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幕末最前戦の戦士たち  作者: コトハ
はじまりは夢の中で
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たのもう!二

………確かに

新選組に女の隊士なんていなかったけど


スパイだなんて


ちょっと沖田総司に会ってみたかっただけなのに……………



「なあ、福田君」


藤堂平助さんの声に思わず体がビクッとなってしまった。


「な…何でしょうか?」


「お前……」


藤堂さんが真面目な顔で肩に手を置いた。


女だってバレた………!


「姉さんいる?」


「はい?」


「いたら、よろしくいっといて」


「え?」


藤堂さんは子供みたいに、にっと笑った。


「何かあったら、声かけて」


そっと障子を閉めて出て行った。


笑うとかわいくて年下みたい。


「それより、早く逃げ出さないと!」


とりあえず、このおにぎり食べてからね!




お腹がいっぱいになると眠気が襲ってくる。


早く逃げ出さなければ、何だかヤバそうなんだけど。


沖田総司はずっと眠ったまま。


人斬りっていうからもっと怖い人達かなって思ってたけど………


大学行ってるお兄ちゃんの友達と変わらない。


沖田総司なんて最初の印象は優しそうな雰囲気だったし。


………その後は面倒くさそう。


額の手ぬぐいを水で冷やして取り替える。


部屋も暗くなってきたけれど、電気もないし灯りの付け方も分からない。



眠たい……


何だか疲れたなぁ……


今ならこっそり出て行けそうだけど………


沖田総司の寝息が楽になってきたみたい。


熱下がってきてよかった……………





冬の朝ってどうしてこんなに布団が気持ちいいんだろう。


ぬくぬくふわふわ


「………い」


あ、お兄ちゃんの声がする。


大学春休みだっけ?


「……おい」


「もう少し寝かせて……お兄ちゃん」


「おい!福田睦月君……」


「!?」


目の前に顔に絆創膏を張った沖田総司の顔!?


「わっ!」


飛び起きて、お互いの額を強打した。


「痛ったーい!?なんで沖田総司がここに……!」


「………お前石頭だな」


あれ?まだ、夢をみている。


すっかり夜になっていて、部屋の隅で小さなあかりがぼんやり部屋を照らしていた。


私は、沖田総司の布団に寝ている。


「あれ?沖田総司さん!寝てなきゃだめじゃないですか!」


あわてて飛び起きて、布団から出る。


「福田睦月くんに、蹴って追い出されたんですけど」


私の寝相が悪いのは家族でも有名で……


「すみません………どうぞ休んでください」


沖田総司は困ったように頭をかいて横を向いた。


「着物………はだけてるから、直してくれる?」


「うっ!わっ!」


回れ右して、着物の袷を押さえた。


見られた!絶対ブラは見えてた!


女だってばれた!


そっと振り返ると、沖田総司はあくびしてる………


「私……拷問されて、奉行所に突き出されるんですよね?」


「………俺頭痛いからまだ寝る…」


何事もなかったように布団にもぐりこんで


「福田君はあっちで寝て。寝相悪すぎだから」


と、部屋の隅に積んであった掛け布団の山を指さして目を閉じた。


「藤堂さんが、『こんなとこ乗り込んで来る女なんて、何か探りにきた間者しかいないだろ』って」


「おやすみ……」


ちょっと沖田総司さんてば寝ないでよ!


「見つけたら、拷問して、吐かせて、奉行所送りって!言ってたんです!」


寝ている布団に詰め寄ると、迷惑そうに眼を開けて


「福田睦月は間者なの?」


「違います!」


「何で、女なのに入隊してきたの?」


「それは……女は入れないって知らなかったし……」


沖田総司に会ってみたいという好奇心で………


そんなこと言ったら、変な誤解されるかな?


ますますあやしいよね。


「………勉強のためです」


演劇部で、新選組を演じるために


「新選組が、何を見て、何を感じて、最後まで戦って行ったのか知りたいからです」


これはうそじゃないよ


台本を読みながら、いつも考えていたこと。


どうしてこの人達は、最後まで幕府のために戦ったんだろう?


幕府が負けてなくなって、新しい時代が来たのに。


………沖田総司は血を吐きながらも人を斬ったのだろうって………


「………わかった。もう明日話そう」


沖田総司は咳をして、目を閉じた。


そうだ、沖田総司は労咳っていう病気で死んでしまうんだ。


「沖田総司さん………労咳っていう病気なんですよね?入院した方がいいと思います。早く治療したら、治るかもしれないですよ?」


沖田総司は迷惑そうに目を開けた。


「………福田君、医者っていうの、ホント

はうそだろう?」







朝になって沖田総司に連れられ、近藤局長と土方副長に事のあらましを説明する。


「女も入れると思って入隊したそうです。そういうことらしいです」


あんぐり口を開けたまま、固まってしまった近藤局長の隣で、土方副長が呆れたように口を開いた。


「こいつが女だって総司は気が付いていなかったのか?」


意外そうに土方副長が呟く。


「歳は気づいてたのか?!」


驚いて近藤局長が声を上げる。


「気づかねえ近藤さんもおかしいだろ……」


「気づいてたらなぜ黙ってた?」


「間者だったら、泳がせて捕まえればいいかと思ってな」


こっちを見る土方副長の涼しい目が怖い。


近藤局長はすまなそうに


「福田君。新選組に女はいらねえ」


出て行けってことだよね?


拷問も奉行所に突き出されることもなかったんだし


最初から入隊する気もなかったし


良かった良かった。


お世話になりましたと立ち上がろうとすると



「………ところで、福田睦月さんは行くとこあるのかい?」


近藤局長が呟くように言った。


「医者の見習いらしいが、国に帰るのかい?」


「えーっと、帰るとこなんてありません。でも、大丈夫だと思います」


夢の中だから


でもいつになったら目が覚めるんだろう?


舞台から落ちたとき、変なトコ打って意識が戻らない………とかじゃないでしょうね!


今頃集中治療室で家族に囲まれて、お母さんが泣いてたりしたら………


「ここで、働くかい?」


「え?」


「いや、隊士としてではなく、ほら!病人が出たりしたら頼りになるだろう。他にも仕事はたくさんあるだろうしな。なあ、総司」


思いがけない提案に瞬きしてると、話を振られた沖田総司が


「え?いいんですか?土方さん」


副長に話を振る。


「やれやれ、また近藤さんが捨て犬拾おうとしてるぞ」



「行くところがないというし、娘一人不憫だろう?」


土方副長は、涼しい目でこちらをみつめて


「面倒くせぇことになるぜ?近藤さん」


「何も面倒なんてないだろう?」


「こいつは犬猫とは違うんだ。何より娘だ。娘が隊内でうろちょろしてみろ。いらぬ噂がたって、近藤さんの体面にも悪かろう」


近藤局長はうーんと唸ったまま黙ってしまった。


沖田総司は黙って二人のやり取りを聞いている。


「あの、もういいです。私出て行きますから」


ぽんと近藤局長が手を打った。


「男の格好でいたら、娘だって分からんだろう?」


「………分かるだろう」


土方副長の呆れた顔を見て、ぷっと沖田総司が吹きだす。


「俺には分からなかったぞ!福田君には救護班をやってもらえば、医者を呼ぶ金もかからず、隊士も元気になって!一石二鳥だろ!決まりだ!決まり!」


「何があっても、知らねえぞ」


なんだか、歓迎はされてないみたいだし、このいたたまれない雰囲気に耐えられないよ……


「あのぉ……もういいですから………」


「よし!歳の許可も出たことだし、朝餉の支度でも手伝ってきなさい」


えーー?!


許可でたの?本当に?!


「あーあ、また、拾ってきちゃったなぁ」


沖田総司がんーっと伸びをした。


私はこうして、浪士組にお世話になることになりました。

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