4もふもふとスキル
「行くところがないなら俺と来るか? 生憎と俺も独りぼっちなんだが……ついでに言うと、地理もわからん。俺はとりあえず街に行きたい」
言葉を理解しているならと、こちらの要望を押しつけてみる。
ふわふわの生きものは、ぺたりとへたれていた小さな耳をピンッと立て、「きゅっきゅっ!」となにかを訴えてきた。
言葉がわからんな……。
というか、俺が話してる言葉、日本語じゃないな。自動で現地の言葉を話している感じだ。
これは異世界確定か。
「怪我が酷いな。治療できるものは持ってなかったよな」
俺が持っていたのは、金貨、銀貨、腕章、短剣のみ。この中で使えそうなのは短剣くらいか。とりあえず、俺の服を切って包帯代わりにしよう。いや、その前に傷口を洗ったほうがいいよな。
となると、必要なのはまた水か。
本当に水は生命の源だな。
水、水、水……。
さっきはどうやったら水が出たんだったか。ペットボトルの水が欲しいと強く願ったような。願ったら出てくるのか? そんなうまい話あるわけない気がするが……やってみるか。
ペットボトルの水を願う。
水をくれ水をくれ水をくれ……。
シーン。反応なし。
「ダメか……」
ふと、まだ左手に持っていたペットボトルを見る。
このペットボトル、どう見ても歪んでるんだよな。普通、飲み口はもっと綺麗な円だ。寸分の狂いなく美しい円。硬さは……もっとあってもいいな。ラベルは邪魔だからなくてもいいが……。
不良品と思うペットボトルの改善点を思い浮かべていた、そのとき。
バチっと、また脳に電気が走った。
「いっ!」
そして、目の前がゆらめき、ポンと音がして、今度は足もとになにかが転がってきた。
「……ペットボトル……空の」
いや、なんでだよ。
なんで空? そこは水を入れといてくれ。
片頬が引きつる。それでも転がっていたペットボトルに手を伸ばし、軽く観察をする。
……円だ。
飲み口が綺麗な円になっている。
硬さも……さっきのより硬いな。
もともと持っていたペットボトルを握って硬度をたしかめる。
「つまり、願うだけではダメで、詳細なイメージが必要なのか?」
水が欲しかったとき、たしかに俺はペットボトル《《に入った水》》をイメージした。
「なるほど。ここが異世界だとしたら、この世界には魔法やスキルのような類の異能があるってわけか。で、俺はこのイメージの生成、いや、複製、あるいはイメージの具現化ができると……チートか?」
異世界転生したらチートスキルが手に入るってマジだったんだな。
なぜなら俺には、記憶がある。
文明が発展しまくっていた、《《現代日本の》》。
「試してみるか」
この仮説があっているか検証するため、今度はペットボトルの水を詳細にイメージする。頭の中でペットボトルを構築し、そこに新鮮で透明に透きとおる水を注ぐ。飲み口は円。キャップも綺麗な円。
あの、脳に電気が走る感覚がやってきた。
「いっ」
また、正面がゆらめき、しばらくするとポンっと音がして、足もとにペットボトルが転がった。キラキラと光る水入りの。
「……できた」
できた。
マジでできた。
おいおい、本気か?
こんなチートスキルでいいのか?
俺、異世界で悠々快適な暮らしができるんじゃないか?
「きゅ! きゅきゅきゅ~~!!」
急に地面に転がっていたふわふわが騒ぎ出した。震える足で必死に体を起こし、俺の足もと──正確には、ペットボトルに向かってよたよたと歩いた。
「水が欲しいのか?」
「きゅっ!」
「待ってろ、今開けるから」
転がっていたペットボトルを拾い、蓋を捻って開ける。
容器がないな。まあいいか、とりあえず手で。
自分の左手を皿代わりに、少しだけ水を注ぐ。
「ほら、飲めるか?」
「きゅ~~~~!!」
なんだかわからんが、小躍りしそうなほど歓喜している。
がっつく勢いで水を飲みはじめた。
「そんな急がなくても、まだまだ水はある」
そうだ。ペットボトルの水はいつでも出せる。なんなら、パンくらいなら出せるかもしれない。
考えてみりゃ腹が減ってる。
ここはやっぱり、手軽に食べられるサンドウィッチ……もしくはハンバーガーか。ああ、ハンバーガーがいいな。腹が減ってきた。
問題は、食べものをどこまで出せるのか?だ。
失敗して食中毒になると怖いからな。肉はこんがりと焼いて、バンズもいい感じの焼き加減。チーズはとろりと。
それから……なにが入ってたか……レタスか? ああ、トマトは入ってたような。あとはなんだ。にんじん……はなかったよな。玉ねぎ……入ってたか? キュウリも入ってたよな。いや、ピクルスだったか? ゴーヤではないよな。
まぁいいか、ぶちこんどけ。
脳内クッキングを繰り広げて完成系をイメージすると、ポンっと音がした。集中していたようで目を閉じていたらしい。
両手が塞がっていたからか、しゃがんでいる膝の上に、俺の脳内クッキングハンバーガーが置かれていた。
「おぉ、できた……!」
包装紙のイメージを忘れたからか、むき出しだが、ハンバーガーだ。まさしく、俺のイメージした具だくさんバーガー!
「いただきます」
早速右手でつかみ、おそるおそるひと口含む。
「んっ……ん、ん~……」
マズくはない。マズくは。
普通に食える。肉はこんがり焼かれているし、チーズはとろっと。
だけど……。
「自然の味……味がしねえ。塩コショウとソースが足りなかったか……ってか、ゴーヤ入ってんな……」
だれだよ、ゴーヤ入れた奴。
ただのハンバーガーにゴーヤは入れないだろ。
「きゅいっ、きゅっきゅっ!」
「ん? ああ、食いたいのか? 動物にゴーヤはいいのか? うーん、とりあえず肉だけにするか……」
バーガーの肉だけを千切って、ふわふわにやろうとして、ふと、目を瞬く。
「ん? おまえ、元気になったな? 心なしか、毛艶もよくなってないか?」
さっきまで死にそうに震えて、へばっていたのに、今は4本の足でピンッと立っている。
しかも、こうして見ると、なんともかわいい。まだ毛はごわついているが、長毛種のようだ。耳はピンッと立っていて、犬や猫の耳に似ている。
尻尾もあるみたいだが、この尻尾がまたふわっふわな尻尾の気配。メインクーンやラグドールといった猫の尻尾に似ている気がする。
「元気そうなら体洗いたいんだが、大丈夫か?」
「きゅっ」
うなずいたようだ。たぶん。
とりあえず、脳内クッキングで出したバーガーを分けて食べる。人間の食べものでいいのかと心配して、一応キャットフードもどきを出してみたが、気に入らないようだった。
俺のイメージ力不足かもしれないな。すまん。キャットフードは食べたことがないんだ。