61 村の発展と新技術
夜が来るたび、俺たちは闇に怯えていた。
村には、これまでまともな照明というものが存在しなかった。焚き火を灯せば風で消え、松明を掲げれば煙で目が痛くなる。夜の作業などもってのほかで、暗くなったら寝るしかない。つまり、村の夜は完全に自然の圧倒的な支配下にあったのだ。
だが、そんな状況も、とうとう終焉を迎える。
「見よ、この魔素結晶ランタンを!」
俺は村の中心に立ち、誇らしげにランタンを掲げた。
魔素結晶を埋め込んだランタンは、ぼんやりと青白い光を放ち、闇の中に幻想的な輝きを作り出していた。火ではない。魔素の力で輝く、異世界の光源である。
「……え、すごい、明るい!」
「これなら夜でも作業できるじゃない!」
村の住人たちはざわめき、次々に光を確かめていく。
その中で、俺の隣にいたリュナが腕を組み、ふむ、と小さく唸った。
「これは確かに便利ね。でも、問題はこの魔素結晶がどれくらいの時間光るか、よ」
「それは……今から試す!」
俺は胸を張る。
実験こそが科学の第一歩である。
魔素結晶は未知のエネルギーを秘めた物質だ。その持続時間や消耗の仕組みを解明しなければ、安定した利用はできない。だから俺は、このランタンを村の広場に設置し、夜通し光を観察することにした。
しかし、そんな知的探究心に満ちた俺の横で、レイヴィアがきらきらと目を輝かせながら言った。
「夜の散歩ができるようになるんですね!」
「お前はそこか」
「だって! 今まで夜に歩くのは怖かったんです! でも、これなら大丈夫!」
レイヴィアは光の下でくるくる回る。彼女の髪が青白い光に照らされ、まるで水面に反射する月光のようだった。
「……ま、確かに夜道を歩けるのは大きいな」
夜に活動できるというのは、実はとんでもない進化だ。俺たちの村は、まだまだ発展の途中にある。住居の増築にしろ、農地の拡張にしろ、作業時間は常に足りない。しかし、夜間も少しずつ作業できるなら、効率は飛躍的に向上する。
「……そうと決まれば、住居を増やさないとな」
最近、村の人口が増えつつある。俺が異世界に来た当初はひとりぼっちだったのに、気づけば住民は30人を超えた。漂流者、人魚、獣人、六本足ウサギ(仮)……種族も職業も多様である。
当然、住居が足りなくなるのも時間の問題だった。
「よし、新しい家を建てるぞ!」
俺は叫んだ。
「おおーっ!」
住民たちも気合十分である。
村の近くの森には、加工しやすい木材が豊富にある。しかし、異世界の木材は実に個性的で、削ると自己修復するもの、刃を弾くもの、夜になると微かに発光するものなど、普通の木材とは一線を画している。
そんな特殊な木材を適切に使い分けることで、より頑丈で快適な家を作ることができる。
「まずは基礎から……」
俺たちは、これまでの経験を生かし、より住みやすい家を設計し始めた。木材加工技術も向上し、以前よりも素早く、正確に建築を進めることができる。
「……にしても、やっぱり家ができると嬉しいもんだな」
俺は建てたばかりの家の柱を叩き、感慨にふける。
「ふふん、やるじゃない」
リュナが腕を組んで頷いた。
「これなら、村に住みたいっていう獣人たちが来ても、安心ね」
「そうだな。住む場所がないと、人は定着しないからな」
リュナは遠くを見つめるように呟く。彼女には彼女なりの考えがあるのだろう。
村を発展させるためには、住居の整備が不可欠だ。俺たちはさらに建築作業を進めることにした。
そして、もうひとつの大きな課題。
それは農業の効率化だった。
「最近、食料が足りなくなってきたのよね……」
村の人口が増えるということは、それだけ食料の消費量も増えるということだ。狩猟だけでは補いきれない。そこで、農業の規模をさらに拡大する必要があった。
「水路を改良して、水の供給を安定させるのはどうだ?」
「それはいいわね。水が安定すれば、作物の成長も早くなるはずよ」
リュナの言葉に頷きつつ、俺たちは水路の拡張工事に着手した。川から畑へと水を引き込み、適切に流れるよう調整する。
「……よし、これで水の流れは問題ないな」
農業の効率が上がれば、食料の供給も安定する。俺たちの村は、確実に進化していた。
「魔素結晶ランタン、住居の増築、農地の拡張……」
こうして、一歩ずつ村の基盤が整えられていく。
俺たちは、着実にこの異世界に根を張っているのだ。




