第4話 村人は知りませんが、だいたい事故です
よく晴れた、気持ちのいい午後のこと。
「フレアちゃん、いるかしらー?」
近所に住む村人の女性が、家の前までやってきた。
「フレア様なら、先ほどまであちらで……」
そう言いかけて、アリエスは言葉を止める。
さっきまで確かにそこにいたはずなのに、姿が見当たらない。
「フレアちゃん、色んな人に頼られてるから忙しいでしょう?
でもね、ちょっとお願いがあって……」
申し訳なさそうに言う女性に、アリエスは別の意味で申し訳なさそうな顔になる。
(フレア様、さっきまでフェイスパックしながら昼寝してたのに……。
もしかして、何か察して隠れてる?)
「フレア様ー?どこですかー?」
すると、どこからともなく――
「はいはーい、おまたせー♪」
パタパタと、完璧に身支度を整えたフレアが現れた。
(……やっぱり)
「あら、フレアちゃん。忙しいのにごめんなさいねぇ」
「いえいえー!ちょうど今、前の仕事が片付いたところでしてー」
オホホホ、と大げさに笑うフレア。
(大嘘つき……)
「最近、雨が少ないでしょう?
畑の作物の育ちが良くなくてね。
ちょっと見てもらえたらと思って」
「なるほど!急ぎの用事もありませんし、さっそく行きましょう!」
にっこり笑って答えるフレア。
アリエスは慌てて後を追う。
「フレア様、私も行きます!」
(嫌な予感しかしない……)
⸻
畑に着くと、女性のご主人が困った顔で待っていた。
「悪いね、フレアちゃん。わざわざ来てもらって」
「いえいえ!いくらでも呼んでください!」
「さすがフレアちゃん。頼りになるねぇ」
夫婦の称賛を、複雑な気持ちで見つめるアリエス。
(何も起きませんように……)
フレアは土と作物の様子を確かめると、静かに目を閉じ、魔法の言葉を紡ぐ。
畑が柔らかな光に包まれ、地下水が巡り、やさしい雨が降り注いだ。
「……わぁ」
「葉っぱの色が、全然違うわ!」
(やっぱり、普通にすごいんだよなぁ……)
「ありがとうねぇ。お礼に中でお茶でも飲んでいって」
「ありがとうございます。もう少しだけ様子を見てから伺いますね」
夫婦は安心した様子で家へ戻っていった。
⸻
「喜んでもらえて良かったですね、フレア様!」
「そうね。でも、どうせならもう一段階……」
目を輝かせ、フレアは杖をくるりと回す。
「ちょっ、フレア様!?
今が一番いい状態ですから!これ以上は――」
「大丈夫、大丈夫♪」
止める間もなく、杖が振り下ろされた瞬間――
ザバーーーーーン!!
「っ!?」
(やっちゃったーーーーーー!!!)
雨、というより豪雨が畑を襲う。
「フレア様ーー!!
だから言ったじゃないですか!!
泥沼になってます!!」
「落ち着きなさい、アリエス!
これをこうして、あれを――」
その時、家から夫婦が慌てて戻ってきた。
「フレアちゃん!今の音、大丈夫!?」
(ああああ……)
だが。
「あら……?」
畑は、何事もなかったかのように元通りだった。
……見た目だけは。
「だ、大丈夫なのかしら……?」
「えぇ!土壌を改良しましたので、栄養もばっちりです!」
「まぁ!さすがフレアちゃん!」
(……本当に?)
⸻
数日後。
「フレアちゃん!!いるかしら!?」
例の女性が、息を切らしてやってきた。
「フレア様!どうするんです!?
絶対怒ってますって!!」
「……私はいない。いないことにして」
「卑怯です!!」
「あ!アリエスちゃん!フレアちゃんいるわよね?」
フレアに代わり謝ろうとした、その時――
「すごいの!大豊作よ!フレアちゃんのおかげ!」
「でしょー?予定通り♪」
どこからともなく現れるフレア。
後ろから、ご主人が野菜と果物を抱えてやってきた。
「いやー、さすが私♪」
「……いやいやいや!
今回は結果オーライなだけですからね!!」
「まぁまぁ、細かいことは気にしない気にしない」
収穫物を抱えてホクホク顔のフレアを、アリエスは安堵と呆れの混じった目で見つめる。
(やっぱり……ポンコツなのかも)
こうして今日も、騒がしく平和な一日が過ぎていくのだった。




