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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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8

 昼休みの中庭。


 人が少ないベンチに並んで座る。


 いつもの教室じゃなくて、少しだけ場所を変えただけなのに、空気が違って感じる。


「ここ、静かでいいな」


 神代が空を見上げながら言う。


「でしょ。たまに来る」


 本当は、“たまに”じゃない。

 何度も来ている。


 でも、それは言わない。


「へえ。じゃあ案内役だな」


「任せて」


 軽く返す。


 会話が、自然に続く。


 前よりも、ずっと。


(……今なら)


 ふと、そんな考えがよぎる。


 少しだけ、踏み込める気がした。


「ねえ、神代」


 名前を呼ぶ。


 前よりも、迷いなく。


 神代が「ん?」と振り向く。


「さっきの授業、寝てたでしょ」


「バレてた?」


「分かりやすすぎ」


「ちゃんと起きてたつもりなんだけどな」


「途中から完全に意識飛んでたよ」


 くすっと笑う。


 神代もつられて笑う。


「じゃあ、あとでノート見せてくれ」


「いいけど、今度はちゃんと聞きなよ」


「善処する」


「絶対しないでしょ」


「なんでそんな信用ないの」


「今までの実績」


「ひど」


 軽いやり取り。


 でも、そのテンポが心地いい。


 間が合っている。


 言葉が重ならない。


 少しずつ、“噛み合ってきている”感じがする。


「……なあ、澪」


 名前を呼ばれる。


 不意打ちみたいに。


 一瞬、呼吸が止まる。


「なに」


 できるだけ普通に返す。


「お前さ」


 神代は少しだけ首を傾げる。


「最初より、だいぶ喋るようになったよな」


「そう?」


「うん。なんか、今のほうが自然」


 その言葉に、胸の奥がじんわり温かくなる。


(……違うよ)


 本当は。


 ずっと前から、こうやって話してきた。


 何度も、何度も。


 ただ、あなたが覚えていないだけで。


 でも。


「神代が慣れただけじゃない?」


 少しだけ冗談っぽく返す。


「それもあるかもな」


 あっさり頷く。


 否定しないところが、なんだか可笑しくて。


「でも」


 神代は続ける。


「今のほうが、いい感じ」


 その言葉に、また胸が鳴る。


 ――いい感じ。


 それはきっと、関係が“できている”ってこと。


 たとえ、それが明日には消えるとしても。


(……今ならいけるかも)


 ほんの少しだけ、勇気が湧く。


 私は、そっと距離を詰める。


 肩が触れないくらいの、ほんの数センチ。


 でも、それは私にとっては大きな一歩で。


「……ねえ、神代」


「ん?」


「明日もさ」


 一瞬だけ、言葉が詰まる。


 それでも、続ける。


「ここでお昼、どう?」


 提案する。


 “次”を前提にした言葉。


 神代は少しだけ考えるように空を見てから、軽く頷いた。


「いいな、それ」


 あっさりと、受け入れる。


「じゃあ明日もここな」


 約束みたいに言う。


 何気ない声で。


 ――明日も。


 その言葉が、胸の奥でやけに大きく響く。


(……続くって、思ってる)


 この時間が。


 この距離が。


 当たり前みたいに、明日もあるって。


 神代は何も知らないまま、そう信じている。


 そして私は――


 それが叶わないことを、知っている。


 それでも。


「うん、約束ね」


 笑って答えてしまう。


 守られない約束だと分かっていても。


 それでも、今だけは。


 “続く未来”を信じてみたかった。


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