16異世界の図書館
ひとまず、教えられた図書館へと向かう。
調べたいことはいろいろあるが、とりあえず魔獣だな。治療法みたいなのはあるとは思えないが、調べないよりはマシだろう。
バットさんのいう通りに大通りを進み、十字路で右に曲がる。しばらくすると、これまた立派なゴシック建築の建物が見えてきた。
白い壁に、アクセントとして落ち着いたダークブラウンが使われている。
かなり雰囲気があるな。
魔法の世界の図書館って感じだ。
さっそく中に入る。出入りは自由なようで、とくに見張がいるようなこともない。
「すごいな」
中は圧巻だった。
重厚で、物々しい雰囲気。
地球でも雰囲気のある図書館の写真がバズったりしていたが、ここはまさに本場。
役所ほどの広大な土地に、四階建てのゴシック建築。入ってすぐホールのような広い空間になっていた。
豪奢なシャンデリアがキラキラと光り、吹き抜けのになっていて、そこから、四方の壁には背丈の高い本棚が取りつけられ、そのすべてがギッシリと本で埋まっている。
ただ、ゾーンが分かれているようで、建物全体が吹き抜けているというよりも、それぞれ三つくらいのエリアに分かれていた。
壁すら本棚なので、建物一帯が吹き抜けにも見えるが、それぞれのエリアの中央には赤い絨毯が敷かれた階段がある。
とにかく、本だけでもかなりの数だ。
「やっぱり、文明レベルは低くないよな」
これだけの本があるのだから、すでに印刷技術があるのだろう。もしかしたら、それすらも能力で補っている可能性はあるが。
「まずは魔獣についてだな。その後、能力について。あとは、この国についても知っておくべきか。産業も知りたい」
なんの準備もなく海外移住した感じだからな。どう考えても無謀な挑戦だ。
多少なりともこの土地のことは知っておきたい。
入り口のところに案内板があったので、それでおおそよその場所の見当をつける。
魔獣関連は奥のほうだな。
能力とこの国の歴史系は手前、今いるあたりか。なら先に能力について調べるか。
それでもかなり広いので、目的の本を探すのにかなり苦労した。
あっちを見てこっちを見て、それらしき場所な本を食い入るように見て、ようやく能力開花と成人の儀という本を見つけた。
「成人の儀……。俺は成人してるのか?」
中身はとっくに成人しているが、肉体のほうはどうなんだ。鏡で見たときは未成年の雰囲気がしたが、この世界の成人が何歳なのかもわからない。
俺の見立て的に、この体は16〜18歳ぐらいだ。
本を開いて成人の儀とやらを読む。
この世界の人間は、大きくなると能力に目覚め、力が安定してきたら教会で成人の儀式を行うらしい。
成人の儀を終えたら、能力で商売することや労働が可能になるのだとか。それまでは保護者のもとで研鑽を積み、能力のレベルアップに励むそう。
俺は一人で旅していたし、成人の儀は終えたのか。
……いや、待てよ。入域管理局の受付嬢の態度が怪しかったんだ。訳ありの奴の経歴を見たかのような、気まずそうな顔。
まさか、成人の儀を終えてない?
でも、そうなると、考えられる可能性は一つ。
親に捨てられたのか……?
いや、そんなバカな。人生詰んでそうなヤツに転生したのか? それはさすがに運がなさすぎるだろう。
たしかに最初から野垂れ死にギリギリのハードモードだったが……。
いや、まぁ、いいか。
親に縛られずに自由にできると思えば。逆に親元で俺の人格が蘇ってたら、それそこビビられて捨てられていたかもしれない。
細かいことは気にするのを止め、成人の儀に意味があるのかを調べる。
けど、とくに意味はなさそうだった。日本の成人式みたいなもんか。あれも祝いの式典だが、出席は自由だしな。
次に能力についてを調べる。
能力には、それぞれ対応する属性があり、予想通り、その属性の魔力が濃いと威力が倍になるそう。逆に、苦手属性のときは、威力が半減するらしい。
ははーん、これはゲームと一緒か。
弱点属性にダメージ2倍はよく見たぞ。
注意書きには、パーティーを組むときは、反対属性がいるといいと書いてある。そうすることで、最悪の状況は免れて生還の確率が上がるのだとか。
生還の確率ってことは、やっぱり命の危機があるのか。キュイも魔獣すべてが温厚ではないと言っていたし、危険な魔獣も多いのかもな。
と、そこで気になる一文を見つけた。
能力ランキング。
おいおい、なんだこのゲームのリセマラ攻略法のようなタイトルは。
と思いつつ、見る。
いや、気になるだろ。俺の能力はかなり万能だし、上位トップ10に入っているかもしれない。
ドキドキしながらページを捲った。
1位、滅級元素制御
2位、霊喰い
3位、焔王烈火
4位、聖域展開
「……10位、夜叉の剣」
ま、そう簡単に上位にはならないか。扱うのコツがいるしな。便利だけどな。そんなもんだよな?
と、そこで、さらに気になる文言を見つける。
ワーストランキング。
止めろよ、そういうの。能力にランキングをつけるな。しかもなんだよ、ワーストって。
と思いつつ、見る。
いや、俺の能力がワーストランキングにいるはずがないが……。
「……」
いや、違うよな。いや、いやいやいや。
──生活錬成。
生活に必要なものを錬成する。ただし、有効範囲は狭く、ほとんど無意味の能力。しかも、能力を使用すると頭痛がするデバフつき。この能力に目覚めてしまったら、地道に剣の腕を磨き冒険者を目指そう!
おい。無責任だろ。
いや、俺の能力はだいぶ万能だから、似ている別の能力だろう。いろいろ作れるしな。そうそう。まぁ、頭痛はするが……。
嫌なものを見たな。
もう能力については止めよう。そんなことより魔獣だ、魔獣。
俺は本を閉じて、奥のエリアへと向かった。
そこでは、本が魔獣の種族別に細かく分類されていて、記録の量も段違い。この世界で魔獣がどれだけ重要かがわかる。
敵としての分析もあるだろうし、生活に利用できるというのもあるだろう。
どんな魔獣がいるのかも気になったが、まずはラーリアントについて調べる。
『ラーリアント。
鳥型の魔獣。全長2フィードが平均だが、巨大な個体は10フィードあるものもいる。
性格は温厚だが、卵の採取をすると攻撃的になる。固有魔法は、「乱風斬」。旋風を巻き起こし、辺りのものを切り裂く。その風の刃は強力で、簡単に手足が取れるので注意しよう!』
「……」
気軽に家に招いているが、かなり危険な魔獣じゃねえか。
手足が取れるって、そんな軽いテンションで書くなよ。この図鑑を書いた奴、絶対にマッドサイエンティストの才能がある。
このフィード、ってのは、この世界の単位か? メートルと同じような気がするが……。
家にいるラーリアントも、2メートルあるかないかくらいだったよな。
それにしても、卵を採ると攻撃的になる?
かなり友好的に……たぶん礼くらいのノリでくれたが、珍しい現象だったのか。
怪我の治療法や、好物、逆にダメなものとか載ってないのか。弱点的な。
読みこむと、弱点の解説は載っていた。
どうやら、火柱が苦手らしい。火ではなく、「火柱」だとくり返し書かれていた。細かいがそういうものなのか。
他に情報はなさそうなので、今度はキュイについて調べてみることにした。
キュイは猫のような犬のような魔獣だからな。白くてもふもふ。ただ、種族が不明だ。
特徴から調べることもできたので、キュイの特徴を基に対象を絞っていく。
「ないな」
それらしき情報がない。
四つ足で猫っぽい魔獣はいたんだが、キュイとはやや違った。その魔獣は「ガーリアット」というそうで、白と黒の縦じま模様に、赤い目、足に鋭い棘が生えている。
キュイと決定的に違ったのが、羽がないこと。
「羽付きで調べるか?」
飛行系魔獣を見ていくが、そっちにもなし。
考えてみりゃ、この街に来たときに親切なおっさんが「見たことのない魔獣」と言ってたんだよな。
「まさか、新種……?」
そんな奇跡があるのか?
いや、わからん。そういや、スキルが判明してたか。水系スキルで調べてみるか。
結局、そっちも情報なし。
どうやら、キュイに関する情報はなにもないようだ。
まあ、本人に聞けばいいからいいんだが、キュイはどういう魔獣なんだ?




