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社畜、刺されて異世界へ。もふもふと自由気ままな魔獣牧場はじめます  作者: 塩羽間つづり


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13/16

13墜落!

 一日かけて大掃除を終え、これからの生活に必要になりそうな最低限家具を出していく。


 ベッド、ソファ、包丁にまな板、フライパンに鍋──と、出したところで、急激な立ちくらみがした。


 目の前が真っ暗になり、体から力がすぅっと抜けていく不快感。足腰に力が入らなくなって、その場に倒れこんだ。


「きゅ!? きゅきゅきゅきゅっ」


 キュイの大慌ての声が聞こえ、次には顔にペシッと濡れた布が投げつけられた。

 ちょっと待て、それ、使いまくったきったない雑巾じゃないか?


 気力を振り絞って起き上がり、顔に張りついていた布を取る。

 やっぱり雑巾か……。


「きゅきゅきゅ〜っ!」


 キュイがドスッと腹のあたりに頭突きをしてきた。


「悪かったよ、急に立ちくらみがしてさ。この体が栄養不足か、病気持ちか、能力の使いすぎか……」


 なんとなくだが、魔力切れのような気がした。そこそこ能力を使っていたし、昨日も換算すると、一気に使いすぎたようには思う。


 便利だからって能力に頼りすぎると体にガタがくるんだな……。この世界にも健康診断とかあるのか? おっさんは健康問題には敏感なんだよ。


「ふぁ〜、今日はもう寝るかぁ」


 考えてみれば、仕事に追われることもないんだよな。好きな時間に寝て、好きな時間に起きる。ちょっとゴロゴロして、ぼんやりしたっていい。だれも文句を言わない。

 この土地を丸ごと買い取ったから、住む場所の心配もいらない。


 かなりいい生活なんじゃないか?





 キュイの部屋を作ったが、キュイはそこを物置にするようで、結局ひとつのベッドで寝た。

 悠々快適のキングベッドだ。

 やっぱり寝る場所は快適じゃないとな。


 だだっ広い新品ベッドで熟睡していると、突如ドガァン!となにかが壊れた音がし、家がグラグラとゆれた。


「なんだ!?」


 布団を跳ね飛ばして飛び起きる。


「きゅ、きゅ〜?」


「爆発音みたいなのがしたぞ」


 部屋の明かりをつけて、窓を開ける。

 暗いので見にくいが、この体のおかげが薄っすらと建物の輪郭を認識できた。


 五つあるうちの家の一つ、家族が住めそうだった大きめの家の屋根に巨大な穴が開いている。

 ……隕石でも落ちたか?


「おまえは寝てるか? 俺は外を見てくる」


 床に置かれていたランプを手に取り、ドアを開ける。眠そうに目を擦りながら、キュイが小さな羽をパタパタ動かし飛びながらついてきた。


 外に出ると、被害状況がよりハッキリしてくる。大穴が開いた屋根の影響で、建物自体がかたむいている。これは倒壊の可能性があるな。


「なにが落ちたんだ」


 屋根を仰ぎ見るが、原因は不明。

 ランプをかざしながら周囲を見れば、見慣れないものが落ちていた。


「羽根?」


 黄色と青の大きな羽根だ。

 俺の手のひらよりも大きな羽根が、地面に散らばっている。よくよく見れば、屋根にも羽根が引っかかっていた。


「キュイ、これ、ヤバそうか?」


 キュイは前に危険な鳥を察知したからな。

 とりあえず意見を求める。


「きゅ? きゅ〜きゅぅ、きゅう」


 首を振ってるので危険な鳥ではなさそうか。


 ……この家に落ちたんだよな。

 見に行かなきゃダメか? 考えてみれば、俺は護身術はからっきし。羽根からしてけっこうデカそうだし、襲われたらひとたまりもない。


「武器がいるな」


 急いで家に引き返し、初期装備の短剣を手に戻ってくる。

 そして、ランプ片手に、そーっと家の扉を開いた。


 いきなり飛びかかってこないな、よし。

 まずは気配を探り、耳をすませる。と。


「ぐ、ぎ……クァッ」


 苦しそうなうめき声が聞こえた。

 墜落したときに怪我をしたとかか?


 警戒をゆるめずに、慎重に進んでいく。

 どうやら、問題の生きものは、屋根だけではなく二階の床も突き破ったようで、一階のダイニングスペースにあったテーブルや椅子をなぎ倒して倒れていた。


「鳥か……」


 孔雀くらいありそうな大きめの鳥。

 羽を怪我しているのか、血がポタポタと垂れ、美しい色の翼を汚していた。


「クァッ、ぎっ!」


 こいつ、目が赤い。魔獣か。


「あー、俺の言葉わかるか?」


「くぁ、がっ」


「どっちだ。キュイ、こいつ、俺の言葉わかるか?」


 魔獣のことは魔獣に任せるのがいい。というわけで、キュイに間に立ってもらう。


「きゅう、きゅ」


 首をかしげつつうなずいた。かなり微妙な反応だな。おそらくわかっているだろう、みたいなあいまいな感じか。


「おまえ、怪我してるのか? こっちに敵意を向けないなら、怪我が治るまで面倒を見てやる。どうする?」


「ぐぅー」


 鳥は低くうなり、キュイを見た。


「きゅ、きゅきゅ、きゅ!」


「クァッ、クァクァッ、クアー」


「きゅ!」


 なにか話しているようだ。内容はまったくわからないけどな。


「きゅぅ、きゅきゅ」


 キュイが俺の肩に乗り、倒れている鳥を小さな手で示して、うなずく。

 大丈夫ってことか?

 信用するぞ?


 鳥のそばまで行き、しゃがむ。チラリと確認してみるが、攻撃してくる様子はない。


「怪我の状態を見るからな。痛むかもしれないが、攻撃するなよ」


「クァッ」


 返事がきたので、まずはランプで照らして目だけで確認する。


 左の羽がガッツリ引き裂かれていた。千切れているわけではないが、羽根はむしれて、皮膚が引き裂かれている。

 引っ掻かれたのか? 爪のあとにも見えるな。


 専門の医者でもいたらいいんだが、魔獣というだけであの反応だったんだ。いない可能性が高い。まぁ、あとで街に行って聞いてくるにしても、応急手当ては必要だろう。


「あ。そういや、キュイ。おまえは水で傷が回復していたよな。この鳥も同じようなことはできないのか?」


「きゅ? きゅきゅ、きゅ」


「クァー」


 できないようだ。首を振っている。

 キュイが特別だったのか? どっちにしろ地道に治すしかないか。


「魔獣ってのはみんな言葉がわかるのか? 温厚そうなのが多いが」


「きゅーう」


 キュイが首を横に振った。

 なるほど、俺が会ったキュイとこの鳥が奇跡的に温厚だっただけか。


 とりあえず傷口を洗うために水を出す。毎度お馴染みペットボトル水だ。人の怪我の場合はガーゼを当てて包帯をするが、魔獣はどうなんだ?


 まぁ、一応清潔なガーゼと包帯を出しておくか。そのうち救急箱もそろえるかな。


 記憶の中にあるガーゼと包帯を呼び起こす。

 触った感触、大きさや長さ、繊維の細かさなどを詳細に思い出しつつ決めていく。

 そして、頭に電流が走った。


「いっ」


 ポンッと音がして、大きなガーゼと包帯が現れる。毎回思うが、この頭痛って大丈夫なのか? 命削って能力使ってたりしないよな。


「傷口洗うけどいいか? たぶん染みて痛いけど」


「クァーッ、グァっ」


 嫌なようだ。大丈夫な右の翼をバタバタと動かしている。


「嫌ならいいけど。細菌が入って患部が壊死して、二度と飛べない……いや、それどころか死ぬかもしれないけど」


「グァっ!? ……くぁ……」


 しょんもりとした様子で意気消沈しつつ、鳥は負傷した翼を生贄にするかのごとく差し出してくる。どんだけ嫌なんだ。子どもか。


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