2/42
シーン②
――私は、人の記憶に残らない。
正確には、残れない。
一日が終わる頃には、少しずつ薄れていって、
次の日にはほとんど“なかったこと”になる。
名前も、顔も、会話も。
全部、最初から存在しなかったみたいに消えていく。
例外はない。
どれだけ仲良くなっても、どれだけ長く一緒にいても、
次の日には「誰?」に戻る。
……ただ一つだけ。
私自身の記憶だけは、消えない。
昨日のことも、一昨日のことも、
何度も繰り返してきた“はじめまして”も、全部覚えている。
だから知っている。
あの人がどんな顔で笑うかも、
どんな風に目を細めるかも、
どのタイミングで興味をなくすかも。
――全部。
知っているのに。
その全部を、私以外の誰も覚えていない。
(……慣れたはずなのに)
胸の奥が、少しだけ痛む。
痛みの場所も、強さも、もう分かっているのに、
それでも消えてくれない。
きっとこれからも、同じことを繰り返す。
出会って、話して、少しだけ距離が縮まって――
次の日には、全部リセットされる。
それでも。
やめる理由には、ならなかった。
だって私は、覚えているから。
消えない側にいるから。
だからきっと、今日もまた――
同じ“はじめまして”を、繰り返す。




