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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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8

――放課後の教室は、やけに静かだった。


ほとんどの生徒はもう帰っていて、

窓の外から入る夕方の光だけが、長く床に伸びている。


私は席に座ったまま、ぼんやりと前を見ていた。


(……やっぱり、ダメか)


朝のやり取りを思い出す。


「誰?」


たった一言。


それだけで、全部なかったことになる。


昨日の帰り道も、あの会話も、

ほんの少しだけ近づいた距離も。


きれいに、何も残らない。


「……はあ」


小さく息を吐く。


もう何度も繰り返してきたことなのに、

今日は少しだけ重く感じた。


期待した分だけ、落ちるのも深くなる。


(……もう、やめようかな)


ふと、そんな考えが浮かぶ。


関わらなければいい。


最初から話しかけなければ、

こんな風に傷つくこともない。


どうせ何も残らないなら、

無駄なことを繰り返す必要なんてない。


そう思うのに。


「……」


立ち上がれない。


足が、動かない。


(それでも)


視線が、自然と窓際の席に向く。


もう誰もいないその場所。


さっきまで、彼がいた場所。


(……知ってる)


あの人が、どんな風に笑うか。


どんなことで少しだけ機嫌がよくなるか。


どういう話題なら、ほんの少しだけ会話が続くか。


全部、知ってる。


私だけが。


(……なかったことに、したくない)


たとえ向こうが覚えていなくても。


この時間が、全部消えてしまうとしても。


私の中には、ちゃんと残っている。


消えないものが、ここにある。


それだけで――


「……やめられないよ」


小さく呟く。


たとえ一方通行でもいい。


たとえ何も返ってこなくてもいい。


それでも、関わっていたいと思ってしまう。


(もしかしたら)


ほんのわずかでも。


本当に、ほんの少しだけでも。


何かが残るかもしれない。


言葉じゃなくても。


記憶じゃなくても。


もっと曖昧な、何かでもいい。


それに賭けてしまう。


「……明日も」


椅子から立ち上がる。


鞄を持って、教室を出る。


また同じことを繰り返すために。


分かっている結末に、もう一度向かうために。


それでも私は――


やめない。


やめられない。


たとえ明日、また“はじめまして”になったとしても。


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