56 村の防衛強化
異世界というのは、実に油断ならない。
朝目覚めれば魔素を含んだ霧が村を包み込み、昼には奇妙な光る花が咲き乱れ、夜になればどこからともなく魔獣が這い寄ってくる。昨日は巨大な牙を持つ鹿のような魔獣が畑を荒らし、今日は空を飛ぶ黒い影が井戸の水を凍らせた。次は何が来るのか、考えるだけでも胃が痛くなる。
俺の住むこの村は、異世界にしては妙に秩序があり、六本足のウサギが農作業をし、人魚が陽光を浴びながら散歩し、エルフが魔法を研究し、獣人の鍛冶師が「もっと火力を上げろ!」と叫びながら鉄を叩いている。
だが、そんな平和(といっても混沌そのものだが)も、魔獣どもが増えてきている以上、長くは続かない。
「お前ら、戦う準備はできているか?」
俺は村の中心で声を張り上げた。
すると、元六本足ウサギのルナが耳をぴくりと動かして「準備? 何それ?」と首を傾げる。おい、頼むからそこから説明させるな。
「つまりな、村を守るための訓練をするぞって話だ」
「ほう」
腕を組んで頷いたのは、獣人の鍛冶師である。相変わらず筋肉を誇示するポーズを取るのが好きな男だ。彼が村に住み着いてからというもの、俺の平和な鍛冶場は「炎と筋肉の祭典」へと変貌してしまった。
「村の防衛を強化するなら、まず武器を強くせねばならん!」
「まあ、それもそうだが……」
「というわけで!」
獣人鍛冶師はどこからともなく巨大な斧を取り出した。
「魔獣を一撃で仕留めるには、こういう力強い武器が必要だ!」
「いやいや、村のみんながそんなバカでかい斧を振り回せるわけないだろ!」
「ではどうする?」
「……ゴーレムを使う」
俺がそう言うと、獣人鍛冶師は「なるほど」と頷いた。彼もゴーレムの有用性は認めているらしい。
ゴーレムは村の労働力として開発され、畑を耕したり、荷物を運んだりしているが、戦闘用に改造すれば防衛にも役立つはずだ。村の端で待機していたゴーレムたちが、ゆっくりと首をもたげる。石と金属でできた彼らは、ひとたび命じられれば迷いなく動く頼もしい存在だ。
「試作型のゴーレムを前線に立たせる」
俺は獣人鍛冶師にそう告げた。
「ふむ……だが、もう少し改良の余地があるな」
獣人鍛冶師はゴーレムをじっと見つめると、「こいつらに魔素武器を持たせるのはどうだ?」と提案してきた。確かに、それはいいかもしれない。
俺たちはさっそく鍛冶場へ向かい、ゴーレム用の武器を作り始めた。斧や槍、魔素を蓄積する盾など、さまざまな武装を試しながら、最適な装備を模索する。
そうこうしているうちに、ルナが「ちょっと待って」と割り込んできた。
「戦うのはいいけど、罠とかも仕掛けたほうがよくない?」
「ほう、いいところに気づいたな」
俺はルナを見て頷いた。元は六本足のウサギだった彼女だが、人型に進化してからは知恵も回るようになってきたらしい。
「例えば、地面に落とし穴を作るとか?」
「そうだな、それもありだ」
俺たちはさっそく、村の周囲に落とし穴を掘り始めた。魔獣が近づいてきたら穴に落ちるように誘導し、その隙にゴーレムでトドメを刺す。シンプルだが、効果は期待できる。
さらには、村の入口に罠を設置し、魔素を感知したら作動する仕掛けを作ることにした。
獣人鍛冶師は「やるじゃないか」と満足げに頷き、ゴーレムたちは無言で作業を続ける。ルナは木の上から俺たちの作業を眺め、「なんだか楽しそうだね」と笑った。
こうして、村の防衛力を強化する計画が本格的に動き出した。
魔獣の襲撃は避けられない。だが、それに備えることで、村はさらに強くなれるはずだ。
俺はゴーレムの調整を終え、夜の空を見上げた。
──これで、この異世界でも生き延びられる。
そう確信しながら、俺は再び作業へと戻るのだった。




