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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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25/45

7

 翌日。


 朝の教室。


「おはよ」


 いつもの調子で声をかける。


 神代は一瞬だけこちらを見て――


「……ああ、おはよ」


 わずかに間があった。


 でも、ちゃんと返ってくる。


(……大丈夫)


 昨日の黒崎の言葉が、頭をよぎる。


 それでも、今はまだ。


 こうして会話が成立している。


 それだけで、少しだけ安心する。


---


 昼休み。


「なあ、今日さ」


 神代がパンをかじりながら言う。


「昨日言ってたやつ、どうする?」


「……昨日?」


 一瞬、言葉が止まる。


「ほら、帰りに寄るって話」


「……あー」


 神代は少しだけ考えて、首を傾げる。


「言ってたっけ、それ」


 胸の奥が、ひやりと冷える。


「言ってたよ」


「マジで?」


「うん。駅前の――」


 説明しかけて、やめる。


 神代の顔が、完全に“初めて聞く”表情だから。


「……ごめん、全然覚えてない」


 悪びれもなく言う。


 でも、その声に嘘はない。


 本当に、覚えていない。


(……もう?)


 朝、話したばかりなのに。


 まだ、半日も経っていないのに。


 それでも。


「まあいいや」


 神代はあっさり笑う。


「じゃあ今決めればよくね?」


 軽い。


 あまりにも、軽い。


 “失われたもの”の重さなんて、最初から存在しないみたいに。


「……そうだね」


 合わせるように笑う。


 でも、うまく笑えているか分からない。


---


 放課後。


「じゃあ、あそこ寄るか」


 神代が歩きながら言う。


「うん」


 短く頷く。


 そのとき。


「……あれ?」


 神代が足を止める。


「どうしたの」


「いや」


 眉を寄せる。


「なんでここ歩いてんだっけ」


 胸が、強く締めつけられる。


「……さっき話したでしょ」


「そうだっけ」


「寄り道するって」


「……あー」


 神代は頭をかく。


「悪い、全然覚えてない」


 その言葉が、やけに重く響く。


 昼よりも、さらに早い。


 ついさっきの会話すら、もう抜け落ちている。


(……早すぎる)


 黒崎の言葉が、現実になる。


 加速している。


 確実に。


「……あれ、さっき何の話してたっけ」


 神代が、困ったように笑う。


 冗談みたいな口調で。


 でも、その中身は――冗談じゃない。


「……別に、大した話じゃないよ」


 そう返すしかなかった。


 それ以上、言葉が出てこない。


 喉の奥に、何かが詰まる。


 さっきまで確かにあった時間が。


 会話が。


 全部、なかったことみたいに消えていく。


 目の前で。


 こんなにも簡単に。


「そっか」


 神代は気にした様子もなく、また歩き出す。


 何事もなかったみたいに。


 隣にいる距離も、変わらないまま。


 それなのに。


(……崩れてる)


 確実に。


 音もなく。


 静かに。


 でも、取り返しがつかないくらいに。


 関係の土台が、削られていく。


 それでも――


 隣にいる温度だけは、まだ残っていて。


 それが、余計に残酷だった。


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