第3話 実験は計画的にやりましょう(出来た試しはありません)
今日も今日とて、フレアは謎の魔法実験を繰り返している。
ここが村の外れで本当に良かった、とアリエスは心の底から思う。
もし村の中心で、毎日あんな実験をされていたら、間違いなく大ブーイングものだ。
それでも――
杖を振るフレアの表情は、なんとも楽しそうだった。
勇者パーティとして各地を巡っていた頃でさえ、これほど無邪気な笑顔を見た記憶は、あまりない。
(フレア様、楽しそう……
出会った頃では、想像もつかないくらい)
魔法実験を眺めながら、アリエスはふと昔のことを思い出し、そっと微笑んだ。
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フレアとアリエスが初めて出会ったのは、勇者パーティ『エテルネル・リアン』が『神秘の森・フェアリア』を訪れた時のことだった。
***
神秘の森・フェアリア。
人里離れた深い森の奥にあり、妖精や精霊、聖獣が住まうとされる神域。
人が足を踏み入れることは、ほとんどない場所だ。
森の中心には、“飲めば不老不死になる”“永遠の美肌が手に入る”など、出処不明の噂が尽きない神秘の泉が存在する。
――そして、その泉こそが、彼ら『エテルネル・リアン』の目的だった。
森の入口までは順調にいっていた。
だが、どうしても中へ入ることができない。
「困ったなぁ……。ここの水を汲んでくるのが絶対条件なのに」
途方に暮れたように、エリオットが呟く。
「ねぇねぇ、もう適当にそこら辺の水汲んで持ってけば良くなーい?」
「そんなわけにいかないよ。
魔族は鑑定スキルを持っている。そんな嘘、すぐ見抜かれることくらい、フレアなら分かるだろう?」
今回の依頼は、魔族との交渉によるもの。
魔族は、フェアリアに立ち入ることができない。
そこで白羽の矢が立ったのが、勇者パーティだった。
エリオットは、“魔族”だから神秘の森へ入れないのに、神秘の泉の水は大丈夫なのか??という何か矛盾しているような疑問が浮かんだのだが、気にしないことにした。
「ちぇっ、分かってますよーだ。
私、ちょっと周り調べてくるから、エリオットたちは方法考えといて!」
そう言って、フレアは軽やかに駆け出していった。
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「まったく……神秘の森への入り方なんて、いくら私でも分かるわけないじゃない」
ぶつぶつ呟きながら歩いていると、明らかに様子のおかしな存在が、ふらふらと飛んでいるのが目に入った。
「……あれって……」
近づいて声をかける。
「ねぇ、あなた。そこで何してるの?」
ビクッと振り向いたその存在は、透明な羽根を持つ、小さな妖精だった。
「……人、間?」
「あなた、妖精よね?
そこの森に入りたいんだけど、案内してもらえないかしら?」
「え!? い、いや、それは……」
これが、フレアとアリエスの出会いだった。
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妖精の里では、十七歳になると親元を離れ、修行という名の“自由”が与えられる。
アリエスも、ちょうどその歳を迎えたばかりだった。
――が。
「絶対に里からは出さないわ!」
母は、極度の娘溺愛者だった。
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「……それで、母と喧嘩して、飛び出しちゃって」
「わかるわーー!
うちの父もそうなのよ! 溺愛ってどうしてああなのかしら!」
大きく頷きながら、フレアの目がきらりと光る。
(……これ、使えるかも)
「あなた、名前は?」
「アリエスです」
「そう、アリエス。
ねぇ、里から出たいのよね?」
「……はい」
「私が説得してあげる!」
「え!? 本当ですか!?」
(これで森に入れるし、水も手に入るし、美肌も……)
ずる賢い笑みを浮かべるフレアと、自由に近づいたことが嬉しくて仕方ないアリエス。
利害は一致していた。
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結果、交渉は成立。
神秘の森に入ることができ、一行は無事に泉の水を手に入れた。
約束通り、フレアはアリエスの母を説得し、アリエスは自由を手に入れた。
「ありがとうございました!
それで、あの、私…フレア様と一緒に旅がしたいです!」
「へっ!?」
アリエスは里から出ることを許されたが、母からある条件が与えられた。
それは、“フレアに同行すること”。
フレアが、神秘の泉で“永遠の美肌”に浮かれている間、母娘の間で何やら約束が取り交わされていたようだ。
戸惑うフレアだったが――
(……アリエスがいれば、いつでも泉に来れるってことよね?)
その目がきらりと輝き、またもやずる賢い考えがフレアの中を駆け巡る。
「いいわ! 一緒に行きましょう!」
こうして、二人の旅は始まった。
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(思い返してみると……
フレア様ってば、なんて図々しかったんだろ)
そう思いながらも、アリエスは楽しそうに笑う。
(あの泉、何の変哲もない、ただの泉だったって知った時のフレア様の顔……忘れられないなぁ)
「アリエスー? どこにいるのー?」
フレアの呼ぶ声に、いたずらっぽい笑顔を浮かべ、アリエスは羽根を揺らした。
その直後。
ドッカーーーーーン!
(…あーあ、フレア様、またやっちゃったよ…)
苦笑いを浮かべ、庭へと急ぐ。
今日もまた、フレアとアリエスの賑やかな一日が始まる。




