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6異世界、やべえ

 キュイの体を何度か石鹸で荒い、水で流してとくり返すと、キュイは見違えるように綺麗になった。


 白い毛は、かすかに発光しているように感じるし、石鹸でわしゃわしゃと洗ったにも関わらず、シルクのように滑らかな毛質。

 まだ濡れている今は、コンディショナーをこれでもかというほど塗りたくったみたいに、つるんっとしている。


 これはもしかして、どこかしらの金持ちに飼われていた動物なんじゃないか?


「キュイ、おまえ、飼い主はいないのか?」


「きゅう?」


 キュイは小首をかしげ、そして、右前足でビシッと示した。俺を。


「俺の前に、飼い主とかいなかったのか?」


「きゅい」


 キュイは首を横に振る。

 いないってことか?


「野良だったのか? あー、野生、この辺でひとりで生活してたのか?」


「きゅ、きゅ~~、きゅきゅきゅ、きゅっ、きゅきゅうっ!」


 ……わからん。

 なにかを必死に説明しようと試みているようだが、俺がキュイの言葉がまったく解読できない。


 というか、キュイはバイリンガルか。俺はこのよくわからん言語しか話せないが。


 しかたない、ひとつずつ聞くか。


「ひとりだったのか?」


「きゅ」


「もとの家は?」


「きゅ~~」


 キュイはキョロキョロと辺りを見回し、後ろのほうを示した。


「向こう?」


「きゅ~」


「……わからないのか」


「きゅ」


 なるほど。だいたいわかった。

 キュイは今はひとり……いや、一匹。もとの家はここにはない。迷子になって怪我をしていたとか、そんなとこか。


「前に飼い主はいない」


「きゅ」


「怪我は? 襲われたのか」


「きゅ」


「オーケー、わかった。最後に聞く」


 俺が真顔になったからか、キュイはピシっと体を伸ばし、目を険しくさせた。


「おまえ、病気を持っているか?」


「……きゅ?」





 とりあえず、健康体らしきキュイを腕に抱え、森を歩く。


 一応、爪も綺麗に荒い、口は水でゆすいでもらった。言葉がわかると便利なもんだ。


「街はこっちか?」


「きゅ」


 うなずいたキュイの指示に従って森の中を歩く。


 あっているのかわからないが、俺はもっと土地勘がないからな。先輩に当たるキュイに従って、この樹海をぬける作戦だ。


 そのおかげか、獣だか人だかは不明だが、往来があるようで草木があまりない道に出て、幸先はいい。



 今のキュイは、どこかの王族の猫のように光り輝いている。肩にファー付きの赤いマントをかけ、王冠をかぶせたいくらいだ。

 絶対に似合う。


 キュイは羽は生えているが、見た目は猫に近い。大きさは頑張れば肩にも乗れそうなくらい。全長20センチくらいか?

 ティッシュ箱くらいの大きさだ。伸びたらもっとデカそうだが。

 重さはたぶん3キロ程度。


 首周りの毛が一番ふわっふわしていて、色も違う。背中の羽は、羽というより毛だった。どういう風に飛ぶのかはよくわからない。



 キュイを綺麗にしたあとに、俺も水と石鹸で簡単に体を洗い、ついでに新品の黒Tシャツと黒の長ズボン、靴下、スニーカーとリュックを出した。


 リュックはチャックの開閉がイマイチだったので、5回ほど作り直した。今リュックには不良品のリュックが4つ眠っている。


 そして、この作り直しの過程で気がついたが、スキル使用は疲労に関係するようだ。MPみたいなものかもしれない。


 ステータス画面があったなら、俺のMPが削られていくのも見えただろうが、生憎とそういうのはないので、ぶっ倒れないよう気をつけなければならない。


 それに、今の俺は、かなりガリガリの青年だからな……。

 キュイより先に、自分の健康を考える必要もありそうだ。


 森を歩き続けること、体感時間1時間。かなり歩いた気がするが、どうなんだ。街はまだなのか。


「きゅっ?」


「どうした?」


 突然、キュイが上を向いた。耳がひょこひょこと動いている。


「きゅきゅきゅ!」


 なにかを懸命に話しながら、キュイはビシッと左を示した。疑問に思いつつ移動すると、どうやら大木を示しているようだ。


「木がどうかしたか?」


「きゅ、きゅきゅ、きゅっ!」


 キュイが空を飛んだ。


 俺のちょうど肩くらいの高さで、小さな羽をパタパタと動かし、前足で俺の背中を押す。


「な、なんだよ。ここにいろって?」


「きゅ」


 よくわからんが、木の後ろに隠れろと言いたいようだ。


 とりあえず指示通り、大木の後ろに隠れる。一応用心してしゃがみこみ、草むらにも隠れてみた。


 黙って様子をうかがっていると、騒々しい音が聞こえてきた。


 音……羽音か?


 上空から聞こえる。視線上に向けるが、生い茂る葉でよく見えない。

 地面に影ができた。

 俺の体をすっぽり覆うような、巨大な影。


 鳥……にしてはデカい気がするが。影だしな。


 と思いつつも、影の異様な形が気になる。頭部に長い角のようなものが2本。尾羽にひらひらとしたかざり紐みたいな5本。鳳凰か? 昔なにかの絵で見た鳳凰は、ひらひらした尾羽が複数あった。


 それに似ていると言えば似ている。


 と考えていたら、その影はどんどんデカくなっていき、ズゥンッと地響きをともなって着陸した。

 周辺の木々が大きくゆれ、葉を落とし、耐えられなかった若木は力尽きたように倒れた。


 さいわい、俺のいた大木は頑丈で葉が落ちただけですんだ。


 俺は木の陰からそっと盗み見て、体を硬直させる。


 おいおいおい。

 冗談だろ。


 なんだ、アレは。


 さっきまで俺たちが歩いていた道、ざっと横幅二メートルはあったはずだが、そこに羽を畳んで窮屈そうにしているバカでかい鳥がいた。


 いや、あれを鳥と呼んでいいのか。ワシや鷹よりも大きい。もう恐竜の域だ。プテラノドンとかの翼竜なみだ。見たことはないが。


 はるか昔に、博物館で恐竜の全身骨格標本を見たことがあるが、そのときと同じデカさに感じる。


 息を殺し、一切の行動を止め、気配を消す。


 頼むからこっちに気づいてくれるなよ。


 心の中で祈る。

 心臓だけは、ドッドッドッドと緊張に速い鼓動を刻んでいた。


 そのバカでかい鳥は、なにかを探すように左右を見て、地面のあたりに顔を近づけ、「おかしいな?」とでも言うかのように首をかたむけ、そして……。飛び立った。


 バサッバサッ。

 翼の音が聞えなくなるまで、微動だにせず、呼吸も止める。だんだん苦しくなってきて、それでも限界まで耐えきって、ついに、ぶはぁぁーっと息を吐きだした。


 背中は冷や汗でぐっしょりだ。

 額の汗もすごい。見慣れない銀色の髪が張りついている。


 それにしても、なんだアレは。生きた心地がしなかった。また死んだかと思った。


「キュイ、今のは?」


「きゅきゅきゅきゅっ」


「聞き方が悪かった。今のは、鳥か?」


「きゅーう」


 キュイは首を横に振った。

 違うらしい。


「位置からして、俺たちを狙ってたのか?」


 俺はチラッと、さっきの巨大生物がいた場所を見る。

 思いっきり、俺がいた場所なんだよなぁ……。


「きゅ」


 キュイはうなずいた。


 マジか。俺はあの鳥からしたらミミズや虫と同じような存在だったのか。まぁ、大きさ的にちょうどいいもんな。

 って、この世界、やべえ……。


「おまえ、助けてくれたんだよな。さんきゅ。おかげで生きてる」


「きゅい!」


 機嫌よく鳴いたキュイを再び腕に抱えて、今度は人が通るだろう綺麗な道ではなく、背丈の高い草が生えている中を歩く。一応、離れすぎないよう、さっきまでの道と並走するように気をつけつつ進む。


 あの歩きやすい道、よく考えたら視界がいい分、危険でもあるんだよな。


 今のところあの鳥にしか会っていないが、他にも危険な生きものはいそうだ。異世界だし。



 歩いていると、額を汗が伝っていく。この細い体、もうちょっと体力が欲しかったな。


 今の気候は、日本の夏よりやや涼しいくらいで、28度前後といった感じか。

 春か夏あたりに分類されるだろう。冬に薄着で倒れていなくて本当によかった。

 水で体を洗うのも苦行になっていただろうからな。


 キュイの指示に従って歩き続けること、体感時間2時間越え。


「……は、はぁっ……街か……?」


 ようやく、開けた場所に出た。視線の先には、周囲を高い鉄製のような柵に囲まれた街。


 街だ。人がいる。歩いている。

 思ったより、発展してるな。


 異能がある世界だからか?

 見たことのないものが多々目につくが、そんなことよりも……。


「着いた……。異世界の街!」


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