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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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2

連れて行かれたのは、校舎の奥だった。


 普段はほとんど足を踏み入れない廊下。窓はあるのに光が届きにくくて、昼間のはずなのにどこか薄暗い。人の気配も、音も、驚くほど遠い。


 足音だけがやけに響いた。


 コツ、コツ、と。


 自分の存在を確認するみたいに。


 雨宮先生は迷いなく進み、ひとつの扉の前で立ち止まる。


 ――資料室。


 古びたプレートが、かすかに軋む音と一緒に視界に入った。


 先生はノックもせずに扉を開ける。


 きい、と乾いた音。


 中は、静かだった。


 積み上げられた段ボールと古いファイル。閉め切られたカーテンのせいで、空気が少しだけ重い。時間が止まっているみたいな、息苦しさ。


 誰もいない。


 誰も来ない。


 ――まるで、この世界から切り離された場所。


 「入りなさい」


 背中越しにそう言われて、一歩踏み込む。


 足を入れた瞬間、妙な感覚が走った。


 さっきまで感じていた“外の世界”の気配が、すっと遠ざかる。


 廊下のざわめきも、誰かの足音も、全部が薄くなる。


 代わりに残るのは、静寂だけ。


 自分の呼吸の音が、やけに大きく聞こえた。


 ……ここなら。


 たぶん。


 誰にも、気づかれない。


 ――いや、違う。


 「ここなら、最初から“いない”のと同じか」


 ぽつりと呟いた声は、思ったよりもよく響いた。


 雨宮先生が、ゆっくりとこちらを振り返る。


 その視線だけが、この空間の中で唯一、はっきりと私を捉えていた。


 「そうね」


 否定はしなかった。


 淡々と、事実を肯定するだけ。


 「ここは、干渉が少ない場所よ」


 静かな声が、空気に沈む。


 干渉。


 その言葉の意味を考える前に、別の感覚が胸に広がる。


 ――隔離されている。


 世界から。


 人から。


 記憶から。


 まるで今の自分そのものを、そのまま形にしたみたいな場所。


 逃げ場でもあり。


 証明でもある。


 「……ぴったりですね」


 苦笑が漏れた。


 ここに連れてこられた理由なんて、考えなくても分かる。


 この空間は――


 今の私と、同じだ。


 誰にも触れられず、誰にも届かず、


 ただ“そこにあるだけ”の存在。

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