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社畜、刺されて異世界へ。もふもふと自由気ままな魔獣牧場はじめます  作者: 塩羽間つづり


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11/16

11拠点

 夜行馬車に乗り、日が登ったくらいに目的地について下される。


「ここが、俺たちの住む場所か……」


 ゴオッと風が吹き荒れ、大量の砂が舞った。

 サラサラとしている綺麗な砂が。

 色は地球と同じ、薄茶といえばいいのか、肌色っぽいといえばいいのか。


「まぁ、なんというか、砂漠……だな」


 どこを見ても砂漠。右も左も砂漠。

 この砂漠が、今日から俺の土地らしい。


「やっぱり微妙だったか? もう少しいい土地もあったんじゃないか?」


 買ってから後悔が押し寄せる。典型的な後悔型人間である。

 はぁ、と深いため息をついていると、馬車に乗っている間リュックの中に隠れていたキュイがぴょこんと顔を出した。


「きゅきゅきゅ、きゅっ!」


「ん?」


「きゅ〜きゅ〜きゅぅぅぅ〜」


「ど、どうした?」


 キュイが突然唸り出した。

 具合でも悪いのか? 馬車酔いしたか? たしかにゆれが酷かったからな。あれは、できればあまり乗りたくない。尻が痛い。


「おい、キュイ?」


 リュックを下ろして、キュイを見ようとした、そのとき。


 突然、真上に暗雲が立ちこめた。


「は?」


 真っ黒の雲というより、灰色の雲だ。それが、この場を中心に広がっていく。どうして急にここだけ雨雲が? 不自然すぎるだろ。


 やがて、ポツポツと細かな雨が降り出し、俺たちの体を濡らした。


「砂漠、なんだよな?」


 さあああッと小雨が降り注ぐ。

 乾いた砂漠の大地に、自然の潤いが満ちていく。


「きゅ、きゅう、きゅ〜っ!」


 リュックから飛び出したキュイが、小さな羽でパタパタと懸命に羽ばたきながら、喜ぶように雨に当たりながら空でくるくると回っている。


 ……まさか。

 いや、そんなまさか。いや、あり得るのか?


「……キュイ、これ、おまえが降らせたのか?」


「きゅ!」


「おまえの固有魔法、雨乞いってことかよ……」


 考えてみたら、キュイはやけに水を好んでいた。水を与えたら怪我はすっかりなくなっていたし、毛も艶々に輝いた。

 俺に懐いたのも、日本の水という、世界の中でもかなり綺麗な水に分類される水をあげたからか?


「おまえがここに賛同した理由も、こういうことか。砂漠でも関係なく雨を降らすことができるから」


 キュイはドヤ顔をするように、腰に手を当てて胸をそらした。感情表現豊かな魔獣だ。


「とりあえず空き家を探すかー。なるべく綺麗なやつを」


「きゅ!」





 砂漠を歩き続けると、聞いていた通りの廃村が見えてきた。2年ほど放置されているからか、木や草が生い茂っていて、修繕が必要そうである。

 ひとまずの寝床くらいにはなりそうだな。


「どれにするか……。崩れたら困るからな。どうせなら料理とかできそうな家がいいか」


 まずは外観で選んでいく。

 といっても、砂漠に呑まれていないのは、全部で5つ。

 鳥の小屋みたいな小さな家。これは物置か?

 それから、一人暮らしに適していそうな、ワンルームくらいに見える家。

 あとは、家族が住んでいたのだろう、そこそこ大きな家が二つと、村長の家か?と言いたくなるような、一番でかい家。


 キュイと二人……正確には、一人と一匹だが、能力で出した物を置く倉庫部屋みたいなのは欲しい。あぁ、でもそれは他の家を丸ごと使ってもいいのか。あの小屋みたいな家とかちょうどいいしな。となると、そのとなりのでかい家が使い勝手がいいか。


 とりあえず、小屋が隣接されていそうな、一番でかい家の前に立つ。

 それにしてもでかいな……。日本の一軒家二つ分はあるんじゃないか? 二階建てで庭付き。長さは一般的なアパートよりやや小さいくらい。5LDKはあるとみた。


「……おじゃましまーす」


 声をかけつつ、ドアノブを回す。鍵はかかっていなかった。中は真っ暗なので、あらかじめ買っておいた魔石を使って作られたというランプを使う。


 ランプを掲げて、軽く家の中を見る。

 埃をかぶっているが、そこまで状態は悪くないな。それどころか、わりと最近までだれかが使っていたんじゃないか?


 ドアは開けたまま家に入り、この土地を売ってくれた派手な男に言われた通り、天井にある明かりの透明なカバーを外す。


 あぁ、あった、この穴か。電球に似たガラス製の装置のとなりに、ぽっかりと空いていた空間があった。そこに、買ったばかりの黄色の魔石をはめこむ。


「お、ついた」


 パッと、明かりがつき、部屋が明るくなる。


 どうやら、この世界は電力ではなく、魔力を使って明かりをつけているらしい。他の家具も魔石が使われていると言っていたから、動力源が魔力なのだろう。


 手もとのランプの灯りは消し、家の中を見て回る。玄関を入ってすぐのところは、リビングのようだった。置き去りにされた木製のダイニングテーブルがある。


「まだ使えそうだな」


 多少ほこりは被っているが、それでも綺麗なほうだ。よく見たら床は修繕された痕がある。


 この感じ、調査していたと言っていたし、その調査隊とやらが拠点として使っていたのかもしれないな。


 簡単に一階を見て回ると、リビングの奥がキッチンになっていた。オープンキッチンだ。しかも、作業台がかなり広くて、飲食店の厨房並みだ。


 さすがにキッチン用品はなかったが、古びた冷蔵庫のようなものはあった。ただ、形が横長になっていて、作業台の下がすべて冷蔵庫といった感じだ。仕組みが地球とは違うから、形もやや違うらしい。


 あとは、窯があった。オーブンや電子レンジといったものはなく、窯オンリーだ。

 ここでピザとか作るのもよさそうだよな。窯焼きピザ。絶対美味い。


 他には、バスタブ、トイレのようなもの、客間、書斎が一階にあった。

 二階は主に寝室。全部で四つ部屋があったが、そのどれにもベッドがあったので、もとはけっこうな大家族が住んでいたか、客人用の部屋が多かったか。

 

 正直、かなり広い。

 一階にベッドがあれば、一階だけで生活できそうだが、そうすると二階が傷む可能性あるからな。


 一応、キュイの部屋と俺の部屋を分けた。

 いや、意味はないんだが、使われない部屋が多くてももったいないだろ?

 キュイは嬉しそうにしていたので、よしとする。



「それじゃ、まずは掃除だ。キュイ、おまえもやるんだぞ」


「きゅ!」



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