第1話 元勇者パーティの魔法使い、現在は村に引きこもり気味です
勇者とその仲間達が生まれ育った、セイロ村。
その村の外れにフレアの住まいはある。
広い庭に、畑、二階建ての住居があり、フレアと、妖精のアリエス。
それに、フレアの妹で、薬師のミリアと三人で暮らしている。
フレアとミリアの父親はこの村の村長で、村の真ん中にある小さな屋敷に、彼女達の母親と二人で暮らしている。
この土地は父親が所有していたが、可愛い娘達のためならと、二人に譲ることにしたのだ。
この父は、娘達が可愛くて仕方ないのか、箱入り娘のように育てたが、逆に母親は、一人でも生きていけるようにと、優しく、時に厳しく育てていった。
そのお陰か否か、姉のフレアは自由奔放、好きなことには猪突猛進な性格で、勇者パーティのメンバーとして世界中を飛び回った。
妹のミリアは、同じように輝くような金髪で、見た目は姉にそっくりではあるものの、真面目を絵に書いたような性格、何に対しても慎重になりすぎるところがある。
暇さえあれば、作業部屋に籠って薬の調合をしたり、研究をしている。
全く逆の性格の二人だか、姉妹仲は良く、村一番の美人姉妹として有名になった。
その庭の真ん中で、杖を振るフレア。
その先には水しぶきがミストのように広がり綺麗な虹が架かっている。
「フレア様、水やりはいいんですが、エリオット様達と一緒に行かなくて良かったんですか?」
「えー、魔王と一緒に温泉巡りでしょー?
アリエナイでしょ」
フッと鼻で笑って答えるフレア。
魔王軍との条約の調印も無事終わり、何だか意気投合した魔王と勇者たちは、一緒に温泉巡りに行くことになったのだ。
一方のフレアはというと、村に帰ってきてからというもの、ほぼ家に籠り、昼寝をするか、庭で謎の実験をするか、謎の実験をするか、謎の実験をするか、謎の…。
つまり、ダラダラと過ごす毎日だ。
「やーっとゆっくり出来るようになったんだもの!
自分の好きな事をして、好きに生活するわ!」
これが最近の口癖だ。
たまに出掛けても、村の中にある小さなお店に顔を出すくらいで、村の外までは出ていかない。
「落ち着いたら、村の人たちの手伝いでもするわ」
そう宣言したものの、いつになることやら…。
そんな彼女なので、仲間たちからの旅行の誘いに乗ることもなく、家に戻ってきた。
「ですが、デイジー様も行かれたんですよね?」
あぁ、とどこか遠い目をしてみせるフレア。
「あの子、美味しいものが大好きだからねぇ。おおかた、それに釣られたんでしょ」
「あら。それを言うなら、お酒には目がないじゃない、姉さんは」
呆れ顔をしたミリアがいつの間にか後ろに立っていた。
「うわっ!ミリア、物音もなく現れないでよ。びっくりするじゃない」
「まぁ、ごめんなさい。何かに夢中になってるようだったから。そんな事より、お昼ご飯の用意が出来たのだけれど」
「あれ?今日のご飯当番、フレア様ですよね?」
「姉さんは、料理に向いてないから、私がすることにしたの」
「あら、失礼しちゃうわ。私だってやるときはやるわよー」
姉妹のやり取りを見つつ、後ろを付いていく。
すると家の中から何やら妙な視線を感じるアリエス。
(あれはもしかして…フレア様、アーメン…)
昼ごはんにウキウキ気分なフレアに対して、嫌な予感が的中しない事を祈るアリエス。
しかし、アリエスの願いも虚しく、それは叶わなかった…。
「ミッリアのごっ飯、ミッリアのごっ飯!」
「姉さん、そんなに舞い上がらない方が…」
「えー?どうしてー?ミリアのご飯楽しみなんだもーん」
と言うなり、ソレは静かにやってきた。
「フーレーアー?」
「か、母様!き、今日はどうしたのかしらーー?」
苦笑いを浮かべ、後ずさりするフレア。
思わず杖を落としてしまう。
「どうしたじゃないでしょ!貴女、またミリアにばっかり家事を任せて!いつも言ってるでしょ!…何たらかんたらうんぬかんぬん、グチグチグチグチ…」
「ミリアー、貴女、母様が来てるの知ってたなら教えてよー」
「こら、フレア聞いてるの?!」
(あーー、始まっちゃった…
この世で一番怖いのは怒ったお母様なのよね…
姉さん、ごめんなさい。検討を祈ります)
ミリアは空気のように、こっそり部屋を出る。
きっと作業部屋に籠って研究でも始めるつもりだろう。
母の襲来を知っていたミリアは、バスケットに入れておいたお昼ご飯をちゃっかり持って行ったようだ。
アリエスも見つからないうちに抜け出そうと試みる。
「アリエスちゃん?」
「?!(…見つかっちゃったー…)は、はい」
「貴女はこの子の監視役なのだから、きちんと見ていてくれないと」
「監視役なんて、母様!私そんなこと…」
「黙らっしゃい!こうなったらもう一度厳しく指導しないとダメね!アリエスちゃん、この子が逃げないように、貴女にも付き合ってもらうわよ」
「?!」
(いーーーーやーーーーー!ミリア様のご飯がぁーーーー!
というか、ミリア様、こっそり抜け出してるしーーー!
自分のご飯は持って行ってるしーーー!)
その後、母の指導は日が暮れるまで続いたという。




