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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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2

 ホームルームが始まる。


 いつも通り、担任が出席簿を開く音が教室に響いた。


「じゃあ、出席取るぞー」


 名前が、一人ずつ呼ばれていく。


 当たり前の、日常の光景。


 そのはずなのに。


 私は、無意識に息を止めていた。


 ページがめくられる音。


 次の名前。


 次の、次。


 ――そして。


 何もなかったみたいに、進んでいく。


(……あれ?)


 一瞬、思考が止まる。


 今の。


 今のところで――


 呼ばれるはずだった。


 私の名前が。


 でも、担任は何も言わずに次へ進んだ。


 まるで、最初からそこに名前なんて載っていないみたいに。


(嘘でしょ……)


 喉の奥がひりつく。


 手のひらに、じわりと汗が滲む。


 周りを見渡す。


 誰も、何も反応していない。


 隣の席の子も、前の席の子も。


 ただ普通に、出席が進むのを聞いているだけ。


 違和感を抱いているのは、私だけだ。


「……はい、全員いるな」


 担任がそう言って、出席簿を閉じる。


 ――全員。


(……いる、って……)


 心臓が、強く脈打つ。


 私はここにいる。


 ちゃんと席に座っている。


 なのに。


 “数に入っていない”。


 それが、はっきりと分かってしまった。


 そのまま授業が始まる。


 プリントが配られていく。


「後ろ回してー」


 いつもの声。


 紙の擦れる音。


 でも。


 私のところには――来ない。


 前の席の子が、後ろへとプリントを渡す。


 その流れが、私の席を飛び越えていく。


 まるで、そこに“空白”があるみたいに。


(ちょ、待って……)


 思わず手を伸ばす。


「それ、一枚――」


 声をかける。


 けれど。


 届かない。


 前の席の子は、何も聞こえていないみたいに、そのまま後ろへ渡した。


 指先が、紙に触れる前に止まる。


 空気だけを掴む。


 胸の奥が、ぎゅっと縮む。


(なんで……)


 言葉が、内側に沈んでいく。


 視界の端で、別の動きがあった。


 隣の席の子が、カバンを持ち上げる。


 そして。


 何の躊躇もなく――


 私の机の上に、それを置いた。


 どさり、と音がする。


 一瞬、思考が真っ白になる。


(……え?)


 目の前に、他人の荷物。


 当然みたいに置かれている。


 そこに“私のスペース”なんて、最初から存在していないみたいに。


「……ちょっと」


 思わず声が出る。


 カバンを押しのける。


 机の端へとずらす。


 でも。


 隣の子は、まったく反応しない。


 視線すら、向けない。


 ただ普通に、前を向いたまま。


 何も起きていないかのように。


 私は、もう一度カバンに触れる。


 確かに、そこにある。


 触れられる。


 動かせる。


 なのに。


 それを動かした“私”には、誰も気づかない。


(ここにいるのに)


 喉の奥が、震える。


 声にしようとしても、うまく出てこない。


(なんで、誰も気づかないんだよ)


 叫びたいのに。


 叫んでも、届かない気がして。


 怖くて、声が出せない。


 視界が、じわりと滲む。


 でも、それすら。


 誰にも見えていない。


 教室の中で。


 みんなのすぐ隣で。


 私は――


 完全に、“いないもの”になりかけていた。


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