3話
現実世界にダンジョンあったら、レベル上げは確定ですね。
数日が経過し、俺たちは攻略したダンジョンとは別のところに来ていた。
東京ダンジョンの入口に立った瞬間、俺はわずかに眉をひそめた。
「……思ったより、人が多いな」
「他のダンジョンとは、空気が違うのう」
相方の言う通りだった。
装備の整ったパーティも確かにいる。だが全体的に、どこか緊張感が薄い。
笑い声。
軽口。
中には、配信機材を抱えたまま準備をしている者までいる。
「東京ダンジョンは、比較的安全って言われてるらしいぞ」
「噂を信じすぎじゃな。未知の階層がある以上、安全など存在せん」
ここが俺たちにとっても、初めての東京ダンジョンだ。
それでも、油断する気にはなれなかった。
俺たちは会話を控え、黙々と階層を下っていく。
二十階層。
三十階層。
敵の性質や動きは、他のダンジョンと大きくは変わらない。
だが、魔力の流れがどこか歪んでいる。
「……嫌な感じがする」
「うむ。下に行くほど性質が変わるダンジョンじゃな」
三十五階層を越えたあたりで、周囲から人影が急に減った。
引き返すパーティが増えているのだろう。
「ここからが、情報の少ない領域か」
「初物は、いつも厄介じゃ」
四十階層。
通路を曲がった瞬間――
鋭い悲鳴が、空気を切り裂いた。
「きゃっ――!」
反射的に足が動く。
「戦闘音だな」
「助けを求めておる」
理由を考える前に、体が前に出ていた。
角を抜けた先で見えたのは、
巨大な爬虫類型のモンスターと、崩れかけたパーティ。
その中で、一人の女性が壁際に追い詰められていた。
武器は弾かれ、足が止まっている。
初見ダンジョンで判断を誤った――そんな状況だった。
モンスターの爪が、彼女へ振り下ろされる。
――間に合う。
俺は一息で距離を詰め、刀を抜いた。
弾き。
踏み込み。
一閃。
首が落ち、巨体が床に崩れ落ちる。
「……え?」
呆然とした声を背に、すぐ次へ意識を切り替える。
「もう一体、来るぞ」
相棒が一歩前に出た。
「初見でこれは、少々荒っぽいのう」
次の瞬間、爆音。
二体目は通路の奥ごと吹き飛ばされた。
静寂。
助けた女性は、その場に座り込んだまま、俺たちを見上げている。
「だ、大丈夫か?」
「は、はい……ありがとうございます……」
「無理はするな。ここから先は、慣れた者でも油断すれば死ぬ」
そう告げて踵を返すと、相棒も何も言わずついてきた。
「……初見の割には、随分派手にやったのう」
「他に選択肢がなかった」
「それもそうじゃな」
――だが、その静寂は長くは続かなかった。
「に、逃げるぞ!」
誰かの叫びを合図に、残っていたパーティが一斉に踵を返す。
振り返ることもなく、我先にと上層へ駆けていった。
「おい、待――」
声を上げた時には、もう遅い。
残されたのは、先ほどの少女だけだった。
「……置いていかれた、か」
「判断としては正しいが、薄情じゃな」
少女は壁に背を預け、肩で息をしている。
武器を失い、膝が震えているのが一目で分かった。
「怪我は?」
「だ、大丈夫です……多分……」
まだ恐怖が抜け切っていない声だ。
「名前は?」
「え……あ、はい。白瀬ユイ、です」
「ユイ、な。無理に動くな」
足元に転がっていた武器を拾い、差し出す。
「……ありがとうございます」
彼女がそれを受け取ろうとした、その時――
「……あ」
ユイが、はっとしたように胸元を見る。
小型のカメラが、そこに固定されていた。
「……配信、切れてない」
「?」
「え、配信?」
「す、すみません……ダンジョン攻略のライブ配信をしてて……」
「今も?」
「……はい」
一瞬の沈黙。
「ほう。随分と余裕のある趣味じゃな」
「ち、違います!ここまでは安全って聞いてて……」
「結果は、見ての通りじゃな」
ユイは反論できず、小さく縮こまる。
俺は頭をかき、ため息をついた。
「……生きてるなら何でもいい。この階層でソロは無茶だ」
「す、すみません……」
「パーティは戻らないだろ。ここから先は俺たちが護衛する」
「え……いいんですか?」
「偶然居合わせただけだ。それに、このまま一人で帰すのは危ない」
相棒が、くくっと笑う。
「命拾いしたと思うがよいぞ。妾たちは、初見だが暇ではない」
「は、はい……!」
ユイは何度も頭を下げた。
その背後で、
彼女のカメラには無数のコメントが流れていた。
――だが、その事実に、
この時の俺たちは、まだ気づいていなかった
ダンジョン配信者ってどうやって配信してるんでしょうか
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