9 狩猟技術の向上
干し肉を口に運びながら、俺は考えた。
狩りの効率を上げるにはどうすればいいか?
槍とナイフでの狩猟は悪くない。むしろ、道具のない状態から始めたにしては上出来だろう。しかし、槍投げで獲物を仕留めるのはなかなかに難しい。六本足ウサギ(仮)は動きが素早いし、何より槍を投げるたびに回収しに行くのが面倒で仕方がない。
「……そうだ、弓を作ろう」
弓があれば、遠くから安全に狩りができる。矢を何本も用意すれば、槍よりも効率がいいはずだ。
俺はさっそく材料を探しに森を歩き回った。
弓を作るには、しなやかで折れにくい木が必要だ。そして、それをしっかりと張るための弦となる素材も欠かせない。
木はすぐに見つかった。弾力がありながらも適度に硬い枝を選び、ナイフで削って形を整える。問題は弦である。
通常、弓の弦には動物の腱や特殊な植物の繊維が使われる。しかし、俺はまだ動物の腱を手に入れていない。そこで、以前ナイフの柄に使った黒い蔓を試してみることにした。
この蔓、異様なまでに強靭でありながら、しなやかさもある。試しに弓に張ってみると、ピンと張り詰めた感触が心地よい。
「おお……これはいけるんじゃないか?」
試しに適当な矢を作り、軽く引いて放ってみる。
──ビュンッ!
矢はまっすぐに飛び、木の幹に突き刺さった。
「……これは、いい!」
やはり弓は便利だ。槍のように回収する手間がないし、素早い敵にも対応しやすい。
しかし、俺はこの世界の弓が「ただの弓」ではないことを、まだ知らなかった。
弓の試し撃ちをしているうちに、俺はとある素材を発見した。
森の奥に生えていた、奇妙な木。枝の先に、透明な繊維のようなものが絡まっている。試しに指で引っ張ると、まるで蜘蛛の糸のように伸びるが、切れない。
「これ、もしかして……弦に使えるんじゃないか?」
俺はさっそく、この繊維を弓の弦に張り直し、矢を放ってみた。
──ビュンッ!
矢は勢いよく飛び、そして──
途中で軌道を変えた。
「……は?」
一瞬、自分の目を疑った。しかし、間違いなく矢は空中でわずかに方向を修正し、木の幹に突き刺さったのだ。
「な、なんだこれ……」
何度か試してみたが、矢は一定の条件下で微妙に軌道を修正する性質を持っていた。どうやら、この繊維には「引っ張られた力を記憶する」ような特性があるらしい。
これが意味することはただ一つ──
「動く獲物に当てやすくなる!」
通常、動く動物を弓で狩るのは至難の業だ。しかし、この弓を使えば、狙いを外しても僅かに軌道が修正され、命中率が格段に上がる。
これは、俺にとって革命的な発見だった。
この新たな弓を手にした俺は、さっそく狩りに出ることにした。
森の中で六本足ウサギ(仮)を発見する。いつもなら、奴はジグザグに走り回り、槍では狙いを定めるのが困難だった。しかし、今回は違う。
弓を引き、狙いを定め──
──ビュンッ!
矢は一直線に飛び、途中で僅かに軌道を修正し──
見事にウサギ(仮)の足を射抜いた。
「やった!」
狩猟効率が一気に上がった。この弓があれば、狩りが楽になる。食料を確保するのにかかる時間が減れば、他のことに時間を使える。
俺は満足げに弓を握りしめた。
──異世界の法則を利用し、少しずつ生活を安定させる。
俺の異世界スローライフは、着実に前進している。