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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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4

 昼休み。


「澪ー! 一緒に食べよ!」


 教室の後ろから、元気な声が飛んでくる。


 振り返ると、陽菜が手を振っていた。


「今日さ、お弁当ちょっと頑張ったんだよね。見て見て!」


「ほんとだ、色すごいね」


「でしょ? インスタ映え意識してみた」


「それ誰に見せるの」


「え、澪」


「責任重大だね」


 ふたりで笑う。


 机をくっつけて、自然と距離が近くなる。


 陽菜は話すのが上手で、聞くのも上手だった。


「てかさ、神代と最近よく一緒にいるよね」


「……そうかな」


「そうだよー。帰りも一緒でしょ?」


 にやにやしながら覗き込んでくる。


「別に、たまたま」


「はいはい。たまたまねー」


 明るい声。軽いノリ。


 でも嫌じゃない。


 むしろ――


(楽しい)


 こんなふうに、誰かと普通に笑い合う時間があることが。


「恋バナしよ、恋バナ!」


「急だね」


「いいじゃん。澪って好きな人いるの?」


 箸を止めて、少しだけ考える。


 頭に浮かぶのは、一人だけ。


 でも、それをそのまま言うのは、少しだけ怖くて。


「……どうだろ」


「なにそれー、絶対いるでしょ」


「陽菜は?」


「私はねー、今ちょっと気になってる人がいてさ」


 楽しそうに話し出す。


 その横顔を見ながら、胸の奥がじんわり温かくなる。


(……いいな)


 こういう時間。


 ちゃんと続いていく関係。


 明日も、その次も、当たり前に続くはずの――


 ――


 翌日。


「陽菜、おはよ」


 いつも通りのテンションで声をかける。


 昨日の続きみたいに。


 当たり前みたいに。


 陽菜は振り向いて、私を見る。


 そして、少しだけ首を傾げた。


「……えっと」


 その表情に、心臓がゆっくり冷えていく。


「誰?」


 ――ああ。


 分かっていたはずなのに。


「……朝霧澪。同じクラス」


 口が勝手に動く。


 いつもの言葉。慣れた返し。


「ごめん、覚えてないや」


 軽い調子で、悪びれもなく笑う。


 昨日と同じ顔で。


 昨日と同じ声で。


 でも、その中に“私”はいない。


「……そっか」


 笑おうとして、少しだけ失敗する。


 胸の奥が、きしむみたいに痛む。


(……神代のときより)


 ずっと、重い。


 ずっと、痛い。


 昨日、あんなに話したのに。

 一緒に笑って、恋バナまでして。


 あの時間が、全部――


「ねえ、なんか用?」


 陽菜が不思議そうに聞いてくる。


 距離が、遠い。


 昨日より、ずっと遠い。


「……ううん」


 首を振る。


「なんでもない」


 それ以上、言えなかった。


 言っても意味がないと分かっているから。


 どれだけ積み重ねても、全部消える。


 どれだけ近づいても、また“はじめまして”に戻る。


 神代だけじゃない。


 誰とも。


 誰とも――


(……関係なんて、残らない)


 分かっていたはずの現実が、静かに突き刺さる。


 それでも。


 昨日の記憶だけが、鮮明に残っていて。


 笑い声も、会話も、全部覚えているからこそ――


 余計に、つらかった。


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