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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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10

 その日の夜。


 部屋の静けさが、やけに重たく感じられた。


 机に向かって、ノートを開く。


 何度も繰り返してきた、記録。


 神代との会話。


 起きた出来事。


 違和感。


 全部、忘れないように――残すためのもの。


 ページをめくるたびに、息が詰まる。


(……やっぱり)


 指先が、止まる。


 書き込まれた日付と、内容。


 その間隔。


 比べなくても、分かるくらいに。


 はっきりと。


「短くなってる……」


 小さく、呟く。


 前は、もう少し余裕があった。


 違和感が積み重なって、確信に変わるまで。


 神代が、あの言葉に辿り着くまで。


 もっと、時間があったはずなのに。


 今回は。


 明らかに、早い。


 思い出すよりも先に、消えていく。


 積み上がるよりも先に、崩れていく。


(このままだと)


 喉の奥が、ひどく乾く。


 ノートを握る手に、力が入る。


「……間に合わない」


 言葉にした瞬間、現実になる気がして。


 それでも、止められなかった。


 次があるかもしれない。


 何度でも繰り返してきたように。


 また、同じ朝が来て。


 また、神代と出会って。


 また、少しずつ近づいて。


 そして――


 消える。


(もし次があるなら)


 胸の奥で、何かが強く脈打つ。


(もっと短いかもしれない)


 今よりも。


 もっと早く。


 もっと何も残らないまま。


 終わってしまうかもしれない。


 それでも。


 完全な絶望じゃなかった。


 今日、神代は言った。


 “忘れてる気がする”と。


 それでも、気になると。


 理由も分からないまま、私を選ぶと。


(……届いてる)


 確かに。


 どこかに。


 記憶じゃない何かが、残っている。


 何度消えても。


 ゼロにはならない何かが。


 ある。


 ノートを閉じる。


 ゆっくりと、息を吐く。


 怖い。


 間に合わないかもしれない。


 全部が消えるかもしれない。


 それでも――


「……次で終わらせる」


 小さく、でもはっきりと呟く。


 自分に言い聞かせるみたいに。


 希望は、まだある。


 ただし。


 時間は、もうほとんど残っていない。


 夜の静寂の中で。


 その事実だけが、やけに鮮明に浮かび上がっていた。


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