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幕末最前戦の戦士たち  作者: コトハ
はじまりは夢の中で
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たのもう!三

壬生浪士組は八木という民家の離れを間借りしている。


朝餉(朝ご飯)の準備を手伝おうと玄関を出て草履をはく。


冷たい空気にのって味噌汁の匂いのする方へ屋敷の庭を歩いていく。


「おはようさん」


「!?……おはようございます」


前掛けをしてお膳を持った女の人に後ろから声を掛けられた。


「新しい隊士はん?」


「はい!朝餉のお手伝いに来ました」


「ほな、これ」


手渡されたお膳を持って玄関に着くと藤堂平助さんが走ってきた。


「まいど!」


ひったくるように受け取って



「で、姉ちゃんいるの?」


「……いません」


「ちっ、親戚にもいないか。十八、九………いや二十歳以上がいいな」


そんな藤堂さんを置いて次の膳を受け取りにいった。




それから熱の下がった沖田総司さんと二人、部屋で気まずい食事。


「熱大丈夫ですか?」


「ん」


何か私嫌われてるのかな?


女でこんなとこ入って来て変な奴って思われた?


誰か来ないかな………他の人たちはどこで朝ごはん食べてるんだろ?


「………何か言いたいことでもあるのか?」


「へ?」


ああ、沖田総司の顔ばっかり見てたからか。


首を振って、急いでご飯を口に詰め込んだ。





終わって後片付け。


八木さんの母家でさっきの女の人……かよさんとお椀を洗う。


「何でまた、浪士組に入らはったん?」


「……えっと」


返事に困っていると


「こんなきれいな手で刀使えますの?言うたら悪いですけど……入ってもお給金も出やしまへんえ」


「はぁ………」


「まあ、まだ多摩のお人はマシですけど、水戸の局長さんはお酒が入ると、大変みたいで……」


かよさんが急に口をつぐんだ。


「福田君……ちょっと」


入口で沖田総司が手招きしていた。




部屋に戻ると茶色の髪の原田さんと、ウチの隣の柴犬そっくりな永倉さんが、演劇部のおもちゃの刀で遊んでいた………


「福田!これじゃ不逞の輩は斬れんぞ」


原田さんが永倉さんに斬りつける。


「それは、演劇部の刀で本物は持ってません…」


「参ったな。刀買う金もなさそうだし」


「いいんですよ。福田君は浪士組の医者なんですから、刀なんかなくて」


沖田総司が原田さんから刀を取り上げた。


「へいへい。総司専属のかわいいお医者様ですからね」


「馬鹿なこと言ってないで、新入隊士の稽古へ行って下さい。土方さんはもう胴を付けてましたよ」


二人を追い出すと、沖田総司は真面目な顔で正面に座った。


思わず私も姿勢を正す。


「福田君。この風呂敷、君のだよね?」


人斬り現場で演劇部の救急箱と一緒に落ちてたものだ。


私のだろうって役人が勘違いして、一緒に持たせた。


「悪い。さっき蹴つまづいて、中身が出てきてしまって」


え?そんなこと?


「気にしないで下さい。ただの風呂敷包みですから」


そういえば何が入ってるんだろう?


包みを解くと、小判がジャラジャラ出てきた。


初めて見たけど、金だ!金!


数えると二十二枚ある。


「まさかとは思うけど、福田君……」



沖田総司の優しい目が気のせいかキツくなったような……


「盗んでなんかいません!役人が間違って………」


「いい所のお嬢さんなの?」


え?


「おかしいと思ったんだ。身なりもきちんとしてるし、街の娘よりこんなに肌も白いし、不思議な香りもする。家出娘なら帰るとこあるでしょう?」


……沖田総司さんものすごく間違っているよ。



「さあ、帰りなさい」


「………だから、帰るところなんてないんです」


「君にはここは無理だと思う」


淡々と話す沖田総司の目はとても冷たい。


なんとなく気付いてたけど、嫌われてるって。


「私がいたら迷惑なんですね?」


沖田総司は一瞬返事に間を置いたけれど


「うん。君がいると、迷惑だ。だから出て行って欲しい」



こんなに面と向かって人に迷惑なんて言われたのは生まれて初めてだった。



すごくショックだった。


気がつくと涙がぽたり畳に落ちていた。


「はい、荷物忘れないでね」


沖田総司が私の顔を見ないように目を伏せて、風呂敷を手渡す。


私はそれを畳に叩きつけて裸足のまま外へ飛び出した。




もう嫌だ!


夢なら早く覚めて!!



門の所で土方副長とぶつかったけれど、そのまま飛び出した……………………………………




と思ったら


首ねっこを捕まれ、そのまま脇に抱えられるようにして


捕縛


「どこいくんだ?福田君……」


「うわーーん」


恥ずかしいけれど涙が止まらない。


「沖……んが、……出…けって」


「はぁ?」


「……沖田さんが………出て……いけって…!」


「どういうことだ……総司」


土方副長の視線の先に、沖田総司が風呂敷を持って立っていた。


「話は中できこうか」


土方副長に脇に抱えられて屋敷に逆戻りした。


沖田総司の言い分は


「家出娘を家に返そうとしただけ」


「だから帰るとこなんかないって」


「あの大金はなんだ」


「…うっ」


そこをつかれると、何ていったら……何て……


そんな二人のやり取りを、土方副長はおもちゃの刀をいじりながら興味なさげに聞いている。


……刀…刀!?


「お金がなかったから、刀を売ったんです。それは変わりのおもちゃで……」


我ながらいい答えじゃない?


演劇部のおもちゃの刀を納めて、土方副長が口を開いた。


「ほお……たいそうな刀持っていやがったんだなあ。まぁ、ここ追い出されても、福田君なら島原でもいい客がとれるんじゃねえか?なあ、総司」


………島原?


「土方さん!…俺は福田君がここにいたら、大変だろうと思っただけで、いいとこのお嬢さんなら、尚更つらいだろうって……」


沖田総司が真っ赤になった。


島原って何?

島原の乱?


「家出娘がここ追い出されて、仕事もなけりゃ行き着くとこはそこだろうさ。だから、近藤さんは自分の食い扶持にも困るのに、拾ってやったんだろ?あの人の悪い癖だが」


沖田総司はしばらく黙って


「……福田君。本当に行くとこないんだね?」


「………はい」


「ここにいたいんだね?」


そう聞かれると、困るんだけど、他に知ってる人いないし、なかなか夢も覚めないし………


黙っていると、沖田総司は納得いかない様子で部屋を出て行った。


沖田総司が出て行って、土方副長と二人……


何だか緊張するなぁ


外から竹刀の音が聞こえてくる。


相変わらず涼しい顔は何考えてるのか分からない。


「福田君」


「はっはい!」


土方副長は風呂敷包みを差し出して


「とりあえず総司と刀でも買ってこい」


えー?何で沖田総司と………?


私嫌われてるし、気まずいし


「そんな嫌な顔するな。あいつなりに心配してんだろ?」


「迷惑がられてるだけだと思いますけど」


「そりゃそうだろう。福田くんの救護班は総司の所の配属になったからな。世話係はあいつだ。近藤さんから聞いてなかったか?」


え?!聞いてないよ。そんなこと!


「お前すぐ顔に出るなぁ……そういうことだから、総司の下について働け。以上」


なんで?


こんなに迷惑がられてるのに!


「しかし、何だって、女だって知られたんだろうなぁ…」


夕べのことを思い出して、ぼっと頬が熱くなる。


土方副長が意味深にほくそ笑んだ。





ああ…

気が重い……


何でよりにもよって!沖田総司なの!


近藤局長なら良かったのにな。


文句言いながら、荷物の置いてある部屋の障子をあけると


「………わっ!沖田総司!!」


壁にもたれて座って、刀をぬいていた。


「はい。福田睦月君……」


しまった!いると思わなかったから、びっくりして呼び捨てにしてしまった。


「土方副長が、沖田さんと刀買いに行けって……」


「いいよ」


そういって、刀を鞘に戻した。


「え?」


てっきり、嫌だって言うかと思ったのに、刀を差して、藍の羽織を羽織る。


「俺も、京都にきたばかりで町のことよく知らないんだけど……行ってみるか」


歩くのが早い沖田さんの後を追って、玄関を出ると


「八木の主人に近くの刀屋聞いてくる」


と、母屋のほうに行ってしまった。


もう、怒ってないのかな?


「おい!福田。稽古サボってどこいくんだ?」


永倉さんと隊士が二人、剣道の防具をつけたまま門をくぐってきた。


「沖田さんと刀を買いに行くんです」


「そうか!男同士で逢引か!いいの選んでもらえ」


意地悪く笑った顔が、やっぱり隣の柴犬にそっくりなわけで……


「あれ?永倉さん福田君が女だって知らないんだっけ?」


いつの間にか戻って来ていた沖田総司が、背後でつぶやいた。


「まあ、いいか。いこう」


いいのかな?


歩くのが早い沖田総司の後を必死で追いかけた。

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