6
廊下に出て、扉が閉まる。
それで全部、遮断されたみたいだった。
さっきまでいた教室も。
神代も。
全部、遠くなる。
足を動かす。
どこへ行くわけでもなく、ただ前へ。
一歩、また一歩。
それだけで、精一杯だった。
(……終わった)
頭の中で、静かに言葉が落ちる。
もう、戻らない。
どれだけ繰り返しても。
どれだけ積み重ねても。
さっきの一言で、全部がなかったことになった。
「……誰だ?」
あの声が、耳の奥に残っている。
何度も聞いてきたはずの言葉なのに。
今回は、違った。
引っかかりがなかった。
迷いも、違和感も。
何もかもが、綺麗に消えていた。
(……これが、最後なんだ)
そう思うと、不思議と涙は出なかった。
代わりに、何も感じない空白だけが広がっていく。
――そのとき。
教室の中。
閉じたはずの空間で。
ほんのわずかに、空気が揺れた。
神代は、無意識に顔を上げていた。
さっきまでスマホを見ていたはずなのに。
理由もなく、視線が扉のほうへ向く。
「……」
誰もいないはずの場所。
ただの、閉まった扉。
なのに。
胸の奥に、引っかかるものがあった。
言葉にできない違和感。
小さなノイズみたいな感覚。
神代は、ほんの少しだけ眉をひそめる。
「……なんだ、今の」
ぽつりと呟く。
すぐに、その感覚は消える。
掴もうとした瞬間に、ほどけていくみたいに。
「……気のせいか」
そう言って、視線を戻す。
何事もなかったみたいに。
でも。
ほんの一瞬だけ。
扉の向こうを、目で追っていた。
理由も分からないまま。
何かを探すみたいに。
――それが、確かに残っていた。
名前も。
記憶も。
何ひとつ残っていないはずなのに。
それでも、消えきらなかった“何か”が。
確かに、そこにあった。




