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君は何度も僕を忘れる  作者: 南蛇井


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3

 放課後。


「……帰るか」


 神代が立ち上がるのと、ほとんど同時だった。


 鞄を肩にかけて、特に約束したわけでもないのに、自然と歩き出す方向が揃う。


 ――気づけば、もう何日もこうしている。


 “たまたま一緒になる”帰り道が、ほとんど習慣みたいになっていた。


「今日、暑くない?」


 校門を出たところで、神代が空を見上げる。


「春ってこんなだっけ」


「それ、毎年言ってる気がする」


「言ってるかもな」


 軽く笑う声。


 間が空かない。


 何を話すか考えなくても、言葉が続いていく。


「てかさ、あの先生さ」


「現代文?」


「そう。絶対話脱線するよな」


「するね。気づいたら全然違う話してる」


「今日も半分くらい雑談じゃなかった?」


「それで成績つけるんだからすごいよね」


「それな」


 小さく笑い合う。


 歩幅も、いつの間にか揃っている。


 沈黙が怖くない。


 何も話さなくても、変に気まずくならない距離。


 ――こんなふうに並んで歩く日が来るなんて、最初は思っていなかった。


「お前さ」


 ふいに、神代がこちらを見る。


「意外とツッコミちゃんとしてるよな」


「意外ってなに」


「もっと大人しいと思ってた」


「それ、初日の印象でしょ」


「あー……たぶん」


 少しだけ考えてから、神代は苦笑する。


「なんか、最初より話しやすくなってる気がする」


 さらっと言う。


 深い意味なんてなさそうに。


 でも。


(……最初、なんて覚えてないくせに)


 心の中で、そう思ってしまう。


 覚えていないはずなのに。

 全部、リセットされているはずなのに。


 それでも、“変化”を感じている。


 それが、どうしようもなく嬉しくて。


「……そっちもね」


 少しだけ顔を逸らして答える。


「お前も変わったよ」


「そう?」


「前より、ちゃんと喋る」


「それ、どういう意味」


「そのまんま」


 軽く肩をすくめる仕草。


 くだらないやり取りなのに、笑ってしまう。


 声が自然に出る。


 無理をしていない。


 ――ただ、楽しい。


 信号で立ち止まる。


 赤い光の下で、並んで立つ。


 横を見ると、神代も同じようにぼんやり前を見ていた。


「なあ」


「なに」


「なんでだろうな」


 ぽつりと落ちる声。


「お前といるとさ」


 一瞬だけ、言葉を探すように間が空く。


 そして、いつもの調子で続ける。


「なんか、楽なんだよな」


 信号が青に変わる。


 歩き出すタイミングも、同時だった。


 胸の奥が、静かに温かくなる。


(……これが)


 “積み重ね”なんだと思った。


 たとえ、明日には消えてしまっても。


 今日のこの時間は、確かにここにあって。


 少しずつ、少しずつだけど――


 同じ距離に、戻ってきている。


 何度でも。


 何度でも。


 私はまた、この帰り道を歩く。


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