表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜、刺されて異世界へ。もふもふと自由気ままな魔獣牧場はじめます  作者: 塩羽間つづり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/16

15黄金の卵

 俺は鳥が墜落してきたこと、その鳥の手当てをして家に置いていること、朝起きたら卵をくれたことをざっくりと説明した。


 そして、割れないよう、大切に布に包んで持ってきた大きな卵の布を取りつつ、男に見せる。


 ちなみに、この派手土地売りのおっさん、名前はフィーバットというらしい。バットさんと呼ばれているのだとか。てわけで、おれもバットさんと呼ぶことにした。


「おいおい、卵なんか……って、ん? おい、その卵よく見せろ」


「え? ああ、はい、どうぞ」


 飛びつくような勢いで卵をひったくったバットさんは、サングラスをずらして卵を食い入るように見る。


 サングラスないとこのおっさん、かわいい目してたんだ。つぶらな瞳だ。圧が出ないからサングラスしてたのか。


 卵を手の中で回して前、後ろ、上下と見ていたバットさんは、ジッと俺の顔を見つめてきた。


「墜落した鳥って、ラーリアントか?」


「ラーリアント? すみません、種類はわかりません。でも魔獣です。目が赤かったですね」


「ラーリアントは魔獣だ。黄色に羽根に、青が混ざっている美しい怪鳥だよ」


「色はそんな感じでしたね。そのラーリアントがなんですか?」


「馬鹿野郎! ラーリアントの卵といやぁ、高級食材だろうが!」


 マジかよ!

 ってことは、文字通り、金の卵!?


「ラーリアントは、明確な拠点を持たない。好きな場所を自由に転々としているから、見つけるのも困難。好む場所がハッキリしないからな。冒険者たちは、このラーリアントの卵を探して何日も彷徨うこともある」


 冒険者がいる世界か。

 でも俺は戦闘できないから、冒険者にはなれないな。速攻死ぬ自信がある。やっぱり安全にのんびり生活、それに限る。


「そのラーリアント、怪我しているみたいで、今俺の家に居着いてるんですけど……危険性はあります?」


「基本的には大人しい。だが、敵には容赦ない。ラーリアントは混乱させる音を出すそうだ。悪りぃな、俺も冒険者じゃないから聞き齧った情報しかわかねぇ」


「いえ、十分です。高級食材ってことは、食べられるんですよね」


「まぁな……今調理してやろうか」


「……食べたいだけですよね」


「ケチケチするな! 土地を安く売ってやっただろ。つまり、俺様の手柄でもあるってわけだ」


「まぁいいですけど。こいつにも分けてくださいね」


 俺の膝でくつろいでいたキュイの背中をなでると、キュイは顔を上げて「きゅ!」と愛らしく鳴いた。





「これが、ラーリアントの卵。高級食材」


 おっさんが部下に調理させたラーリアントの卵。本当はそのままゆで卵がいいそうだが、今回は三等分するので、スクランブルエッグになった。


 それでも、卵の黄身の色が濃く、艶があり、そして、食欲をそそるいい香りがする。

 卵の匂いをこれまであまり感じたことがなかったが、香ばしい香りがする。もしかしたら香辛料の匂いかもしれないが。


 しかも、ついでとばかりに焼きたてのパンと、付け合わせのつもりなのかステーキまで。


「美味そう!」


「さすがにタダでわけてもらっちゃあ、あとが怖いからな。これで貸し借りなしだぜ」


 ちゃっかりしてる。


「ほら、キュイ。おまえの分」


「きゅきゅきゅ!」


 小さめの皿に取り分けられていたのをキュイに差し出す。キュイは俺の膝をテーブル代わりにして、前足で器用に食べはじめた。


「きゅ〜うっ!」


「美味か。おまえ、雑食なのか?」


「きゅ!」


「ふぅん」


 なんでも食えるようだ。

 俺も自分の分を食べようと皿を持ったところで、食い入るような視線を感じた。やべ、マナーが悪かったか?


「おまえ、魔獣の言葉がわかるのか」


 そっちか。


「わからないけど、キュイのほうがわかってるらしいから、まぁ、なんとなく。会話の流れで」


「……そういうもんか?」


 おっさんは置いといて、とりあえず卵。スクランブルエッグ。この世界の高級食材とやらの味を堪能しようじゃありませんか。


 まだ熱々のスクランブルエッグをフォークですくい、ゆっくりと口に入れた。

 瞬間、全身に痺れるような衝撃が走った!


「うっっっま!」


 いやなんだこれ、美味すぎだろ!

 卵ってこんなに濃厚なのか!?

 口の中に広がるクリーミーでコクのある味。そこに加わった塩とコショウのアクセント。


 この世界、料理のレベルが普通に高い!


 料理が美味い世界は当たりだ。飯が美味けりゃどんなこともやっていける。それほど、料理が口に合うかどうかは重要だ。


 さっそく、添え合せのステーキも頬張る。

 こっちもうめぇ!

 肉汁がじゅわっと広がり、濃厚でいて肉の味がしっかりとする。牛肉に似た味だ。でも、上位の肉。和牛のブランド肉のようなやわらかさと濃厚さ。これぞ、肉の王者!


「美味い……美味いです……最高……」


「おまえさん、その能力なら、こいつも出せるんじゃないのか」


 おそらく卵のことを示している。


「いやー、それが、食べものは今のところ上手くいってないんですよね。味が違うというか、薄いというか……食べられなくはないんですけど」


「ほぅ、制約があるのか」


「食べものはそうかもしれませんね。それか、コツがあるのか。今のところ詳細なイメージが必要なのはわかっているんですけど」


「能力は使いこなすのに反復練習が必須だからな。それと、属性も関係してる。自分の属性の魔力が濃いときだけ成功するとかはよくある」


「なるほど。地道に練習してみます」


 もしこの高級食材が自在に出せるようになったら、それだけで金持ち街道まっしぐらだ。

 一生安泰、快適な暮らし。

 悪くないな。


「あぁ、それと、魔獣を診てくれる医者とかいませんか?」


「魔獣に医者なんかいねえぞ。魔獣はダメになったら買い替える。そういうもんだからな」


「……そうなんですね。わかりました」


 やっぱりそうか。

 この街の人たちの魔獣嫌悪を見ていたら、医者なんかいそうにないと思っていたけど。壊れたら新しくする「物」みたいな扱いなんだな。


「……」


 キュイもあの鳥も、意思疎通ができるのに。

 この世界では物ように扱われ消耗される。


 ……なんか、前世の俺みたいだな。


 会社を回す歯車としていいように使われ、壊れたら捨てられる。ギリギリ生きていけるくらいの給料で、ほぼ飼い殺し。

 しかも、魔獣は魔石が採れるから狩の対象だ。安心してのびのびと生きていける場所もない。


 キュイの滑らかな白い毛をなでた。


「きゅう?」


 せっかく広大な土地を買ったんだ、こいつが自由気ままに生きていける場所にしたい。


「あの、それじゃあ、図書館みたいな場所はありますか? 魔獣の図鑑とかあると嬉しいんですけど」


「あ? あぁ、それなら中央図書館がある。貴重な資料も保存されている街の運営図書館だ」


「ありがとうございます。そこに足を運んでみます」


 料理を平らげ、いとまの準備をする。

 バットさんが、思い出したように俺を見た。


「もしまた卵が採れりゃ持ってこい。それなりの値で買ってやる」


 キュイをリュックに入れ、背負う。

 そして、バットさんを見てニヤリと笑った。


「考えておきますよ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ