6 道具の誕生
──異世界サバイバルにおける最重要課題、それは武器である。
火を手に入れ、水を確保し、食料を得た今、次に求めるべきは己を守る手段である。なにしろ、昨夜は謎の光る目に取り囲まれた。もし、次に遭遇したとき火だけでは対処できなかったら? 六本足ウサギ(仮)を狩る際も、毎回石を投げつけていては効率が悪い。となれば、ナイフや槍のような武器が必要になるのは自明の理である。
しかし、異世界転生にありがちな「チート武器授与イベント」は発生していない。俺の目の前にあるのは、ただの石ころと木々ばかりである。
──ならば、作るしかあるまい。
「よし、まずはナイフからだ」
俺は近くに転がっていた適当な石を拾い、地面に擦りつける。イメージとしては、旧石器時代の石器作りと同じ要領である。ひたすら叩き、削り、尖らせる。
──カンッ。
──カンカンッ。
思ったよりも硬い。いや、それだけならいいのだが、問題はまったく刃がつかないことである。そもそも俺は原始的な石器作りの経験がない。YouTubeでサバイバル動画を見たことがある程度で、実際に作れるかどうかは別問題なのだ。
「うーむ、これは思った以上に難しい……」
だが、その時だった。
ふと視線を向けた先に、異様な輝きを放つ黒い石が転がっているのを発見した。
「……なんだこれ?」
俺はそれを拾い上げると、試しに別の石と打ち合わせてみた。
──カンッ!
その瞬間、スパッと鋭利な破片が飛び散った。
「おおっ!?」
驚いて破片を拾い上げると、それは異様なまでに鋭利だった。まるでプロの研磨職人が丹念に仕上げたナイフの刃のように、光を反射している。
「……なるほど、これは使える!」
俺はこの石を加工し、即席のナイフを作ることにした。幸い、石そのものが削れやすい性質を持っており、少しずつ形を整えていくと、見事にナイフらしい形状になった。
「よし……あとは、持ち手をどうするかだな」
ここで新たな課題が生まれた。
「……この辺にいい感じの紐とかないか?」
木の枝を拾い、ナイフの持ち手にしようとするも、固定する手段がない。異世界転生なら「アイテムボックス」や「クラフトスキル」などで解決するのだろうが、あいにくそんな便利機能は存在しない。
そこで俺は、森の中を歩き回り、使えそうな蔓を探した。そして、やがて発見したのが──
黒い蔓だった。
「おお……これは?」
それは普通のツタとは異なり、やけにツヤがあり、妙にしなやかだった。試しに引っ張ってみると、驚くほどの強度がある。
「これ……めちゃくちゃ丈夫じゃないか?」
試しに石で切ろうとしても、まったく刃が立たない。それどころか、少し力を入れすぎたせいで逆にナイフの方が欠けてしまった。
「……おいおい、ナイフより強いのかよ」
とはいえ、これなら武器の柄を巻くのに最適である。俺は黒い蔓を適当な長さに切り、ナイフの柄にしっかりと巻きつけた。
「……おおお……!」
完成したナイフを手に取った瞬間、何とも言えない感覚が俺を包んだ。
──手に馴染む。
まるでこのナイフが、最初から俺の手の一部だったかのような感覚がある。異様なまでのフィット感と安心感。
「これ、ただのナイフじゃないな……」
そして、俺はさらなる欲望に駆られた。
「槍も作れるのでは?」
俺は長めの枝を拾い、その先端に例の鋭利な石を括りつけた。黒い蔓で固定し、さらに石のバランスを調整していく。
──数時間後。
「できた……!」
見事な槍が完成した。ナイフ同様、手に持った瞬間、しっくりと馴染む感覚がある。
「……これ、絶対ただの素材じゃないだろう」
異世界の植物や鉱石には、特殊な力が宿っているのではないか? そう考えた瞬間、俺は鳥肌が立った。
俺は異世界の秘密を、少しずつ解き明かしつつあるのかもしれない。