64話
その日の夜。ギルド本部。
人の少ない時間帯。
レイカは一人、奥の資料室にいた。
机の上には、いくつかの書類。
そして、端末。
「……妙だな」
小さく呟く。
画面に表示されているのは、冒険者の登録情報。
だが――
「該当なし、か」
名前は分からない。
そもそも名乗っていないだが、あれだけの実力。
普通なら、何かしら記録が残る。
しかし、何もない。
「……完全に空白」
不自然すぎる。
レイカは椅子にもたれながら考える。
(あの戦闘)
相模原ダンジョン。残っていた痕跡。
明らかに異質だった。
切断の精度。魔法の密度。
そして――
「収納、か」
あの魔法。聞いたこともない。
それを普通と言った。
「……ありえん」
だが、実際に見た。
事実として存在している。
レイカは別の資料を開く。
今度は過去の事故記録。
ダンジョン関連。数年前まで遡る。
ページを流していく。
そして指が止まる。
「……三年前」
小さく呟く。
ある記録。ダンジョン発生初期。
不安定だった時期。
「行方不明者……複数」
その中の一つ。年齢。
「……一致するな」
20歳前後。現在と合う。
だが、それだけだ。
名前は一般的なものばかり。
特定はできない。
それでも。
「……可能性はある」
完全に無関係とは思えない。
レイカはさらに遡るだが、それ以上は出てこない。
「……ここまでか」
椅子に深く座る。天井を見上げる。
(あいつら)
言葉。魔法。戦い方。
全部が、この世界のものじゃない。
そして――
「戻ってきてから」
あの言葉。引っかかる。
「どこから戻ってきた」
誰に聞くでもなく、呟く。
答えはないだが仮説は立つ。
「……別の場所」
普通じゃない場所。
そう考えれば、辻褄は合う。
レイカはゆっくりと立ち上がる。
「……無理に暴く必要はない」
そう言うだが口元がわずかに歪む。
「だが、興味はある」
本音だった。強さの理由。
あの異質さ。
そして、過去。
「……もう少し探るか」
小さく呟く。資料を閉じる。
部屋を出る。
足音が静かに響く。誰もいない廊下。
その中で――レイカは確信に近づいていた。
(ただの人間じゃない)
それだけは、もう間違いなかった。
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