2話
相方って良いですよね。
ダンジョンを完全攻略し、相方と一緒に家まで帰ってきた。
最下層の空気を思い出すと、今こうして玄関の前に立っていることが、少しだけ現実味を欠いて感じられる。
血の匂いも、魔力の残滓もない。ただの、どこにでもある住宅街だ。
「お主、ダンジョンで得たドロップ品は売らなくてよいのか?」
靴を脱ぎながら、相方が何気ない調子で言った。
「ギルドが割とめんどくさいからな」
「それは……ギルドに所属しておらんからじゃろ?」
「一番の理由はそれだな。二番目は、銀行口座を作らなきゃいけない」
相方は小さく首を傾げた。
この世界の仕組みには、まだ慣れていない部分も多い。
異世界から帰還して、すでに一ヶ月が経っている。
だが今の俺には、自由に使える銀行口座がない。
正確に言えば、口座自体は存在している。
ただし、一度銀行に出向き、諸々の手続きを済ませなければならない状態だ。
理由は単純だった。
俺が異世界に飛ばされている間、この世界では三年近い時間が経過していた。
その間、俺は完全に失踪扱いとなり、各種記録はすべて停止。
銀行口座も例外ではなく、凍結されている。
「面倒な世界じゃな」
相方がぽつりと呟く。
「ああ。向こうは向こうで理不尽だったけど、こっちは別の意味で理不尽だ」
家を借りられているのも、正直かなり無理を通した結果だった。
俺の戸籍の扱い、相方の存在、その他諸々。
説明できない部分はすべて国家機密案件として国に丸投げし、
ようやく生活の最低ラインだけは確保できた。
その結果として――
俺と相方は、今こうして同じ家で暮らしている。
玄関で靴を脱ぎ、並べる。
俺のものと、相方のもの。
サイズも形も違う二足が、当たり前のようにそこにあった。
異世界では、常に命のやり取りをしていた。
寝る時でさえ剣を手放せなかった日もある。
それに比べれば、この光景はあまりにも平和で――少しだけ、落ち着かない。
「……それでも」
ふと、相方が口を開く。
「向こうに、置いてきた者たちのことに未練はないのか?」
その問いは、責めるものでも、詮索するものでもなかった。ただ、事実を確かめるような声音だった。
少しだけ、沈黙が落ちる。
「未練はあるよ」
嘘はつかなかった。
「仲間もいるし、借りもある。正直、未練がないと言えば嘘になる」
命を預け合った仲間たちの顔が、脳裏をよぎる。今も、あの世界で戦っているはずだ。
相方は何も言わず、ただ静かに耳を傾けている。
「でもな」
俺は、言葉を続けた。
「それでも帰りたかった。向こうでどれだけ強くなっても、あの世界で生き続ける自分が想像できなかった」
剣を振るうことしか知らない人生を、
あの世界で終える未来が、どうしても受け入れられなかった。
「……選んだのじゃな」
「ああ」
帰ってきた理由は、逃げでも後悔でもない。
自分で決めた――それだけだ。
「それに、こっちに来てもお前がいてくれるだろ?」
言ってから、少しだけ照れくさくなる。
だが、事実でもあった。
相方は袖の長い和風の服を軽く整え、俺の方を見る。
「なら、妾はそれでよい」
その言葉は、驚くほどあっさりしていた。
それ以上は踏み込まない。
いつも通りの、心地よい距離感だった。
この世界での生活は、まだ安定とは言えない。
金も、立場も、未来も、すべてが曖昧だ。
それでも。
向こうの世界から、一緒に帰ってきた存在が、今ここにいる。
それだけで、しばらくは戦っていける気がした。
少なくとも――
この世界で、もう一度生き直す理由にはなる
僕には友達が少ない
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