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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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4

 昼休み。


 教室はざわざわしていて、落ち着かない。


 私は少しだけ息をついて、席を立った。


 行き先を決めているわけじゃない。


 ただ、人の少ない場所に行こうと思っただけ――


「おい」


 後ろから、声。


 振り向く前に分かる。


「どこ行くんだよ」


 神代が、当たり前みたいにそこにいる。


「ちょっと静かなとこ」


「じゃあ俺も行く」


 迷いがない。


 理由も聞かない。


 それがもう、自然になっている。


「……別にいいけど」


「やった」


 軽く笑って、隣に並ぶ。


 その距離が、近い。


 肩が触れそうで、触れないくらい。


 前は、こんな距離じゃなかったのに。


(……近い)


 意識すると、少しだけ鼓動が速くなる。


 でも、神代は気にした様子もない。


 ただ普通に歩いているだけ。


 それが余計に、現実味を帯びる。


 空き教室に入ると、神代は迷わず窓際の席に座った。


 そして――


 隣の椅子を、軽く引く。


 無言のまま。


 “ここに座るのが当たり前”みたいに。


 少しだけ迷ってから、そこに座る。


 距離は、やっぱり近い。


「ここ、いいな」


 神代が外を見ながら言う。


「静かだし」


「でしょ」


 短く返す。


 それだけなのに、会話が続く。


 間が怖くない。


 沈黙が、重くならない。


 神代がふと、腕を伸ばす。


 窓枠に肘をつく、その動きで。


 ほんの少しだけ、私の肩に触れた。


 ――一瞬。


 ほんの、かすかな接触。


 でも。


(……今、触れた)


 意識がそこに集中する。


 心臓が、強く跳ねる。


 神代は何も気にしていない。


 謝りもしないし、離れもしない。


 ただ、そのままの距離にいる。


 無意識のまま。


 それが、分かる。


「なあ」


 神代がぽつりと呟く。


「なに」


「お前といるとさ」


 視線は外に向けたまま。


 何気ない口調で。


「なんか落ち着くんだよな」


 その言葉が、静かに落ちる。


 あまりにも自然に。


 あまりにも当たり前みたいに。


 だからこそ。


 胸の奥に、深く響く。


(……やっぱり)


 確信に近いものが、形になる。


 記憶はない。


 名前も、関係も。


 何一つ残っていないはずなのに。


 それでも。


 “感情”だけが、ここにある。


 何度消えても。


 何度やり直しても。


 ちゃんと、同じ場所に辿り着く。


「そりゃどうも」


 軽く返す。


 いつもみたいに。


 でも、声は少しだけ柔らかくなる。


「なんだよ、その返し」


「褒め言葉なんでしょ」


「まあな」


 神代が笑う。


 その横顔が、やけに近い。


 手を伸ばせば触れられる距離。


 でも、触れない。


 触れてしまったら、壊れてしまいそうで。


(……これが、恋なら)


 もう、とっくに始まっている。


 何度も。


 何度でも。


 繰り返してきた、この時間の中で。


 神代は何も知らないまま。


 それでも、同じ気持ちに辿り着いている。


 そして私は。


 その全部を、覚えている。


 だからこそ――


 嬉しくて。


 怖くて。


 どうしようもなく、苦しい。


 隣にいる温度が、やけにリアルで。


 それが消えてしまう未来を、同時に想像してしまうから。


 それでも。


 今だけは。


 この距離を、受け入れてしまう。


 何も言わずに。


 ただ、隣にいることを。


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