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57 生命の種

 村に流れる風は穏やかで、畑の作物は順調に育ち、村の住民たちはそれなりに充実した生活を送っていた。つまり、問題が起きるには最適な環境が整っていたということだ。


 「──また増えた」


 俺は頭を抱えた。


 異世界に来てからというもの、驚きの連続だった。魔素が流れる土、発光する植物、自己修復する木材、そして六本足のウサギ。だが、最近になって最も頭を悩ませているのは、ウサギたちの「繁殖力」についてだった。


 「生命の種」なるものを使った繁殖研究が進むにつれ、ある奇妙な現象が観察されるようになった。ペアになったウサギたちは通常よりも急激に成長し、わずかな時間で新たな個体を生み出してしまうのだ。


 「これはさすがにおかしい」


 俺は目の前に並んだウサギたちを見ながら呟いた。もともと六本足のウサギは異常な進化を遂げており、一部は知性を持つまでになっている。たとえばルナのように。


 ルナは腕を組んでふんぞり返り、ウサギたちを見下ろしていた。


 「ふむ。こうも簡単に増えるのは、ちょっと問題ね」


 「お前が言うな」


 ルナは元々ウサギだったのだ。今や人型になり、言葉を話し、こうして俺に意見を述べるようになっているのだが、元は彼女も繁殖のサイクルの一環だったわけで、どこか説得力に欠ける。


 「でも、これってすごくない?」


 興味津々の声で割り込んできたのはセリアだった。彼女は魔素の研究に余念がなく、今回の生命の種の影響にも強い関心を抱いているようだった。


 「普通、繁殖には時間がかかるわ。でも、この生命の種を使うことで、異常なまでに成長が促進される。これは魔素の流れに直接影響を与えている可能性が高いわね」


 「つまり、魔素による生命の加速が起きているってことか?」


 「そう考えるのが妥当ね。しかも、ウサギだけじゃないわよ?」


 セリアの言葉に俺はぎょっとした。


 「……まさか」


 「ええ。知的生命体にも影響する可能性があるわ」


 俺はじっとセリアを見た。彼女は相変わらず冷静な表情を浮かべ、淡々と事実を述べている。


 だが、もしこの影響が俺たちにも及ぶとしたら?


 「つまり……」


 俺は口を開いた。


 「もし俺たちが生命の種の影響を受けたら、通常の生殖活動とは違う形で増える可能性があるってことか?」


 セリアはにっこりと微笑んだ。


 「そういうことよ」


 俺は深く息を吐いた。これは厄介な話になってきた。


 ウサギたちはすでに新しい個体を生み出し始めている。これが知的生命体にも適用されるなら、もしかするとペアになった相手と魔素が共鳴し、何かしらの変化が起きるかもしれない。


 ──たとえば、俺とセリアの間で。


 「ちょっと待て」


 俺は改めてセリアを見た。


 「俺たちが一緒にいることが多いのも、もしかして……」


 「さあ? どうかしら?」


 セリアは微妙な笑みを浮かべるだけだった。


 俺は恐る恐るウサギたちに目を戻した。彼らは相変わらずのんびりとした表情で、次々と増えていく。


 ──これがただのウサギの話で済めばいいのだが。


 俺は村の空を仰いだ。異世界はいつも驚きに満ちている。そして、その驚きがどれほど厄介なものであるか、俺はそろそろ学ぶべきなのかもしれない。

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