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雨宮先生は、言葉を切らなかった。
こちらの反応を待つこともなく、ただ事実だけを積み重ねていく。
「もう一つ、重要なことがあるわ」
静かに告げられる。
その声音に、逃げ道はなかった。
「完全に消えたら――もう戻らない」
短い一文。
それだけで、十分だった。
意味は、はっきりと分かる。
分かってしまう。
「……戻らない、って」
自分の声が、ひどく遠くに聞こえた。
問い返しているのに、答えなんてもう出ている。
それでも、確認せずにはいられなかった。
雨宮先生は、ためらわない。
「誰の記憶にも残らない」
「記録にも残らない」
「存在していた痕跡、そのすべてが消える」
一つひとつ、区切るように。
逃げ場を塞ぐように。
言葉が重なっていく。
「例外はないわ」
その一言で、すべてが閉じた。
完全に。
音もなく。
世界から、切り離されるみたいに。
私は、何も言えなかった。
否定も、反論も、できない。
だって――
(……知ってる)
心のどこかで、もう分かっていた。
クラスで名前を呼ばれなかったとき。
陽菜に「誰?」と言われたとき。
神代の目から、“引っかかり”が消えたとき。
全部、繋がっている。
全部、この説明と一致している。
(じゃあ……)
ゆっくりと、思考が沈んでいく。
(私は、このまま)
言葉にしようとして、止まる。
言ってしまったら、決定してしまう気がして。
でも、止められない。
(本当に、いなくなるんだ)
実感が、遅れてやってくる。
怖いとか、悲しいとか、
そういう感情よりも先に――
ただ、空白みたいなものが広がる。
「……」
声が出ない。
息をしているのかどうかも、分からない。
雨宮先生は、何も言わなかった。
ただ、こちらを見ている。
逃げることも、逸らすこともできない視線で。
私は、ようやく理解する。
これは、もう――
取り返しがつかない話なんだと。




