表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/137

70 漁業の確立

 人間というものは欲深い生き物である。最初は肉さえあれば満足していたが、いざ食料に余裕ができると「焼き魚が食べたい」「煮魚が恋しい」「刺身という概念はどこへ行ったのか?」などという贅沢な欲求が生まれる。


 そんな俺の心を読んだかのように、海辺でレイヴィアが言った。


 「あなた、そろそろ魚を獲るべきなのです!」


 彼女は人魚族の王女であり、当然ながら海のことには詳しい……はずなのだが、俺の問いに対して「魚は潮の流れに逆らって泳ぐ」という謎の知識を披露しただけで、それ以上のことは何も知らなかった。


 「お前、漁の仕方は知らないのか?」


 「知らないのです!」


 「じゃあ何の役にも立たねえな」


 「ですが、魚は光に集まるらしいですよ!」


 俺は一瞬考えた。


 「それは本当なのか?」


 「よくわかりませんが、そんな気がします」


 俺は深く息を吐いた。


 女性とは、時に何の根拠もなく確信を持つ生き物である。そして、その確信は根拠がないからこそ強固であり、周囲を巻き込む。


 「……試してみる価値はあるか」


 俺は倉庫から「光る石」を取り出した。これは以前鉱石を採掘しているときに見つけたもので、微弱に発光する性質を持っている。夜間の灯りとして活用できるが、これが魚に効くかどうかは未知数だ。


 「これを水に沈めてみよう」


 俺は光る石を網の上に括りつけ、それを海の中へと沈める。すると――


 「おっ……」


 水の奥から小さな影がゆらゆらと寄ってくる。


 「本当に集まってきたぞ」


 「ふふん、やはり私の勘は正しかったですね!」


 「お前、さっき『よくわからない』って言ったよな?」


 「直感とはそういうものですので!」


 俺は呆れながらも、光る石の効果を確信した。


 「よし、網を引け!」


 網を引き上げると、数匹の魚がぴちぴちと跳ねていた。


 「やったな」


 「もっと私を称えてください!」


 「誰が称えるか」


 そんなやり取りをしていると、ふとセリアが口を開いた。


 「……ねえ、氷の槍を使うって発想はないの?」


 「氷の槍?」


 「前に川で試したことがあるんでしょ?」


 「……なんでお前が知ってる?」


 「……っ!」


 セリアの肩がピクリと揺れた。


 そう、こいつは最近、俺に対して妙な態度を取るようになっている。目が合いそうになると視線をそらし、話しかけると少し間を置いてから答える。かつては「余計なこと考えてないで、さっさと動きなさい」と言っていた女が、今では俺の言葉を待つようになっているのだ。


 そして、時折、俺の過去の行動を知っているような口ぶりをする。


 「なあ、お前、俺のこと気にしすぎじゃないか?」


 「はぁっ!? そ、そんなわけないでしょ!」


 「いや、絶対気にしてるだろ」


 「気にしてない!」


 言葉とは裏腹に、セリアは顔を赤くしてそっぽを向いた。


 俺は軽く咳払いをして、氷の槍の話に戻ることにした。


 「たしかに、氷の槍は水中の生物に対して有効だった。だが、海でも使えるとは限らない」


 「試してみればいいじゃない」


 「まあ、そうだな」


 俺は氷を発生させる鉱石を槍の先端に装着し、海に突き立てる。瞬間、冷気が水中に広がり、小さな氷の柱が発生した。


 「おおっ……!」


 しかし、魚はまったく動じず、そのまま潮の流れに逆らって泳いでいった。


 「ダメか……」


 「海の魚には、あまり効かないみたいね」


 「ま、光る石の漁法で十分だろ」


 「ええ、でも……」


 セリアがふと海の奥を見つめた。


 「……なんか、大きいやつが混じってない?」


 俺も視線を向けると、そこには不気味に揺れる巨大な影があった。


 「おいおい、なんだよ、あれ……」


 光に誘われるように、影がゆっくりと近づいてくる。


 「……もしかして、私たち、何かとんでもないものを引き寄せてるのでは?」


 「ちょっと待つのです。私はそんなつもりでは……!」


 「いや、俺もそんなつもりじゃなかったんだが……」


 どうやら、異世界の漁業は一筋縄ではいかないらしい。


 こうして、俺たちはさらなる調査を進めることになったのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ