第3話 柔軟剤より、おまえの匂い 男の子side
俺の大事な幼馴染が、突然髪を切った。
それも、ばっさりだ。
「何で切ったんだよ、俺、長い方が好なのに」
掬う一房が無くなって、たまらなく切なくなった。
寂しい思いを押し殺して、頭を、ぐしゃぐしゃに撫でてやると、可愛い膨れっ面をして、文句を言ってきた。
「ちょっと、止めてよ!」
「ボサボサじゃん!」
雛鳥みたいだ、そう思って笑った瞬間、名前を呼ばれて頬が緩んだ。
「尚瑠輝がしたんでしょ!」
何で、こんなに可愛いんだろうな。
試合が始まっても顔がにやけて、高瀬に、思い切り小突かれた。
「ちょっと!気持ち悪いわよ。いつまで、にやけてるの?ちゃんとボール見なさい!」
回りは、誤解しているが、こいつは、口が悪い。
成績は学年トップで、おまけに運動神経も抜群だが、猫を被っている。
美人なのは事実だが、性格は、微妙だ。
裏表はないが、腹黒い所が多い。
「深鈴ちゃん、絶対、誤解してるわよ。私たちが、付き合ってると思って、切っちゃったのよ。綺麗なストレートだったのに、残念だわ。可愛いのは変わりないけど。罪な男ね」
高瀬に言われて、初めて気付いた。
「何でだよ!俺は、あいつしか見てねえのに」
焦ったが、思い当たる節が幾つかあった。
こいつと同じ大学に進学するのも、その一つかもしれない。
「深鈴ちゃんに、さりげなく教えてあげようか?私、大学生の彼氏いるよって」
完全に面白がっていた。目が笑っている。
からかうように言ってきたので、目を吊り上げて即効断った。
「いい!おまえは、余計な事するな!」
バスケ部の引退試合、最後のユニフォームを手渡した。
「これ、洗濯しといて」
受け取る時、眉間に皺を寄せたように見えたが、おそらく気のせいだ。
いつも喜んで洗ってくれる。だから、何も心配いらない。
安心して、高瀬に報告に行った。決意宣言みたいなものだ。
「洗ったの受け取る時に、告白する」
「あら、そう。上手くいくといいわね、深鈴ちゃんの為に祈ってるわ」
「俺じゃねーのかよ」
ケラケラ笑われたおかげで、緊張がほぐれて、一緒に笑った。
翌朝、持って来てくれたユニフォームは、いつもの石鹸の匂いがしなかった。
顔をしかめて受け取ると、ユニフォームを鷲掴みにして匂いを嗅いだ。
「くせえ」
思わず呟いて、しまったと思ったが、遅かった。
案の定、目を吊り上げて突っ掛かってきた。
「は!?柔軟剤の香りに文句があるの!?」
文句?大ありだ!心の中で叫んで、気付けば、抱き締めていた。
「え!?」
「柔軟剤なんかで消すなよ。おまえの匂いが、俺の明日だ。未来もずっと一緒にいてくれ。好きだよ」
強張る体に声を落として、最後の四文字は、耳元で囁いた。
「私も……好きだよ」
腕の中でこぼれた四文字が、永遠を誓う言葉に聞こえた。




