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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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5/51

5

――放課後。


チャイムが鳴って、教室の空気が一気にほどける。


帰り支度をしながら、私はほんの少しだけ迷っていた。


(……今日は、やめとこうかな)


期待した分だけ、落ちたときがつらい。


さっきの“違い”だって、きっと気のせいだ。

そう思ったほうが、楽なのに。


「……あ」


顔を上げたとき、偶然――本当に偶然みたいに、彼と目が合った。


神代は鞄を肩にかけたまま、少しだけ不思議そうな顔をする。


「帰るの?」


「……うん」


短い返事。


それだけで終わるはずだったのに。


「じゃ、途中まで一緒に行く?」


――え。


思考が、一瞬止まる。


そんなこと、今まで一度もなかった。


(……どうして)


理由なんて、分かるはずもない。


それでも、断る理由もなかった。


「……いいの?」


「別に。方向一緒だろ」


軽い言い方。


特別な意味なんてないみたいに。


「……うん」


小さく頷いて、立ち上がる。


並んで教室を出る。


それだけのことなのに、胸の奥が少しだけ騒がしい。


――昇降口を出ると、夕方の空気がひんやりしていた。


「今日、暑かったな」


神代が空を見上げながら言う。


「うん。午後、眠くなりそうだった」


「分かる。数学とか完全に記憶ない」


「それはいつもじゃない?」


思わず返すと、神代が少しだけ笑った。


「ひどくない?」


「事実だし」


会話が続く。


特別なことは何も話していない。


天気とか、授業とか、どうでもいいことばかり。


でも。


(……楽しい)


歩く速度も、距離も、自然と合っていく。


無理している感じがしない。


沈黙があっても、気まずくならない。


ただ、隣にいるだけでいいと思える時間。


「朝霧ってさ」


ふいに名前を呼ばれて、心臓が跳ねる。


「ん?」


「なんか……変だよな」


「え」


一瞬、言葉に詰まる。


(やっぱり)


何か、気づかれたのかもしれない。


全部じゃなくても、少しでも。


でも。


「いや、悪い意味じゃなくてさ」


神代は少し考えるように視線を泳がせてから、続けた。


「初めて会った気がしないっていうか」


――。


足が止まりそうになるのを、なんとか堪える。


「……そう?」


「うん。なんか普通に話せるし」


そう言って、少しだけ照れたみたいに笑う。


(……それ)


胸の奥が、じんわりと温かくなる。


それはたぶん、私がずっと欲しかった言葉。


何度も積み重ねてきた時間が、

ほんの少しだけ報われた気がして。


「……私も」


気づけば、そう答えていた。


「話しやすいよ」


嘘じゃない。


本当の気持ち。


でも――


(明日には、消える)


分かっている。


この時間も、この距離も、この感情も。


全部、なかったことになる。


それでも。


「じゃあ、また明日な」


分かれ道で、神代が軽く手を振る。


「……うん」


小さく頷く。


(また明日)


その言葉が、少しだけ痛くて。


でも同時に、少しだけ嬉しかった。


明日も、きっと“はじめまして”になるのに。


それでも――


また会える理由になるから。


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