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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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シーン4

――次の日。


いつも通り、教室のドアを開ける。


いつも通りの朝。

いつも通りのざわめき。

そして、いつも通り――窓際の席にいる彼。


私は迷わず歩き出す。


もう、迷う理由もない。


「おはよう」


声をかける。


ここまでは、何度も繰り返してきた流れ。


神代はゆっくりと顔を上げて、私を見る。


そして――


「……」


少しだけ、黙った。


ほんの一瞬。

でも今までにはなかった“間”。


胸の奥が、小さく揺れる。


「……えっと」


彼は眉をひそめて、私をじっと見た。


探るみたいに。思い出そうとするみたいに。


「……どっかで会った?」


――え。


一瞬、息が止まる。


そんな言葉、今まで一度もなかった。


(……違う)


いつもはもっと、あっさりしてる。


“誰?”で終わるはずなのに。


なのに、今日は。


「……気のせいか」


神代は自分でそう言って、小さく首を振る。


記憶の中に残らなかった違和感を、自分で消すみたいに。


「悪い。誰だっけ」


――戻る。


いつもの流れに。


それでも。


「朝霧澪。同じクラス」


声が、少しだけ震えた。


気づかれない程度に。


「へえ……やっぱ初めて見るな」


「うん」


短いやり取り。


それだけで終わるはずなのに。


(……今の)


頭の中で、何度も繰り返す。


“どっかで会った?”


ただそれだけの言葉。


でも、私にとっては――


「……」


思わず、彼の横顔を見つめる。


神代はもう興味を失ったみたいに、外に視線を戻している。


さっきのことなんて、もう忘れたみたいに。


でも。


(違った)


確かに、違った。


ほんの少しだけ。


ほんの一瞬だけ。


“なかったはずのもの”が、そこにあった。


胸の奥が、じんわりと熱くなる。


痛みじゃない。


今までとは違う感覚。


(もしかして)


そんなはずないって、分かってるのに。


期待なんて、何度も裏切られてきたのに。


それでも――


「……ねえ」


気づけば、声をかけていた。


神代が振り向く。


「ん?」


「……なんでもない」


言えなかった。


期待してるなんて。


信じかけてるなんて。


でも。


(今度こそ)


小さく、胸の中で呟く。


(今度こそ、何か残るかもしれない)


そんな、根拠のない希望が――


初めて、消えずに残った。


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