表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

18/51

9

 帰り道。


 夕焼けが、少しだけ強くなってきている。


 並んで歩く距離は、前よりも明らかに近い。


 肩が触れそうで、触れないくらい。


 ほんの数センチ。


 でも、それがやけに意識される。


「なあ」


 神代が、何でもないみたいに声をかける。


「ん?」


「明日の昼、忘れんなよ」


 軽い調子。


 けれど、その言葉は確かに“約束”を前提にしている。


「忘れないよ」


 すぐに返す。


 そのやり取りが、自然にできることが――


 少し前までの私には、考えられなかった。


(……近い)


 距離が。


 言葉が。


 関係が。


 確実に、ここまで来ている。


 何度も何度もやり直して、ようやく辿り着いた場所。


 それが今、目の前にある。


「てかさ」


 神代が、ふと横を見る。


「最近、普通に一緒にいるよな」


「……そうだね」


「なんか、最初からこうだった気もするけど」


 首を傾げる。


 曖昧な記憶。


 でも、完全にはゼロじゃない。


(……やっぱり)


 胸の奥が、わずかに高鳴る。


 もしかしたら。


 本当に、少しずつでも――


「まあ、いいか」


 神代はあっさりと笑う。


「今がそうなら、それで」


 その言葉に、息が詰まる。


 “今”を選んでいる。


 理由も、過去も分からないまま。


 それでも、ここにいることを肯定している。


(……残るかもしれない)


 初めて、そんな考えが形になる。


 この距離が。


 この関係が。


 明日も、消えずに続くかもしれない。


 ――でも。


 同時に、別の声が浮かぶ。


(……消えるかもしれない)


 何度も、何度も経験してきた現実。


 期待した分だけ、崩れる。


 積み上げた分だけ、失う。


 分かっている。


 分かっているのに。


 それでも、期待してしまう。


 今のこの距離が、本物に思えてしまうから。


「……どうした」


 神代が、不思議そうに覗き込む。


「いや、別に」


 慌てて首を振る。


 顔を見られないように、少しだけ前を向く。


 夕焼けが、やけに眩しい。


 胸の奥が、静かに揺れている。


 嬉しさと。


 怖さと。


 両方が、同じくらいの重さで。


 混ざり合って、離れない。


「……なあ」


 神代が、もう一度声をかける。


「明日さ」


「うん」


「ちゃんと来いよ」


 軽く言う。


 冗談みたいに。


 でも、その言葉はどこか真っ直ぐで。


 逃げ場がない。


「……行くよ」


 小さく答える。


 約束なんて、意味がないと分かっているのに。


 それでも。


(……明日も)


 ほんの少しだけ、願ってしまう。


 この時間が。


 この距離が。


 消えずに、残ってくれることを。


 ――その願いが、どれだけ危ういものかを知りながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ