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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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7/42

7

――次の日。


教室のドアの前で、私は少しだけ立ち止まる。


手を伸ばしかけて、止める。


(……大丈夫)


深呼吸をひとつ。


昨日のことを思い出す。


「初めて会った気がしない」


あの言葉。あの表情。


今までとは違った、ほんの少しのズレ。


(もしかしたら)


そんな期待が、まだ胸の奥に残っている。


消しきれないまま。


「……」


ゆっくりと、ドアを開ける。


朝の教室。変わらない風景。


その中にいる、ただ一人の人。


神代恒一。


私は歩き出す。


一歩ずつ、確かめるみたいに。


そして――


「おはよう」


声をかける。


彼が顔を上げる。


目が合う。


ほんの一瞬。


その中に、何かを探してしまう。


昨日の“続き”を。


ほんの少しでも、残っているものを。


けれど。


「……えっと」


神代は、眉をひそめた。


その表情は――知っている。


何度も見てきた、“最初の顔”。


胸の奥が、ゆっくりと冷えていく。


「誰?」


――ああ。


やっぱり。


分かっていたはずなのに。


覚えているわけがないって、ちゃんと理解していたはずなのに。


それでも。


(……違うって、思ってた)


昨日は、少しだけ違ったから。


ほんの少しだけでも、残るかもしれないって。


そんな都合のいいこと、考えてしまったから。


「朝霧澪。同じクラス」


声が、ほんの少しだけ掠れる。


気づかれない程度に。


「へえ……悪い、覚えてなくて」


「……うん」


うまく笑えなかった。


いつもなら、もう少し自然に言えるのに。


「いいよ」って。


軽く、なんでもないことみたいに。


でも今日は、少しだけ難しい。


昨日の分だけ、重くなっている。


(……バカみたい)


心の中で、自分に言い聞かせる。


何を期待してたんだろう。


どうせ、こうなるって分かってたのに。


分かってたのに――


「席、どこ?」


変わらない会話。


変わらない距離。


「窓際の後ろから二番目」


それでも答える。


いつも通りに。


「近いな」


「……うん」


それで終わる。


昨日と同じ場所に戻る。


いや、違う。


昨日よりも、少しだけ遠い場所。


(……痛いな)


胸の奥が、じわりと滲む。


慣れているはずの痛みなのに。


今日は、少しだけ強い。


ほんの少しだけ持ってしまった希望が、

そのまま傷になって残る。


それでも私は、席に戻る。


何もなかったみたいに。


全部、最初から決まっていたみたいに。


――そしてまた、繰り返す。


分かっている結末に向かって。


それでも、やめられないまま。


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