TearsWay 〜兎夜話〜
それは月夜のことでした。
悲しくて悲しくて、本当にもう悲しくて、涙があとからあとから流れてきます。
ふんわり優しい月の光すら、目にちかちか染みるほど泣き濡れていました。
「泣かないで」
窓辺で可愛らしい声がしました。
涙で滲んだ視界には、可愛い白い小さなウサギが一匹。
出窓にちょこんと座っています。
「ねえ、泣かないで。一緒に悲しくなってしまうから」
ウサギはそう言って、本当に泣きそうにするのでした。
・・・ウサギが泣くのは可哀そう。
それでも涙は止め処なく、どんどんどんどん溢れます。
「じゃあ、一緒に泣こうか」
つられて悲しくなったウサギは一緒にしくしく泣くのでした。
二人の涙は月夜の空に川になって吸い込まれていきます。
その様子を、しょぼしょぼする目で見ていたら、
だんだん悲しみが薄れていくようです。
川の流れも細くなり、終にはふたりが泣き止みました。
空はもう東の方が白んでいます。
「ねえ、どうして泣いていたの?」
一頻り泣いたウサギが訊ねました。
・・あれ?どうして泣いていたのかしら。
あまりにも泣きすぎて、悲しい理由を忘れてしまったわ。
悲しみはきっと、川になって月夜空に流れていったのでしょう。
これも、ウサギが一緒に泣いてくれたからに違いありません。
そう思って、ウサギにお礼を言おうとしたら、ウサギはもういませんでした。
空はお日様の色が映って、紅か茜のよう。
ウサギは、お月様が連れて行ったのです。
そしてまた、眠れぬ悲しみの持ち主と一緒に泣いているのです。
月の綺麗な晩に、かすかに泣き声が聞こえたならば、空を見上げて御覧なさい。涙の川が空へ上るのが見えるから。
そして貴方の泣く晩は、ウサギが一緒に泣いてくれるでしょう。