隊士募集中四
町行く人々にちらしを配る。
今朝早く、井上さんは他の隊士たちと大坂へ立ったと、朝の集会で聞いた。
夕べはお梅さんの店でごちそうになった。
馬越さんが目の前で、徳利からお酒を美味しそうに飲むので、少しもらってなめてみたら喉がカアッとして全然美味しくなかった。
井上さんは笑って眺めていたなあ……
「……さん…………」
井上さんは多分二十歳越えてると思うけど、馬越さんは何歳なんだろう?
二十歳は越えてないのでは?
江戸時代は未成年はお酒飲んでもいいのかな?
離れた所でちらしを配っていた馬越さんが、すぐ後ろにいた。
「……福田さん。何をぼさっとしてるのですか?何度も呼んでいるのに…………」
馬越さんに腕を掴まれて、目の前の路地へ入る。
「……おまささんとお珠さん」
振り返ると二人が笑いながら通りすぎていった。
「危なっ!見つかる所だった…………」
「……あの方向だと、屯所へでも行くつもりかな?」
「え!?しばらく帰らないでおこうっと…………」
陽射しが強くなって、ひなたに長い間いると顔がひりひりしてきた。
「帽子被らないと熱中症になりそう……」
江戸時代は帽子ないのかな?
笠被るのかな?
「お尋ねしますが……」
町人風の男に声を掛けられた。
「武道に心得があれば、侍でなくとも入隊できるんどすか?」
馬越さんは「はい」と答えて
「屯所で試験があります。それに通れば入隊出来ます」
男は頷いてこっちを見た。
「女でも?」
…………え?!
「いやいや!私はその……!」
なんで女に見えた?
ちゃんとさらしカチカチに巻いてるし!
「……残念ながらこの人、男ですよ」
馬越さんが無愛想に答えた。
「そうでっか。失礼しました。また寄らせてもらいます」
「是非!来てください!お願いします!!」
手を振って見送った。
「来てくれるといいですね!」
「……ちらしの文言、武士に限らずといれた方がいいな……作り直しましょう」
馬越さんは路地を屯所の方へ曲がろうとして、こっちに慌てて戻ってきた。
「おまささんとお珠さんがまだいる……」
通りをこっそり伺うと、二人は楽しそうに店先で手拭いを選んでいた。
「向こうから行きますか」
馬越さんの後ろを歩きながら、初めての道にきょろきょろしていた。
「ねえ、馬越さん……京都の地図どこか売ってませんか?道を覚えないと、一人でちらし配りにも行けないし……」
「……そうですね。長州藩邸の前なんかで配りそうですからね……福田さんは……」
「配りませんよ!長州藩は敵なくらいはわかりますから!!」
馬越さんは不思議な顔をした。
「敵?」
「薩長同盟くらいは知ってます!それで幕府は倒されて、開国する………!」
いけない!
また、頭おかしいと思われるか、沖田さんみたいに怒られる……
「……薩長が同盟なんか結んだら、幕府も驚くでしょうね……有り得ないからな……」
馬越さんはふと笑った。
「……どこかのインチキ親父は、開国したら喜び勇んで貿易を始めるな……」
「インチキ親父?」
「いえ、地図書きましょうか?その代わり夕飯奢ってください」
「え!?……いいですけど、高いお店は行けませんよ?私、一両しか持ってないですから……」
「しか?一両も持ってるんですか?島原じゃ遊べないかな……」
島原……
そういえば、沖田さんに出ていけと言われた日、土方副長がそんなこと言ってたな?
「島原って何ですか?」
馬越さんは瞬きして質問には答えず
「……福田さん歳はいくつですか?」
「今年十六になりますけど………」
「十六か……近藤局長に怒られるかな……いや、十六なら大丈夫かな…………」
「……何が大丈夫なんですか?」
馬越さんはいつもの可愛い笑顔で
「花街ですよ。江戸でいう吉原みたいなところです」
吉原!?
それって、花魁とかがいて、身売りされた女の人が無理矢理お客さんをとらされて……ドロドロしたあの吉原ですか!?
「……嫌だ……」
「嫌だ?まあ、最初は緊張しますが、馴染みの芸妓でも出来れば楽しいですよ」
「最低!」
馬越さんを置いて、屯所の方へ走った。
あんな可愛い顔して!
『楽しいですよ』
吉原とか島原とか行ってるの?!
嫌だ!嫌だ……
屯所の近くの畦道で足を止める。
もう菜の花も終わって、畑は緑色しかない。
「暑い……」
手拭を額にのせる。
「福田君、勧誘ご苦労」
土方副長が後ろで止まった。
「何かあったか?」
振り返って副長を見上げた。
「島原行ったことあります?」
副長はきれいな眉を上げた。
「島原って吉原みたいなところなんでしょう?身売りされた女の人が……すみません……いいんです……」
屯所の門をくぐりながら、ちらしを持った人とすれ違った。
山南副長が入隊希望者と話しながら、こっちを見て笑顔でうなずいた。
のどが渇いて、厨に入るとおかよさんが籠いっぱいの野菜を抱えていた。
「福田はん!ちょっとこれそこへほおってて」
受け取って竃の側に置いた。
「今日は暑いなぁ……お水飲みます?」
ひんやりする土間に腰掛けて水を飲んだ。
「馬越はんはまだちらし配ってはりますの?」
「……おかよさん……」
青い湯呑を膝の上でぎゅっと握った。
「島原に男の人が行くのふつう?」
「へっ?なにを言い出すかと思たら……」
「だって!無理矢理身売りされた女の人がいるんでしょう?体を売ってるんでしょう?可哀想じゃないですか……そんなところに行くなんて……」
「そやな、可愛そうやな。でもな、それで家の者は助かるんやで。年期まで働いたら、帰れる子もおる」
「でも、そんなのおかしいです!」
「そやな。おかしいな。でも、世の中どうしようもないこともある。福田さんかてどうしようもないからここにおるんやろ?それとも、ここにおらないけんわけでもあるん?」
おかよさんは前掛けをはたいて立ち上がった。
「うちも、ここの旦那様も福田はんのことは応援してます!」
旦那様って八木家のご主人?
そういえば、私はまだ会ったことがない。
「男の人なら一度は島原で遊んでみたいでしょうしな。うちのが行ったりしたら、どつきまわしますけどな!それにな、お金持ちの大棚の主人や偉いお武家はんは、なじみの芸妓を買うたり、囲ったりするんは珍しいことではないし、外に色がおるのは普通や」
分かってるよ。
ここは江戸時代で、身分も価値観も違うんだって。
「…………でも、おかよさんは嫌じゃない?おかしいって思わない?」
「思ってるに決まってますやろ?誰か島原行きよったんか?ここの人らそんなお金持ちおったかいな?よしよし」
おかよさんに頭を撫でられて、ぎゅっと抱きしめられた。
「頑張りや。うちらは福田はんの味方や……ほら、屋敷の奥見てみい。旦那様が心配そうに覗いてはるやろ?」
顔を向けると、暗い部屋の奥の人影が慌てて消えた。
「私まだ会ったことないんです」
「おかしいでっしゃろ?いい親父がこそこそと、気味悪いわな?」
厨に入ってきた馬越さんが、あっと口を開いて出て行った。
「あ!こんなことしてたら誤解されますな。でもかわいらしいからもう一回」
ぎゅうっと抱きしめられて、おかよさんは腕を緩めた。
「また、なんかあったらおいで。そや、これあげるわ」
赤い飾り紐をもらった。
「いつか、使える日が来るとええな。髷なら飾れるか?」
おかよさんはポニーテールをくるくる巻いて
「あかん。かわいすぎるわ。やっぱり取っとこか」
「ありがとうございます。話したら少し楽になりました」
「いいえ、夕餉はだしの取り方教えますから、早めに来てや」
おかよさんと屋敷の奥に頭を下げて、ちらし配りにもう一度出門へ向かった。
「今行くと、お珠さんたちと鉢合わせますよ」
紙と筆を抱えて、今一番会いたくなかった馬越さんが目の前を横切る。
「……何を怒って、おかよさんの胸で甘えてるのですか?おかよさん亭主いたでしょう?そんな人には見えなかったけどな……」
「そんな人って何ですか?」
馬越さんは振り返って
「不義密通と島原通い、どちらが最低でしょうか?」
不義密通…………
「それって、浮気ってこと?」
カッと顔が熱くなる。
「ご名答。ちらし書き直しの許可、山南副長にもらいましたから仕上げましょう」
何事もなかったように救護室に向かう馬越さんの前へ出た。
「まだ怒っているのですか?」
「…………怒り過ぎて頭パンクしそうなんですけど……いいですか?おかよさんとは何もありません。話を聞いて貰って、頑張ってのハグなだけです……」
いけない。
握った拳が震えてきた。
この可愛い顔を殴ってしまいそうだ。
「それから、島原通いはやっぱり最低だと思います」
「……生娘かお前は…………」
馬越さんはいつもの無表情でボソリ呟いて、救護室へ向かった。
「はあ!?マジ、殴っていいですか……」
紙と筆を縁側に置いて馬越さんは振り返った。
「……手加減はしませんよ…………」
…………え?
「近頃どうもその面見てるとな、気持ち悪うてかなわんわ……」
いつもの標準語から関西弁に変わってる……
掛かってこいと言うように頷いた。
どうしよう!
私、殴り合いのケンカなんてしたことない。
でも、今更やめましょうなんて言える雰囲気でもないし……
拳を握って覚悟を決めた。
本当にこの人は会った日から
「すっとんきょうなことばっかり言って!」
顔を狙ったのをひょいとかわされた。
「男のくせに紛らわしい面しくさって……」
拳が目の前に向かってくる。
手でかばいながら目を閉じた。
お腹に鈍い痛みが走って、そのまま意識が飛んだ。
……………そう
最初から馬越さんはすっとんきょうなことばっかり言ってた。
『菜の花好きですか?』
稽古中に倒れた馬越さんを介抱した日、そう聞かれた。
好きですよ……菜の花は…………
桜や梅は春の薄い空に淡い色で溶け込むのに、菜の花は自ら光を放っているかの如く、目を射るでしょう?
梅も紅梅が一番好き。
でもね、一番好きなのは…………やっぱり
狂ったように風に舞う桜の散り際……
怖いくらいに花びらが舞うの…………
ゆらゆら揺れて気持ちいい。
誰かに抱っこされてるみたい……
ゆらゆら……ゆらゆら…………え?抱っこ!?
目を開けると、馬越さんの可愛い顔がすぐそこでのぞき込んでいた。
「ひぃっ!」
息を吸い込むと、いきなり腰から畳に落とされた!
「った!……痛たた……」
「…………けんかもしたことないんですか?死んだかと思いました……」
馬越さんも畳に腰を下ろして、ふうと息をついた。
「……気持ち悪い………」
「大丈夫ですか………!」
そう言えば、殴られる前に私の面を見てると気持ち悪いって言ってたよね?
「私のせいですか?気持ち悪くなるの……」
「……はい…………」
なんで……そんなこと言うの?
私、何かした?
立ち上がって、銀ちゃんと馬越さんが持ってきたちらしを掴んだ。
「一人でちらし配ってきます……私だって、島原になんて行く人と一緒になんていられません」
なんで私こんなこと言ったの?
おかよさんから男の人は一度くらい行ってみたい所だって聞いたのに……
救護室を出て、巡察から帰ってきた隊士とすれ違う。
「よう!福田さん。給金も出たことやし、皆で飲みに行くんやけどどうや?」
杉山さんに声を掛けられた。
「……いえ、私はお酒も飲めないし……」
「そか?」
後ろの隊士が
「島原通いでもしてぇなあ……」
「あほ!いくら取られると思ってんか!」
笑いながら通りすぎていった。
「そんなに島原に行きたいですか……」
私の呟きに杉山さんは
「そりゃあ、一度は拝んでみたいわ」
……どいつもこいつも!
「福田!お前にも給金出たぞ。ほら……何だ?ガキが泣く前みたいな顔して……」
沖田さんが紙包みを差し出した。
「……沖田さんも、島原に行きたいですか?行ったことありますか!」
「…………な……何だよ……いきなり……」
目がくるりと左に回った。
「……どいつもこいつも!」
門を飛び出して、東に向かう。
分かってるよ!
身分も常識も価値観も違うって!!
もしかしたら、島原は高級クラブとかキャバクラに行く感覚と一緒なのかも知れないし!
風俗に行くのとか……………
「ああ!嫌だ!」
走りながら人並みを抜けた。
「壬生の浪士組です。将軍下坂の折りに警護に当たる隊士を募集しています!よろしくお願いしまーす」
道行く人にちらしを配る。
なかなか受け取ってもらえない……
「浪士組でーす!お願いしまーす!」
陽射しが暑い。
笠がいるなあ……
「どうぞ。ごくろうさんどす」
手拭いを差し出されて顔を上げると、お梅さんが立っていた。
お梅さんの買い出しの品を半分持って、店に向かいながら、馬越さんとのけんかのいきさつを話した。
「そうか……島原になんて行く人か…………」
お梅さんは、息をついて
「福田はん。島原は確かにひどい所や。天神や太夫になれれば蝶や花やと持ち上げられる。けんどそれも短い命や。せやけど…………」
お梅さんは、少し笑って
「うちらは運が良かったんや。三郎はんのお父様のお口添えで、身請けされたんやから……」
…………身請け?
「分からんわな……うちと姉は福田はんのいう島原なんかに売られたんどす」
……売られた?
てことは…………
「今の店は、その身請け先の旦那様に頂いたもんどす……もう、亡くなられてしまいましたけどな」
いきなりの告白に、立ち止まった私を見て、少し先を歩いていたお梅さんは目の前まで戻ってきた。
「売られた娘がかわいそうやなんて、福田はんは優しい子やな。せやけど、お客が来てくれへんとうちらはおまんまも食べられへんし、年期も明けへんのや。荷物持ち店まで付き会うてくれますか?」
私は頷いて、荷物を持ち直した。
お店につくと梅さんは、お茶をいれてくれた。
「驚いたやろ?」
はいと頷いた。
「三郎はんもきちんと話したらええのに……馴染みの芸妓てお姉さん達のことやろかいな?もう、かなりのお歳やから、きっとお師匠はんにならはってるわ……あ、話分からへんやろ?」
「あの……お梅さん、分からないことがたくさんあるんですけど、身請けというのは何となく分かるんですけど……」
「お金を払って置屋から貰われたいうことです」
「それから……お梅さんのお姉さんは馬越さんのお母さんで……」
「そや、三郎はんの母は島原上がりどす。馬越様と駆け落ちして出来たのが、三郎はん」
駆け落ち!?
「……えーっと、ご両親は今どこにいるんですか?インチキ親父とか言ってたけど……」
「さあ……?馬越様もふらふらしてる方やったし、うちの姉もけんかしては家出してたさかい……死んではおらんようやけど、たまに文が届くんどす」
お梅さんのいれてくれたお茶を飲んでため息ついた。
「馬越さんが島原へ行ってたのは、お母さんのお友達な芸妓さんに会いに行ってたんですね……私、勘違いしてました。酷いこと言ってしまいました……」
お梅さんは、茶碗にお茶を継ぎ足しながら
「それは分からしまへん。あのお父様の血筋引いたらかなりの遊び人になってもおかしくないで!三郎はんも、もう大人やさかいなぁ……あんなに小さかったのに……」
「え!」
やっぱり、芸妓さんとあんなことやこんなことや…………
いやー!!!
思わず頭を抱えると、お梅さんがにっこり笑った。
「顔に騙されたらあかんえ。姉はころりと騙されてん苦労したさかい……」
ふと、お梅さんの手が私の頬に触れた。
「どんな理由があるのか、おばちゃんには分からへんけど……浪士組は今でも反対や。福田はんが嫌になったら、いつでも逃げておいでや。ええな?何があっても、島原なんかへ行ったらあかんえ……」
「…………はい」
両手で頬っぺたをぐりぐりされて、
「それにな!島原の子は嫌な客も取らなあかんけど、まだ寝るとこあるだけましや。踊りも字の読み書きも習えるし、歌だって詠めます。夜鷹や家のない子に比べたらまだましや!かわいそうやあらしまへん!」
「痛い……お梅さん…………」
「あら、堪忍な。一度福田はんの頬っぺたつまんでみたかったんや。ふにふにしてお餅みたい」
「…………そう言えば馬越さんにもつままれて起きたことがありました……」
「あらら!……そう……そうなん……あらら……」
お梅さんは、急に笑いだした。
「私、馬越さんに謝った方がいいですよね……」
「なんでやねん。好いた男が島原なんかへ行ったら怒るの当たり前やんか」
…………好いた男?
「あら?違うんかいな。昨日、井上はんが許嫁は嘘や言うてはったから、三郎はんにも期待が持てるかと……」
ちょっと待って……許嫁は嘘って……えーっと…………
一生懸命頭を整理していたら、お梅さんが馬越さんそっくりな笑顔を浮かべた。
「お雪ちゃんのことは、女いうんは秘密やろ?今は男の睦月はんな」
!!!!!!
バレてたー!!
机に突っ伏して目を閉じた。
「…………いつから知ってたんですか?」
「初めて見たときから、可愛らしい子やな思うて」
マジで?!
「何か理由でもあって、浪士組におるんやろなと、おばちゃんはいろいろ詮索したいけど……我慢することにしてます。ところで…………」
お梅さんは、顔を近づけて
「井上はんは福田はんのこと、友として仲良うしてはるらしいけど……うちの甥はどないですのん?」
「…………馬越さんもお友達です。でも、私の顔を見ると気持ち悪いって……嫌われたみたいです……」
「娘にそないなこと言うたんか!今度きたらげんこつやな!!」
机から顔を上げた。
「違います。馬越さんは私が女だとは知らないんです……今日だってけんかして、お腹殴られて気絶させられました……女の子だと知ってたらそんなことしないでしょう……って、お梅さん?!」
話が終わる前に、お梅さんは、拳を手のひらに叩きつけた。
「知らん?分かるやろ!言われへんでも!」
「…………いや、知らないんです……本当に………」
「あほやな……三郎はん…………」
「いやあ……あほな方が私は気を使わなくて助かります……」
それより
「どうして女だと分かったんですか?」
「そんなん見たら分かりますやろ?……あ!正体がバレるとあきまへんのや……そうか……」
お梅さんは、じっとしばらく見つめて
「頭、髷結いなはれ。声はしようがないからな、低く話しても限界があるし……立ち振舞いやな」
「立ち振舞い……」
「そや。男らしい立ち振舞いや」
男らしいと聞いて、永倉さんと原田さんが浮かんだ。
あの二人を観察してみるか
「しかし、浪士組のお人らはホンマに気付いてへんの?気付いてても黙ってるだけやない?」
「そんなことはないと思います。女だとは分かれば間者だと付き出されるでしょうから……」
そうなったら、近藤局長の体面に傷がつく……
本当は私が居るだけで迷惑なのに、どうして置いて下さるのだろう……
「とても気になるけど、おばちゃんは詮索せえへんで……取り合えず」
と、お梅さんは、たすきを掛けた。
「うちのあほな甥は説教やな」
「大丈夫です……私も悪かったし……」
お梅さんは、げんこつにはーっと息をかけた。




