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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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4

 雨宮先生は、言葉を切らなかった。


 こちらの反応を待つこともなく、ただ事実だけを積み重ねていく。


 「もう一つ、重要なことがあるわ」


 静かに告げられる。


 その声音に、逃げ道はなかった。


 「完全に消えたら――もう戻らない」


 短い一文。


 それだけで、十分だった。


 意味は、はっきりと分かる。


 分かってしまう。


 「……戻らない、って」


 自分の声が、ひどく遠くに聞こえた。


 問い返しているのに、答えなんてもう出ている。


 それでも、確認せずにはいられなかった。


 雨宮先生は、ためらわない。


 「誰の記憶にも残らない」


 「記録にも残らない」


 「存在していた痕跡、そのすべてが消える」


 一つひとつ、区切るように。


 逃げ場を塞ぐように。


 言葉が重なっていく。


 「例外はないわ」


 その一言で、すべてが閉じた。


 完全に。


 音もなく。


 世界から、切り離されるみたいに。


 私は、何も言えなかった。


 否定も、反論も、できない。


 だって――


(……知ってる)


 心のどこかで、もう分かっていた。


 クラスで名前を呼ばれなかったとき。


 陽菜に「誰?」と言われたとき。


 神代の目から、“引っかかり”が消えたとき。


 全部、繋がっている。


 全部、この説明と一致している。


(じゃあ……)


 ゆっくりと、思考が沈んでいく。


(私は、このまま)


 言葉にしようとして、止まる。


 言ってしまったら、決定してしまう気がして。


 でも、止められない。


(本当に、いなくなるんだ)


 実感が、遅れてやってくる。


 怖いとか、悲しいとか、


 そういう感情よりも先に――


 ただ、空白みたいなものが広がる。


 「……」


 声が出ない。


 息をしているのかどうかも、分からない。


 雨宮先生は、何も言わなかった。


 ただ、こちらを見ている。


 逃げることも、逸らすこともできない視線で。


 私は、ようやく理解する。


 これは、もう――


 取り返しがつかない話なんだと。

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