40話
数日後。
ギルド本部の空気は、いつも通り――のはずだった。
だが。
「レイカさん、ちょっといいですか」
入口付近で、慌ただしい声が響いた。
数人の冒険者が戻ってきている。
その中心に――一人、見慣れない女がいた。
フードを深く被り、顔は半分ほどしか見えない。だが、明らかに雰囲気が違う。
「どうした」
レイカが椅子に座ったまま視線だけ向ける。
「ダンジョン内で保護しました」
「保護?」
「はい」
冒険者の一人が続ける。
「言葉が通じなくて……」
「それで?」
「……強いです」
その一言で、レイカの目が少しだけ変わった。
「どれくらいだ」
「俺たち三人で囲まれても、余裕でした」
「攻撃はしてきませんでしたけど」
「やろうと思えば全員やられてました」
レイカは数秒だけ黙る。
そして立ち上がった。
「見せろ」
女の前まで歩く。フードの奥。
金色に近い髪が、わずかに見えた。
女は静かに周囲を見ている。
警戒はしているが、敵意はない。
「お前」
レイカが声をかける。
「分かるか?」
女は反応しない。ただ、じっとレイカを見るだけ。
「……やっぱり通じてないですね」
後ろの冒険者が言う。
その時。女の視線が、ゆっくりと動いた。
ギルドの中を見渡す。
人の流れ。武器。空気。
すべてを確認するように。
そしてわずかに口を開いた。
「……」
だが、出てきたのは――誰も理解できない言葉だった。
「やっぱり無理か」
レイカが小さく息を吐く。だが、その瞬間。
女の体が、わずかに揺れた。
「っ――」
次の瞬間。
消えた。
ザッ。
レイカのすぐ横。
いつの間にか、立っていた。
ギルド内の空気が一気に凍る。
「なっ……!」
「いつ動いた!?」
誰も見えていない。
レイカだけが、反応していた。
槍を半分だけ構えているだが、完全には構えていない。
様子見だ。
女はただ、レイカの横に立っている。
そして、じっと見ている。
「……敵意はない、か」
レイカが低く言う。
女は何も答えない。だが、その目は明らかに見ている。
強さを測るように。
レイカが小さく笑った。
「面白いな」
そのまま、ゆっくりと向き直る。
「一つ聞く」
「分かるかどうかは知らんが」
女を見据える。
「お前、どこから来た」
女は少しだけ目を細めた。
そしてぽつりと何かを言う。
やはり分からない言葉。
だが――その瞬間。
レイカの目が、わずかに鋭くなった。
(今の動き……)
(普通じゃない)
ただ速いだけじゃない。
気配が消えるタイプの移動。
そして無駄のない体の使い方。
(あの二人に近い)
数日前に見た、あの戦いがよぎる。
レイカは小さく息を吐く。
「とりあえず」
「ここに置いておくか」
「え!?」
周りが驚く。
「いいんですか!?」
「外に出す方が危険だ」
「確かに……」
女はそのやり取りを、ただ見ている。
状況を理解しているのかは分からない。
だが、落ち着いている。
「部屋を用意しろ」
レイカが指示を出す。
「しばらく様子を見る」
冒険者たちが動き出す。
その中で、レイカはもう一度女を見る。
「……何者だ、お前」
小さく呟く。
女は何も答えない。
ただ静かに、そこに立っていた。
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