7
廊下を、どれくらい歩いたのか分からない。
足は勝手に動いていたのに、気づけば止まっていた。
人の気配のない、校舎の隅。
窓から差し込む光だけが、やけに白くて冷たい。
そこで、ようやく。
全部が追いついてきた。
「……」
呼吸が、浅くなる。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
さっきまで感じなかったはずの“痛み”が、遅れて押し寄せてくる。
(……無理だ)
ぽつりと、頭の中で言葉が浮かぶ。
それを否定する力も、もう残っていなかった。
(もう無理だ)
繰り返す。
何度も。
言い聞かせるみたいに。
あるいは、認めてしまうみたいに。
壁に手をつく。
支えないと、立っていられない。
指先に力が入らない。
触れているはずなのに、感触が遠い。
(これ以上やっても、意味ない)
積み重ねてきたものが、頭の中で崩れていく。
何度も話して。
何度も笑って。
何度も、少しずつ距離を縮めて。
それでも、全部消える。
最後には、あの一言で終わる。
「……誰だ?」
何度でも、最初に戻る。
いや。
今回はもう、戻ることすらできない。
引っかかりも、残っていない。
(誰にも覚えられないなら……)
そこから先の言葉が、続かない。
考えたくないのに。
頭の奥で、勝手に形になろうとする。
足から力が抜ける。
そのまま、崩れるようにしゃがみ込んだ。
床に手をつく。
冷たいはずの感触が、やっぱり曖昧で。
現実が、どんどん遠くなる。
「……」
声を出そうとする。
でも、出ない。
喉が閉じたみたいに、息だけが漏れる。
叫びたいのに。
泣きたいのに。
何もできない。
ただ、そこにいるだけ。
それすら、誰にも気づかれないまま。
(……なんで)
問いかける。
誰に向けてでもなく。
答えなんて、返ってこないのに。
(なんで、私だけ)
視界が揺れる。
涙が出ているのかも分からない。
感覚が、もうはっきりしない。
全部が、ぼやけていく。
(……もういい)
ふっと、力が抜ける。
諦めに似た何かが、胸の奥に沈む。
(もう、いいよ)
頑張っても、意味がないなら。
何度やり直しても、同じなら。
これ以上、続ける理由なんて――
どこにもない。
膝を抱える。
小さく、丸くなる。
そうしていないと、形を保てない気がして。
世界の中で。
誰にも見つからない場所で。
私は、静かに崩れていった。




