6
――家に帰っても、少しだけ現実感がなかった。
鞄を置いて、制服のままベッドに座る。
窓の外は、もう夕焼けが薄れてきている。
いつもと同じ時間。
いつもと同じ景色。
なのに――
(……違う)
胸の奥に残っている感覚が、今日は少しだけ違った。
「初めて会った気がしない」
その言葉が、何度も頭の中で繰り返される。
(そんなの、今までなかった)
ずっと、同じだった。
“誰?”から始まって、
軽い会話で終わって、
何も残らないままリセットされる。
それが当たり前だったのに。
今日は、違った。
ほんの少しだけ。
ほんの一瞬だけ。
でも確かに――
“なかったはずのもの”が、そこにあった。
「……もしかして」
小さく、呟く。
期待しちゃいけないって、分かってる。
何度も裏切られてきた。
そのたびに、少しずつ諦めるのが上手くなってきたはずなのに。
(でも)
思ってしまう。
今度こそは。
もしかしたら。
明日は、違うかもしれない。
「覚えて……くれるかも」
口に出した瞬間、自分で少しだけ驚く。
そんなこと、考えないようにしてきたのに。
期待したら、苦しくなるだけだから。
それでも。
(今日のあれは、気のせいじゃない)
根拠なんて、どこにもない。
ただの偶然かもしれない。
それでも――信じたくなるくらいには、違った。
ベッドに倒れ込んで、天井を見上げる。
明日になれば、全部分かる。
また“誰?”に戻るのか。
それとも――
「……どうせ、また忘れるくせに」
自嘲気味に笑う。
でも、その言葉とは裏腹に。
胸の奥は、少しだけ軽くなっていた。
怖いのに。
怖いはずなのに。
(……楽しみ、なんて)
そんな風に思ってしまっている。
明日が来るのが、少しだけ待ち遠しいなんて。
ありえないはずなのに。
それでも私は、知ってしまった。
ほんのわずかな違いが、
こんなにも心を動かすことを。
だからきっと、また期待する。
裏切られるって分かっていても。
それでも――
今度こそ、何かが残るかもしれないと。
そんな、小さな希望にすがってしまう。




