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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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23/60

5

 帰り道。


 夕焼けが、街をやわらかく染めている。


 並んで歩く距離は、もう迷いがない。


 最初からこうだったみたいに、自然に隣にいる。


 神代が、何気なく話しかけてくる。


「今日さ、先生の話めっちゃ長くなかった?」


「なってたね。途中から誰も聞いてなかったけど」


「だよな。俺も途中で諦めた」


「最初からでしょ」


「バレた?」


「顔に出てた」


 軽いやり取り。


 笑いながら、歩幅を合わせる。


 沈黙があっても、気まずくならない。


 むしろ、その静けささえ心地いい。


(……ここまで来た)


 ふと、そんな実感が胸に浮かぶ。


 何度も繰り返してきた、この帰り道。


 でも。


 今のこの距離は、明らかに違う。


 会話の長さも。


 視線の自然さも。


 隣にいることへの、違和感のなさも。


 全部が、前よりも“当たり前”になっている。


「なあ」


 神代が、ふとこちらを見る。


「明日もさ、一緒に帰るか」


 何気ない調子で。


 特別でもなんでもないみたいに言う。


 でも、その言葉が――


 胸の奥に、強く響く。


(……明日も)


 また、同じことを言われるかもしれない。


 また、「誰?」って聞かれるかもしれない。


 分かってる。


 それでも。


(それでも、もし)


 ほんの少しだけ。


 期待してしまう。


 ここまで積み重なってきたものが。


 この距離が。


 この空気が。


(このままいけば)


 もしかしたら。


(今度は、消えないかもしれない)


 根拠なんて、どこにもない。


 何度も裏切られてきた考えだ。


 それでも。


 今日の神代は。


 昨日よりも確実に、近くにいて。


 私を選んで、隣を歩いている。


 その事実が、どうしても希望に変わる。


「……いいよ」


 小さく答える。


 声が、少しだけ柔らかくなる。


「じゃあ決まりな」


 神代が笑う。


 その横顔を、ちらりと見る。


 何も知らない顔。


 でも。


 その無意識の中で、確かに私を選んでいる。


(もう少しだけ)


 信じてみてもいいのかもしれない。


 全部が消えるわけじゃないって。


 何かは、ちゃんと残るんだって。


 そう思ってもいいくらいには――


 今のこの距離は、確かだった。


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