睦月と雪三
目を開けると部屋が薄暗くなっていた。
眠っていたのは誰かのお腹の上………沖田さん?
沖田さんが寝返り打ってお腹から落とされた。
「あれ?また、眠っちゃったのかな?」
さっきまで久美ちゃんの声が聞こえていたのに。
「もう、朝だなあ。また、人の布団で寝てたろ?」
沖田さんは起きると布団を畳んで部屋の端に積んだ。
何でまた夢見てるの?
沖田さんはがらがらと雨戸を開けながら
「………なぁ、福田。俺、夕べ何か言ってたか?」
「え?」
「何でもない。着替えたら鍛えてやるから、お前も来い」
そう言って縁側から庭に下りて行ってしまった。
髪はねてるよ………沖田さん
これって夢だよね?
もう一回眠ったら夢から起きられるかな?
畳に横になって目を閉じる。
ああ、二度寝って気持ちいいよね………………
「福田さん?ヨダレたれてますよ」
目を開けると竹刀を持った馬越さんが立っていた。
「沖田さんに、たたき起こして来いと言われたのですが、よろしいですか?」
無表情の馬越さんが竹刀を振り上げる。
「すぐ行きます!」
着替えて髪を結んで、前川邸の稽古場に走っていく。
面を付けた隊士が打ち合っていた。
………というか、一方的に打ち込まれてる感じ。
「沖田さん、竹刀握ると人が変わりますよね」
馬越さんに言われて、あのむちゃくちゃに打ち込んでるのが沖田さんだって気がついた。
「………怖ぁ…鬼だ」
相手は竹刀で受け止めるのが精一杯。
あ!
竹刀落とした。
「次!」
面を付けた沖田さんがこっちに顔を向ける。
「馬越くん。福田は防具付けとけ」
え---!!
馬越さんは一礼して沖田さんの前に構える。
あぁ……
ボコボコにされちゃうよ。
「大丈夫ですよ。馬越さん意外と剣の心得があるんです。はい。防具」
井上さんがにっこり笑って胴を付けてくれた。
ババンッと音がして二人が同時に打ち込んだ。
竹刀をつかんでる手を、馬越さんが打つかと思ったら
沖田さんが交わして面を打つ……けど
馬越さんが竹刀で払って………
もう、この先は速くてよく分からない………
沖田さんが竹刀を首元に突く。
「凄いな。沖田さん」
井上さんが感心してため息をつく。
「え?今の沖田さんの勝ちですか?」
「はい」
でも二人の動きは止まらずそのまま打ち合ってる。
「はい。面つけときましょう。もう終わりますよ」
井上さんの言うとおり
「次!福田!」
「はっはい!」
さっき馬越さんがやったように沖田さんに一礼。
そして構える。
面越しの沖田さんを見つめても表情もよくわからない。
ふと
沖田さんが動いたと思ったら、手の甲が痺れて竹刀を落としそうになった。
「真剣だったら、手首切り落とされてるぞ」
言い終わらないうちに、竹刀が顔を突いてくる。
「わっ!」
しゃがんで避けると頭のてっぺんがバンッと激痛。
「立て!」
痛いから!!
もー!!!
振り下ろされる竹刀を必死で受け止めながら後ろに下がる。
「逃げてばかりいないで!打ってこい!」
「沖田さんが攻撃するから!打てないもん!」
「馬鹿なこと言ってないで、真面目に稽古しろ!」
下がりすぎて背中に壁が当たった。
どうしよう!
もう逃げられない。
ええい!
もうどうにでもなれ!
沖田さんを睨みつけて、面でも胴でも小手でもどこでも狙っていったけど。
数分後
地面に手をついてうずくまっていた。
沖田さんはけろっとして
「次!井上君」
くっ…悔しい!!!
肩で息をしながら立ち上がる。
防具を取って手拭いで汗を拭く。
井上さんも沖田さんといい勝負……
私だけ何だか弱々……
あぁ………悔しい……
私も沖田さんと二人みたいに試合したいなぁ……
少し離れた所でひとりで素振りをしていると、土方副長が胴を着けて、隊士に指導しながらこっちに歩いてきた。
「総司にやられたのが、そんなに悔しいか?」
竹刀を振りながら
「………はい」
「………それはそうと……永井殿の女中話だが、今夜には行ってもらう」
えっ!もう?
「昨日渡した荷物では、足らない物もあるだろう?女のこまごましい物はよく分からん」
「……あの、まだ中身見てませんでした。今確認した方がいいですか?」
土方副長は頷いて
「朝餉が済んで、隊士が巡察に出たら近藤局長の所へ来い」
「何を二人でこそこそ話しておる?」
芹沢局長がお酒の匂いをさせて帰ってきた。
「これは、お早いお帰りですね」
土方副長がにこやかに頭を下げる。
「福田くん。この男はこんな面して、何考えてるか分からんからな。気をつけたまえ」
芹沢局長は持っていた風呂敷包みを土方副長に渡して
「浪士組にぜひ役立てて欲しいと、五十両頂いた。大阪行きの資金にしなさい」
「………頂戴致します」
土方副長は神妙な顔つきで受け取った。
「福田君。竹刀など振るな。痣など作ったらどうする?」
芹沢局長は竹刀を取り上げて私の腕を掴んだ。
「………あの?」
そのまま袖を二の腕までめくった。
「色白で良い腕だ」
何?!
セクハラ?!
むき出しの腕を引っ込めようとするけど力が強くて振り払えない。
「芹沢局長。大分飲まれてますね?これは、太夫とは程遠い、ガキの腕ですよ?」
ガキってひどい……
土方副長はやんわり芹沢局長の腕を引き剥がしてくれた。
「ガキの腕かどうかは、今度ゆっくり改める」
「物好きですな。しかし、そのような事、うちの近藤が許さないでしょうね。何せ、まるで実の父のようですから」
「父?少しも、似ておらんわ」
芹沢局長は不機嫌に八木邸の方へ歩いていった。
「………どこがいいんだか、こんなガキ……」
ちらり土方副長はこっちを一瞥して
「そういう事だから、後で来い」
そう言って稽古へ戻って行った。
「………芹沢局長の酔っ払いにもびっくりだけど、ガキガキ言わないでよね!」
土方副長の背中に舌を出すと、くるり振り返って
「………福田君、部屋に来る前に素振り二百回!始め!!」
「はっはい!」
何で気づかれたんだろ………
「芹沢局長、酔っておられましたね…」
「わっ?!」
右後ろに井上さん
またこの人は気配がないから……
「素振り続けてください。今夜、私もお供するよう仰せつけられました」
「ホントに?!よかった~、一人で心細かったんです」
井上さんはにっこり笑った。
「あ!私がいない間、救護班馬越さん一人で、大丈夫かな………」
そういう私もそこまで役には立ってないけど
「そうですね。近藤局長に相談されたらどうでしょう?」
「はい!」
頷いて竹刀をギュッと握りなおした。
「おーい!福田救護班!また、ぶっ倒れた」
永倉さんが稽古場の方から手を振っていた。
どういう稽古したら、隊士が毎回ぶっ倒れるのだろうか…
「だめだな。近頃の若い奴は」
永倉さんは倒れた隊士の頬をぺちぺち叩いた。
「水です」
馬越さんが桶で倒れた隊士に水をかけた。
「大丈夫ですか?」
目を開けた隊士を馬越さんが救護室に担いでいく。
「福田さんは素振り終わらせてください。あと、百二十二回」
舌だしたの見てたの?
「……は~い」
「福田君ぐらいだな。土方さんにあっかんべーする命知らずは。よし!素振り終わったら鍛えてやろう」
永倉さんが隣の家の柴犬そっくりな顔で笑った。
いやいや無理だから!!
「私がお手合わせお願いしても良いですか?」
井上さんが間に入った。
「よし!ぶっ倒れるまで、かかってこい」
なんだその練習法は?!
私が素振りを何とか二百回終えても、二人は倒れなかった。
すごい井上さん………
見た目ほんわか優しい空気で、とても剣道強そうじゃないのに。
でもしばらくすると、井上さんも肩で息をして片膝ついた。
永倉さんも面を取った。
「意外とやるな…だけどお前、なんで竹刀を止めるんだ?」
「止めてなどいません。打ち込む隙がないので、迷うだけです」
永倉さんは納得いかない表情で
「………ふむ。お!飯の頃合だな。福田君はまた次の機会に」
だから私は無理だから!!
朝餉が終わり救護室&寝室になっている部屋に戻る。
昨日近藤局長に貰った包みを開いてみる。
ピンクに白い点々模様の着物と紺色の着物
「え?女物の着物?可愛い!」
オレンジ色の帯
紐が二本
白い薄い着物も二枚
後は………
足袋が二つに
腰に巻くやつ?
何が足らないのか着物なんて浴衣位しか着ないからわかんないよ………
「福田?何だそれ?」
沖田さんが戻ってきて、畳に広げた着物を覗いた。
「今夜から、永井っていう人の公事宿に行くんです………昨日話したじゃないですか」
「………大阪行かないのか?」
「はい。そこで留守番です。女中の仕事するんです」
「ふ~ん」
沖田さんは興味無さげに刀を取った。
「沖田さん、一人で寝られますか?私がいなくて寂しいでしょう?」
「へいへい。しばらくは一人でゆっくり寝られますな」
背中に手を振った。
皆が巡察に出て屋敷が静かになった。
部屋を出ようとすると土方副長が訪ねて来た。
「さっさと着がえて、出るぞ」
土方副長が障子を閉める。
え?行くの夜じゃなかった?
「仕度が済んだら声掛けろ」
そう言って、井上さんが泊まってから、襖で仕切ったままの隣の部屋へ入って行った。
「………あの」
「何か足らないのか?」
襖を閉めようとしていた副長の手が止まる。
「いえ。そうじゃなくて……」
「何だ?」
「着物の着方が、わかりません………」
「ああ?!どこのお姫さまだ。お前は」
「だって、いつも着せてもらってたし………」
土方副長はピンクの着物を取ると
「袴脱いで、手ぇ広げて立っとけ!」
そう言って器用に帯をぐるぐる巻いて、着付けをしてくれた。
「……帯が上過ぎるか?でも、腰がここだろ?」
しばらく眺めて
「………まあよし。次は頭だな。入れ!」
へいと返事がして、男の人が入ってきた。
髪を痛いくらいとかされて、何だかべたべた塗られた。
オデコを上げられ何だか盛られて頭が重い。
座っているから帯が苦しいし………
足が痺れて限界に来た頃
「どうでっせ?」
手鏡を渡された。
「何とかなったな」
後ろで見ていた土方副長が立ち上がった。
鏡の中に時代劇の町娘がいた。
「すごーい!」
かつら程、横に膨らんではいないけど、普段のまとめ髪とは全然違う。
「行くぞ。荷物はこれだけか?」
「はい!」
ぴりぴりする脚を刺激しないように、這うように風呂敷にお金と着替えを入れて、銀ちゃんを引き寄せる。
「準備OKです」
「行くぞ!」
「………あの」
「何だ?」
「………足が痺れて立てません」
「気合いで立て!」
土方副長が眉間にシワを寄せる。
銀ちゃんを杖にしてよろよろ立ち上がる。
とりあえず銀ちゃんを差さないと………
「………おい。その格好で、刀を差すな。刀を………」
はっ?!いつものクセで………
「刀は預かっておく」
しばらく銀ちゃんともお別れだね。
誰もいないのを確認して前川邸の門を二人で出る。
土方副長は八木邸には行かず、そのまま町の方に歩いていく。
「副長?近藤局長の所へ行かないんですか?」
「………芹沢局長が来ている。見つかる前に行くぞ」
「………はい」
何で見つかるといけないんだろう?
しばらく黙ったまま土方副長の後をついて行った。
本当に京都は道が碁盤の目のように直角に交わっている。
急に土方副長は足を止めて、私の腕を取って元来た道へ逆戻りした。
「え?」
人混みの向こうにだんだら羽織りが見えたような………?
そのまま引きずられる様にして早足で歩く。
駆け足じゃないとついていけないよ!
何でこんなに歩くの早いんだろう!
ゼーゼー息を切らしながら引きずられていると
「………どうした?」
やっとこの状況に気付いてくれた。
「歩くの早過ぎ………ゼーゼー………」
土方副長は腕を放して
「まだ約束の時刻には早ぇな……」
そう言って近くお店に入っていった。
そこは甘味所で女の子が三人座っていた。
一瞬
土方副長の顔が場違いな店に入ってしまった!みたいな表情になったけど、奥の席につくと、お店のおじさんに
「………お茶と、お前は何か食うか?」
「………えーっと、あの子たちが食べてるのを」
「あれ二つ」
向かい合って座ると、副長は居心地悪そうに通りを眺めていた。
…………………………………………………………………………………沈黙
何か話した方がいいのだろうか………
相変わらず通りを眺めている、土方副長の右斜め45°の涼しい顔をちらり盗み見て、自分の膝に視線を落とした。
「………福田君も難儀だな」
顔を上げると通りを眺めたまま土方副長が机に肘をついた。
「このまま公事宿で働いた方が、楽じゃないか?」
「……え?」
「男の振りしてんのも楽じゃねぇだろ?」
「………それって、出て行けってことですか?」
お店の人がお茶とぜんざいを持ってきた。
「嫌じゃないのか?浪士組にいるのが?」
土方副長が意外な声を上げた。
「嫌じゃないですよ?近藤局長も凄~く、お父さんみたいに心配して下さるし、沖田さんといると、最近は何だか安心するし、馬越さんも井上さんも仲良くしてくれるし」
土方副長は黙ってこっちを見下ろしてる。
「永倉さんや原田さん達も、救護班~って頼りにしてくれるし、全然嫌じゃないですよ?………ただ……」
いつも心に引っかかっていた事を副長に聞いてみよう。
「この世界は私の夢ですよね?目が覚めたら、皆消えてなくなっちゃうんですよね?」
どうしてそんなことを口にしたのだろう。
でも、一度口を開くと止められない。
「たまに、夢が覚めかかるんですけど、また眠ってしまうみたいで、ここに戻って来てしまうし、でも、夢にしてはリアル過ぎるし不思議です」
土方副長はじっと黒い涼しい瞳で暫く黙って見下ろしていた。
「………まあ、食え」
「はい。いただきます!ん!おいしー!副長!おいしいですよ!」
ぜんざいはとても甘くて渋いお茶もとてもおいしかった。
「その、ぜんざいの味も夢だと思うか?」
「うーん。夢にしてはおいしすぎます」
副長はお茶を飲んで
「昔、お前みたいに、この世は夢だって言った奴がいたが、そいつは、この世から逃れるために首つって死んじまったよ。何か辛いことがあったのかは知らんが、そいつみたいになりたくなきゃ、昼間っから目ぇ開いて夢なんて見るな。ここはお前の夢じゃねえ。俺もお前の夢じゃねえ。消えてなくなったりはしねえ」
「………本当に夢じゃないの?」
「京くんだりまでやって来て、はい夢でしたって終われるか」
……………ちょっと混乱
だってだって!
じゃあどうして!!
私はここにいるの!!!
幕末の新選組にいるの?!
どうして舞台から落ちてここにいるの?!
「……?どうした?大丈夫か?」
「………副長~」
こういう時どうするんだっけ?!
そう!ほっぺたつねるんだ!
夢だったら覚めるはず!!!
思いっきり!
目の前の土方副長のほっぺたをつねってみた。
「きゃ~~!!間違った!!」
「………夢じゃねえって言ってるだろうが………………」
ふいに土方局長が机の下に潜り込んだ。
え?避難訓練?
地震で揺れてるっけ?
「………何してるんですか?」
「お前も隠れろ!」
同じように机の下に潜ると、外から人が走って来て店の前で足音が止まった。
「確かここの通りに入って行ったんだがな?」
この声は原田さん?!
「土方さんが真昼間から、女と手ぇつないで歩いてるわけねえだろ?」
あ!永倉さんだ
「いや!絶対土方さんだった。おい!ここに二人連れが来なかったか?」
土方副長がため息ついて
「何で俺がこんな目に……」
と、諦めて立ち上がろうとすると
「見てません。うちらだけどす。なあ?」
「……おまさちゃん」
「誰かお探しやったら、ここ真っ直ぐ行くと東御役所がありますえ」
あの子たち匿ってくれてるの?
「ほら、行くぞ。左之介」
「絶対土方さんだったんだけどな……」
二人が行ってしまうと
「もう、ええよ」
同じ年くらいの女の子が机を覗き込んだ。
「あ…ありがとう」
「ほな、ごゆっくり。今の左之介さんて人知り合い?どこの人?」
「壬生浪士組の原田さんです」
「ふーん。原田左之介様か……奥さんいてはる?」
「いないですよね?」
土方副長は席に座りなおして
「ああ」
「そうなん!おおきに!原田左之介様か………」
そう言ってお店ののれんをくぐって行った。
「いえ、こちらこそ!おおきに!!」
え?
何?
恋の予感?
「すごい。原田さんに一目惚れですかね?」
土方副長はお茶を飲んで
「何で俺がこんな目に……」
「?どうかしました?」
土方副長はため息ついて
「お前はこの世が夢だと思ってるから、そんなにのん気なのか?変な娘だとは思っていたが、そう言うことか」
「え?だって……」
やっぱり
夢だと思ってるから
……多分
「その調子じゃ、何で俺達が大阪に行ってる間に、永井殿の所に預けられるのかも分かっちゃいねぇだろ?」
「………それは」
「芹沢さんが、何故かお前にご執心で、養女に欲しいらしい。妾の間違いだろって、近藤さんが心配して、芹沢さんから離したいそうだ」
「芹沢局長はそんな人じゃありませんよ。頑張れって、応援してくれました」
「ああ、酒が入ってなければな。酔うと何でも力付くだ」
そんな
じゃあ
もう私は
「芹沢局長の養女にならないと、浪士組に戻れないんですか?」
「………ならなくていい。近藤さんが丁重にお断りしてる最中だろうよ」
「どうして、近藤局長はそんなに心配して、かばってくれるんだろう…」
「それが俺にも、まるっきり見当がつかん。わざわざ会津藩のつてで、娘一人の奉公先まで見つけてきて………最初は、お前の事が好きにでもなっちまったかと思ったが、そんな気配もなし。只、健気に働いてる福田君を見ていると、守ってやらなければと思うらしい………」
土方副長は呆れた表情で話していたけど………
私はとても嬉しくて涙がこぼれそうになった。
「とにかくそういう事だ。死ぬ気で働け」
「はい!頑張ります!」
敬礼すると副長の眉間にシワがよった。
「………何だそれは」
「敬礼です!あれ?幕末には無いんだっけ?」
「幕末?室町幕府か?………っあ、井上君を忘れてた」
そう言えば一緒に行くことになったって言ってた。
「私呼んできます!」
「お前は馬鹿か?!誰にも見つからねぇ様に、ここでじっとしてろ!」
「………はい」
怖~
土方副長はお店の入り口でもう一度振り返って
「いいか?絶対動くなよ」
「………ガッテンでぃ!!」
睨みつけて出て行った。
動くなと言われて、大人しくぜんざい食べてお茶飲んで待ってる訳ですが………
土方副長が戻ってこない……
何か注文した方がいいかな?
あれからお客さん一人も来ないし
「あの!葛きり下さい」
ちょうどそこへお侍が三人入ってきた。
「何の店じゃ?ここは?まあ何でもいい、腹が減ったき」
席は空いているのに、そう言って私の目の前に座った。
「何食うちゅうがか?」
クセのある髪で人なつっこく話しかけてくる。
「え?ぜんざいです」
もう一人が咳払いして
「おい。あっちの席が空いとうが」
「じゃあ、わしも同じの」
他の二人が向こうの席に座っても、まだ目の前にいる。
葛きりとぜんざいが運ばれてきた。
「お前どこの国の者じゃ?」
「………日本です」
あぁ……どっか行ってくれ!
私はここ動けないんだから!
「日本?妙な答えするの。名は何という?」
「おい。娘さん困っちゅうが」
後ろで髪を束ねた背の高いお侍が、腕を掴んで連れて行った。
「さっきのは浪士組の奴らか?会津が拾ったわけか………」
もう一人、一番身なりのいい侍が、二人に話し掛けた。
ふと、目が合う。
「すまない。田舎者には、都のきれいなお嬢さんが珍しいらしい」
「………いえ………」
顔の温度が一気に上がる。
そこへもう一人店に入ってきた。
「福田さん?」
井上さんがきょろきょろしている。
「井上さん!」
やっと来てくれた!
ほっとして駆け寄ると、強張った顔で一歩後ずさった。
「遅いー!もー!超遅い!」
視線を反らして、もう一歩後ずさる。
「井上さん?どうしました?顔が固まってますよ?」
見上げていると、口があ!と開いた。
「………福田さん?え?!何でそんな格好しているんですか?!」
井上さんは私の顔を瞬きもしないでしばらく眺めて、にっこりいつもの笑顔になった。
「びっくりした。本当に娘さんなんですね………」
「私って、分からなかったの?」
「はい。まさか娘さんに戻っているとは思わなくて………昔いじられた姉の友人の一人かと思いました」
そんなに嫌な思い出なの?
「もしかして、そのせいで、女の子苦手ですか?」
「いえ。集団でなければ平気です」
………集団でいじられたのか?
「髪結ってもらったんですか?」
「すごいでしょう?この髪形!頭が重くて首が痛いし」
「………やはり、鍛えなければなりませんね」
店を出ると井上さんは声を落として
「店にいた三人、えらく腕がたちそうでしたね………」
「そう?………ただのナンパかと思いました」
「なんぱってそれ方言ですか?浪士組に報告しておきたいのですが、福田さん少しこの辺りで待っていてもらえますか。あと、一時程暇をつぶさなければならないし………少し訳があって、早く出てきてしまったそうなので」
芹沢局長の一件かな
「はい。お店でものぞいてます。そういえば土方副長は?」
「何だかお疲れのご様子で、後は頼んだって、言われましたよ?」
よし!もう来ないんだ!ラッキー
「あ!伝言が『夢など見ずに死ぬ気で働け!』だそうです」
「………はい………」
話さなきゃよかったな。
頭おかしい娘って思ってるよね………絶対………
別にいいんだ、夢だから




