士に限らず女でも入れると?」


「……そうではないです。私は隊士ではないから、救護班だから」


隊士はふーんと頷いて、お腹の上から退いてくれた。


足音が部屋の前で止まって、咳払いが聞こえた。


「邪魔してすみませんが……福田さん、もしかして同意の上ではなく……襲われてます?」


馬越さんの声に、隊士は囁いた。


「……一緒に壬生へ来てもらいます。局長に確かめるまで、信用出来ひん」


そう言って、馬越さんのいる障子の方を向いた。


「襲ってるところですわ!邪魔せんといて下さい」


ものすごい勢いで障子が開いて、そのまま取っ組み合いが始まった。


隊士が顔を殴られて、畳に血が飛び散った。


「あほ……冗談や……!?」


構わず馬越さんはもう一度殴り付けた。


もう一度殴り付ける。


もう一度……もう一度……


殴るたびに血が部屋中に飛び散っていく。


「…………馬越さん……止めて……」


聞こえていないのか、いつもの無表情で殴り続けた。


「馬越さん!止めてください!!」


動きが止まって、こっちを向いた。


「……こんな奴……死ねばいい……」


背筋が凍るってこの事だ。


可愛い顔に血が飛び散って、口元は少し笑っていた。


馬越さんは目が合うと、顔を歪めて、ようやく隊士を放して、転がった土瓶を拾った。


隊士も咳き込みながら、あぐらをかいた。


「……痛いわ……ぼけ。間者やないか調べとっただけやろ……」


騒ぎを聞き付けて、京屋の人や井上さんが覗き込んだ。


「何事ですか?福田さん……」


「あんたも浪士組の人か?」


隊士は額に垂れてきた血を袖でぬぐった。






「なあ……何で浪士組には女が居るんや?」


井上さんが息を止めた。


私は……頭が真っ白になって、馬越さんを見た。


バレた!もう絶対女だってバレた…………


馬越さんは隊士に近付いて、いきなり頭を殴った。


「あほか。よく見てみい。どこが女や……ったく間違えて襲うな……いい歳したおっさんが……」


マジで!?本当にあほなの?!


文句を言いながら、土瓶の蓋を拾って、部屋を覗いていた女中さんに渡した。


「お騒がせしました。お湯下さい」







馬越さんが出ていって、残された私達は同時にため息ついた。


「それで、何があったのですか?」


井上さんが正座した。


隊士も正座して


「浪士組へ入隊しました山崎丞です。この人は間者やないんか?」


「……間者ではありません。近藤局長の縁者で、訳あって浪士組で救護班をしています……申し遅れました。井上新左衛門と申します」


隊士はちらりと横目でこっちを見た。


「井上さんはこの人が……」


「存じております。しかし、その事は他言無用に。壬生へ戻りましたら、局長から直々に話があると思います」


「さっきの馬越さんとやらは知らんようですが?」


「はい。知りません」


もう一度隊士はこっちを見た。


「知らんのに何でこんなに殴られなあきまへんのや……死ね言われたで?おっさんて……傷付くわ……ああ、そう言うことでっか……へー……」


急に人懐こい笑顔になった。


「福田さんのこと、惚れてはるんやな」


「違います」


井上さんと二人でハモった。


「男でも好きや言うこととちゃいますか?」




障子が開いて、湯呑みが山崎丞の頭をかすって後ろの壁で砕け散った。


「人が居ないところで、妙な詮索すな、おっさん……」


馬越さんがにらみつけて、障子を乱暴に閉めた。






部屋へ戻り、私が土瓶で殴って怪我をさせた傷の手当てをした。


こめかみの上が切れていたけれど、布で強く押さえていたら、時期に血は止まった。


馬越さんは何事もなかったように、黙々ちらしを書いていた。


頭にぐるぐる包帯を巻いて


「はい。血は止まりましたけど、まだ痛みますか?」


山崎丞さんは返事の代わりに部屋を見渡した。


「そや、手紙を」


渡された手紙を広げると、全部片仮名で書いてあった。


「フクダクン。カワリハナイカ……メシハクッテオルカ……」


読みにくい……


私の事を気づかって下さる文面が続いた。


「サテ、サルウヅキノ二十日、ロウシグミイチドウ、下坂ノオリソチラヘマイルコトトナッタ!みんな大坂へ来るんだ!……えっと…………井上さん……」


何故か途中から、ふにゃふにゃ字になっていた。


井上さんは目を通して


「宿の手配と、これから大坂へ行く機会も増えるので、どこか屯所に良い場所はないだろうか思案されているようです……それから……」


「何?」


井上さんは黙々筆を動かす馬越さんの背中を見て


「妙な輩には気を付けろと……」


「妙?」


馬越さんは筆を置いて、書き終えたちらしをこっちへ渡した。


「その妙な輩に文を持たせてしまってますけどね。紙まだありますか?」


それって、山崎丞さんのことだよね……


「すっかり嫌われましたな」


山崎さんの言葉に、井上さんは困った顔で馬越さんへ紙を手渡す。


「まあ、馬越さんも山崎さんもちょっとした誤解が招いたことですからね……ねえ、福田さん」


こっちへ話をふらないでよ!


「…………えっと……すみません……」


山崎丞さんは殴られて切れた唇をなめて


「ほな、壬生へ戻りましょか?福田さん。局長に会いに」


一重の大きな目がこっちを向いた。


井上さんが眉間に皺を寄せた。





……壬生へ帰って、誤解は解けるだろうけど、女だとバレたら私はどうなるの?


沖田さんに斬られるの?


斬られる…………





「…………何、泣きそうな顔してるのですか」


馬越さんの声で我に返る。


「このおっさんと帰るのがそんなに嫌ですか?」


「おっさん言うな。しょんべん臭えガキが」


「俺、一緒に帰っても良いですよ。局長に用が出来ました。ここは井上さんに任せて良いですよね?」


「お前、ケンカ売っといて知らん振りか?」


「ガキはどっちや……」


二人のやり取り?を井上さんと眺めていた。


井上さんにちょっとと肩を叩かれて、ケンカしてる二人を置いて、部屋の外へ出る。


「どうしますか?局長に会って、山崎さんは黙っていてくれるでしょうか……」


「分からないですけど、どっちみちバレたら私は沖田さんに……」


斬られるのって、夢でも痛いかな…………


斬られたらもう、心配そうに見下ろしてる井上さんと会うこともないのかな……


ちょっと寂しいな。やっぱり。


中でまだ口げんかしている馬越さんだって、会えなくなるのは悲しい。


「福田さん、大丈夫ですよ。局長が守って下さいますから。浪士組にいられなくなることになっても……」


笑う井上さんも、何だか少し寂しそうに見えるのは、私がいなくなったら、そう思って欲しいなという願望からだろうか。



『討死』



いきなりその言葉が浮かんできて少し目眩がした。


目を閉じて深呼吸する。


「福田さん?」


「……井上さん、お願いがあります」


「はい?」


井上さんの紺色の袖を掴んだ。


「その……新左衛門て名前変えませんか?蒼介でいいじゃないですか?」


討死したのは、井上新左衛門だから


「祖父の名なのです。慕っていた祖父の……」


「変えてください!お願いします!」


井上さんは不思議そうに眺めていた。


「出来ないなら浪士組を辞めて……」


「あほ!何も知らんガキが!」


荷物を抱えて山崎丞さんが部屋を出てきた。


「福田さん、暮れには立ちます。そのつもりで!」


続いて馬越さんも出てきた。


「いえ、雨が上がったら、舟で京へ向かいますから」


「お前何様のつもりや……歩いた方が早いわ」


「おっさんこそ新入りのくせになんや?」


井上さんはため息をついた。


「あー!二人ともうるさい!!どっちでもいいから、じゃんけんでもして決めたら?」


ぐー、ちょき、ぱーの優劣を教えて、二人は向き合った。


もう!私は帰ったら斬られるかも知れない、一大事なのに、この二人のせいで……



「いいですか?じゃんけんっぽん!」


馬越さんがちょきで勝って、出発は舟で夜になった。






しかし……いつも無表情で、あまり喜怒哀楽を出さない馬越さんが、こんなにいらいらしてるのは初めて見た。


前にもからかわれて、殴りあいの喧嘩をしてるとこをみかけたけど、さっきの馬越さんは、本当にぞっとするほど怖かった……


井上さんも心配して、船着き場まで見送りに来てくれた。




舟が出て日が暮れると、来たときみたいに柱に寄りかかって、馬越さんは寝てしまった。


山崎さんは黙って腕を組んで、河の水面を眺めていた。


寝るにはまだ早い気もしたけど、私も空いてるところに横になった。


月も星も出ていない真っ暗な空。


隣に誰かが横になった気配がして


「局長の縁者やて……何で浪士組におるん?」


山崎さんの声がした。


「…………他に行くところがないからです」


これは本当の事。


「初手柄や思たのに、あかんな……こりゃ……」


「……すみません……山崎さんはどうして浪士組に入られたんですか?」


「わしか?そりゃ、男なら一旗上げたいわけや。帝の国を夷敵から守れる、家茂公を守護出来るやなんて夢のようや。それに…………」


ふうと息をついて


「近藤局長、土方副長に是非にと請われた。わしの力が必用だと。地理に聡く、信用に足りると……」


何だか最後は恥ずかしそうに声が小さく震えた。


「そうなんだ……いいな……」


「いいな?」


「私はいるだけで迷惑がかかるから……お役にたちたいと努力しても、間者だと言われるし……斬るって言われるし……やっぱり無理なのかな……」


頭にぽんと手が乗った。


「今でも間者だと半分は思っているが……正体を隠してまで置いておかれるということは、何かの役にたってるんやろな……」


「え?……ありがとうございます……」


「でもな、間者やったらわしも斬るけどな。覚悟しいや」


…………ちょっと喜ばせて落とさないでよ!


頭に乗った手がしばらく髪をいじっていたけど、動かなくなった。


眠ってしまったのかな。


首だけ起こして馬越さんを見ると、座った形のまま動かない。


河の流れと舟を漕ぐ音。


ひそひそ話す舟客の声。


うとうとしていたら隣に人が寝転んだ。


「山崎さん……起きてますよね?」


馬越さんか……


「なんや。江戸言葉使いよって気持ち悪いわ……」


あ……またけんかが始まるのかな……


「ほな、おっさん。あんたここへ来る前、京屋の辺りをうろついてましたろ?何を探ってました?」


え?そうなの!?


「福田さんに間者や言うてましたけど、俺からしたらあんたのが怪しいわ」


「……よう気付いたな」


「……気付いたのは井上さんですけど」


頭をくしゃくしゃ撫でられた。


「男にしては、あんまり可愛いからな、間者やないかと調べてたんやわ……初手柄や思てたのに」


「あほか……」


あほは馬越さんだよ……


「あほはどっちやねん。不憫やな……このままじゃ、福田さんは井上さんにとられるで?わしが女でも井上さんを選ぶわ」


……何の話だ?


「……またど突くぞ…………」


「可愛い言うたら、あんたの方が上なんやけど……その顔で何かされたか?手込めにでもされかけたか?わしを殴りながら何を考えてた……」


馬越さんが跳ね起きた。


「…………うるさいわ……知ったような口を聞くな」


「京屋でも、妙なのに絡まれてたやろ?美男は羨ましいが、あれはキモいな。ホンマに」


……そんなことがあったの?


ぽんぽん頭を叩かれて


「……あんたは力があるからええ。福田さんはいちころや……何で浪士組に置くかな……こんなの……」


こんなのって言わないで!


「馬越さん……ホンマは気付いてんやろ?」


何?何に気付いてんの!?


私が女だってこと!?


「福田さんが…………」


「わーーー!!山崎さん!!!」


慌てて、隣の山崎さんの口を手で覆った。


「痛いわ!目に指が入ったわ!」


暗くてよく見えないから仕方ないじゃん!


「あんたらに関わると偉い目に合うな……」


寝返りをうって向こうを向いた。


そうそう、もう関わらないでよ……


馬越さんは何だかいらいらしてるし、私はいつ女だってバレるかドキドキしっぱなしだよ!


馬越さんの方へ顔を向けると、目が合って体がびくりとした。


暗闇でも水面の光で、大きい目が光って瞬きした。


「……お休みなさい…………」


何も思い付かなくて、あいさつしてみた。


「……あ……はい……」


馬越さんも瞬きして、向こうを向いた。





馬越さんは私が女だと知っても、井上さんの様に変わらず仲良くしてくれるかな……


他の女の子みたいに、急に優しくなるのかな?


……いや、それは気持ち悪い…………


逆に怒って、もう口も聞いてくれないかな?


ため息が出た。




何で私は男じゃないんだろうか……























「何で睦月は男じゃないんだろう……」


朝学校へ着くなり、久美ちゃんと演劇部の部室へ向かった。


勿論、私を突き落とした件について、ちゃんと話したいと思ったからだけど……


その質問の答えがこれ。


「……嫌だったのよ。睦月の沖田君に皆が騒ぐのが」


「……意味が分からないんだけど?」


私はてっきり、充の事が好きなのに、私のせいで振られて、それで突き落としたのかと思ってたのに。


「私は小一から睦月の事が好きなのに、あの人達は隠し撮りしたり、コスプレ画像とか言ってアップしたり……ムカつく……」


久美ちゃんはいきなり頭を下げた。


「でも、突き落としたのは本当にごめん。何で突き落としたのかは、今でも分からないんだけど本当にごめん」


「……よく分からないけど、もういいよ。私が久美ちゃんを傷つける事してたのかと思ってたから……」


久美ちゃんは頭を上げて


「してるよ毎日。睦月が女の子だってことで、皆が傷ついてるよ」


「何で!?」


「男だったら良かったのに…………」


久美ちゃんはため息をついた。


チャイムが鳴って、ヤバい!と教室へ戻った。

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